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第十五話 傭兵の記憶

次の日、目覚めたのは昼過ぎだ。窓から差し込む光が僕の体を照らす。昨日はなんだかんだ眠りにつけたが、体には痛みと疲れが付き纏っている。起き上がるのも一苦労だ。体を起こした事でベットにもたれかかって眠っているエデンを見つけた。起こさないよう細心の注意を払ってベットから降りたが。


「起きたか。そろそろイグニの元へ行った方が良いのではないか?」


「おはよう...。イグニさんの所になにかあったっけ?」


「覚えていないのだな。いやなんて事はない。ここへ来た理由は覚えているな?」


「それはアルカナが修行としてって...そうだ!」


そうそう、町に帰る時にこんなこと言われたっけ。

『確かアルカナ様に言われて来たんだったよな。とりあえずこれで一区切りだ。明日でも顔出しついでに報告しに行ってこい。あの人寂しがりだから、頼んだぞ。』

それっぽい事を言われたが、イグニとフェーゴの表情やアルカナの性格を照らし合わせると分かる。どう見ても面倒くさがっているのが分かる。寂しがりって所が問題なんだろうな。久々に声を聞いた部下にだる絡みをしている光景が目に浮かぶ。


「早く行った方がいいね。行こうか。」


昨日、いや今日かもしれないけど、寝る前に投げ捨てられた荷物を拾うと外に出る準備は完了だ。服もそのままで寝てしまったので着替える事はない。ギルドの人達に一声かけてささっと建物を出た。街並みを駆け抜けて詰め所へ向かい、やけに大きい扉を開いた。


「どうだ!考えは変わったか?」


「だ・か・ら!騎士団には入んねえって言ってんだろ!」


部屋には言い争いをしている声が響いていた。人は三人。言い争いをしている当人のイグニとメルセナ、それと止めもせずにこの争いの行方を見守っているフェーゴだ。


「お!いい所に来た。助けてくれよ〜、こいつら警戒心ってもんがねえんだよ。」


「水臭ぇ事いうなよ、一緒に戦った仲だろ?」


「...お前と"だけ"戦ってねえよ!」


確かにメルセナは僕らと動いていたし、イグニが来た時も僕に付いていてくれてたから、そんな展開は一度も訪れていない。というかこんなことしている場合じゃない。


「あの...アルカナの所に行かないといけないんですけど。伝言とかありますか?」


「あー、そうだったな。伝言は大丈夫だ。とりあえず事件の裏にはリ・アンスロって組織が絡んでるってことと、情報掴めたら報告するってことを伝えてくれ。」


「分かりました...それで、この人はどうすればいいんでしょう?」


僕の話を聞いたメルセナは、目を輝かせてこちらへ近づいてくる。


「お前はセレストだよな。今あいつらのことについて話に行くって言ったか?」


「は、はい。後回しにできない話だし早く行った方がいいかなって...」


「...そうかそうか。ならあいつらに詳しい俺を連れて行くのが一番いいんじゃないか?うん。それがいい。そうと決まれば善は急げだ!行くぞセレスト!」


「え!ちょっと!」


メルセナに腕を引っ張られ詰め所を出てしまった。またあの場にメルセナを連れ戻すのも気の毒なので、抵抗をせずに連れられていると結局町の外まで来てしまった。


「はぁ、逃げきれたか。いやー悪いな。逃げるタイミングを逃しちまったんだよ。」


「大丈夫ですけど、そこまで嫌なら話を遮ってでも逃げれば良かったんじゃ?」


「仮にも雇い主の話を遮るなんて、傭兵の名が廃る。」


自慢げな顔で言われた。傭兵ってお金を貰えばなんでもやるって人達というイメージなんだけど、メルセナがおかしいだけなのかな。


「てか、その堅苦しい喋り方やめてくれよ。調子狂うぜ。」


「え?ああ、ごめん。それなら契約破棄すれば良いんじゃないの?リ・アンスロの時みたいに。」


「お前なぁ、そんなにバンバン破棄する奴があるか。あれはあいつらが悪いんだ。俺は契約する時に言ったんだぜ、一般の人に直接危害が出たら、この契約は無しだって。」


「そっか、信念ってやつだ、かっこいいね。」


「だろ!だから俺はこの条件を違反されない限りは、それなりに誠意を見せる。」


「そうか、それが聞きたかったんだ。その漢気!その心意気!やっぱり俺の隊に来ないかメルセナ!」


はるか上空から聞こえた声のはずだが、一言一句鮮明に聞こえるほどの声量で、声の主が誰かなどいまさら言う必要もないだろう。その人はすでに背後まで迫っていた。


「やっべぇ、走れ!」


別に僕は逃げる必要はないのだが、後ろから迫るイグニの圧に押されて何故か体が逃げようと動き出していた。その感覚に従いメルセナと共に真っ直ぐ前へ走り出したが、当然距離を開くことができるわけもなく、みるみるうちに差は縮まっていく。手を伸ばせば届きそうなほど近づかれ絶体絶命の状況だったが、一転。言葉通り逃げた先に歪門(ワープゲート)が現れ、そのまま転がり落ちてしまった。


「いてて、ここは...研究室?」


落ちた先は、アルカナの城の一角の研究室だった。見たことのある場所で良かったと思いつつ、これはたまたま目の前に歪門が作られたのか、僕らを狙って作られたのか、考えていると。


「研究室?お前の知り合いのとこか?」


「多分そうだけど...。あ。」


「なんだよ急に。後ろに誰かいんのか?」


そうだ、後ろにいる。警戒して今まで見たことがないほど冷たい目をしたエルガが僕の瞳には映っていた。


「無駄な抵抗はお勧めしません。大人しくしておく方が身のためですよ。」


「待ってくれ!別に怪しいもんじゃねえ。...いや、ホントだって。おい!その顔やめてくれ!怖えよ!セレスト頼む、説明してくれ。」


「えっと、この人はかくかくしかじかで...」


これまでの経緯を簡単に話した。


「そうでしたか。申し訳ありません。そんな事情があったとはつゆ知らず。それでは今一度。」


エルガはさっきと同じ位置でポーズをとった。違いと言えば、表情が少し柔らかくなったくらい。


「無駄な抵抗はお勧めしません。大人しくしておく方が身のためですよ。」


「いや、変わってねぇよ。ちゃんと説明してくれ。」


「これまた失礼しました。少し高揚しているので。そちらの問題をアルカナ様にお伝えした後に、私の実験へ協力して頂きたいのですがよろしいでしょうか。必ず後悔はさせないと約束しましょう。」


エルガの言葉がいつもに比べると少し胡散臭くなっていることが原因だと思うが、メルセナが耳元で『あいつ信用しても大丈夫なやつか?』と聞いてきた。エルガについて詳しいわけではないけれど、初対面なのに色々手伝ってくれたこともあり、多分大丈夫だろうとメルセナに伝えた。


「...いいぜ。ただ、俺が危険だと判断した時は、すぐにでも中断させるからな。」


「もちろんです。では、私はこの研究室で作業しているので、用事を済ませたら呼んでください。」


そう言いながらエルガに急かすように背中を押されて、研究室から出た。アルカナのある場所は見当がついているので、とりあえず向かおうと歩き出す。


「あー...。流れて来ちまったが、ここが目的地であってんだよな?つってもどこかわかってねえんだけどよ。」


「えっと、ここはアルカナっていう王様のお城なんだ。それでね、アルカナのいる部屋なんだけど...」


「いや、ちょっと待て。何そんな簡単に済ませようとしてんだ。全然話入ってこねえよ。」


メルセナは僕が話している途中に割り込むように入りこんできた。どういう意味かわからず聞いてみると、なぜ僕みたいな子供がイグニやアルカナと交流があるのか、どんな関係なのかという事だった。言わずもがな色々なことがあったわけだが、アルカナのいるであろう玉座のある部屋まで歩きながら事情を話した。


「悪い。話させた責任は取る。」


「全然大丈夫だよ。それを乗り越えるために旅してるんだ。それなら僕も聞いて良いかな?何の復讐なの?」


「よく覚えてるな。そうだ、俺は復讐するためにリ・アンスロへ潜入していた。」


――――――――――――――――――――――――

5歳の頃。俺の日常は一瞬で崩れ去った。俺は山にある小さな集落で生まれた。父と母は村の自警団へ入っていた。自然豊かでお人好しばっかなごくごく普通の集落。先に結末を言うとそのお人好しさで迎え入れた奴に裏切られたって事になる。今思えば、優しさに浸りすぎて、皆んな悪意に対する感覚が麻痺していたんだと思う。


忘れもしないあの日。農作物が一斉に実り始めて暮らしも充実しそうな時期にそいつは来た。雨の降る中そいつは『私はこの山を降りた先の街で冒険者をしている者です。雨宿りを

させていただけないでしょうか。』と言った。もちろん受け入れた。断る理由もないし、両親からは困った時はお互い様と教えられていたから。雨も上がり、その冒険者は感謝を伝え去っていった。


次の日、その冒険者はまた集落へ訪れた。『あの時の恩返しがしたくて、何か手伝えることはありますか。』と屈託のない笑顔で問いかけてきた。その時は魔獣が農作物を食い荒らしている話をよく聞いたので、それについて伝えた。すると、集落の状況や人々と話をしてすぐに解決策を思いついた。明日持ってくるといい、村を去った。


その次の日、冒険者は魔宝石を数個持ってきた。これは人の魔力を持つ生き物は入ることができ、それ以外の生き物の侵入を防ぐ能力があると言う。これを設置してきて欲しいと言われたから、集落を囲えるように置いた。効果はすぐに出た。農作物が食い荒らされることはなくなり、集落内で危険な魔獣が現れることも無くなった。これはこの冒険者のおかげだと農家の人へ伝えると、それはたちまち集落中へ広まった。その後も数々の問題を解決して信頼を得ていった。


最終日、早朝だった。眠りが浅く早起きをしてしまった俺は家族が全員眠っているのがどうも不思議な気分で、この静かさの中にいると、ここには自分しかいないような気がして少し怖くなって外へ出た。近所のお爺さんとか数少ない同じ年の子とか人を見つけて安心したかった。外に出ると結界越しに人影が見えた。いつものように冒険者が来たのだと思った。ただ違ったのは、いつもより早めに来ていたこと。


それに、やけに人数が多く見えたこと。


そこからはあっという間で、動きが統率されている兵隊のような、何度も何度もしてきたことをまた繰り返すかのような手際の良さで、集落の人間は一箇所へ集められた。何が起きたか、何をされたのかは覚えていない。団長だった親父はいの一番に反撃をして殺された。お袋も抵抗しようとして殺された。その後の記憶は残ってない。


気づけば馬車のようなものに乗せられ、どこかへ運ばれていることがわかった。少し窮屈で周りには見知った顔の人達がいた。いつも笑顔だったのに、目を虚にして俯いている姿は現実味がなくて、自然と涙が流れた。両親が殺されたからと言いたいところだが、きっとその時はこの非現実的な光景を目にして、ただただ恐怖したから、知ってる人が知らない人になったようで怖かったからだと今は感じる。それに、死というものを理解していなかったのかもしれない。


その時、馬車が急に止まった。止まったというかそのまま横に横転した。操縦席の方から叫び声が聞こえる。向かいに座った人が落ちてくる。状況を理解することもままならなかったが、一つだけわかったことがある。落ちてきた体に温もりはなく、生きているとは思えないほど冷え切っていた。


外の声も消えて、静寂に包まれる。俺は被さった体で身動きも取れず、沈黙も恐怖に変わり声を上げることも出来なかった。でも聞こえた。『おい!まだ生きてるぞ!』よく響く声だった。『乱暴すぎますよ!中に人がいるんです。もっと優しく!』爽やかな声だった。その二つの声は徐々にこちらへ近づき、真正面へ移動した。そして馬車の扉が開かれ。

―――――――――――――――――――――――――

「そこで拾い上げてくれたのが、今俺が入ってる傭兵団の団長って訳だ。その集団がリ・アンスロだって分かったのはもっと先だけどな。...何泣いてんだよ。」


「だって...もう...。」


「なんだよ、お前だけに言わすのも違うだろ。エデンも何とか言ってくれよ。ってお前も泣いてんな。」


(私が二足で立てられたなら、すぐに抱きしめているぞ。)


エデンの気持ちを代弁して僕は、メルセナを抱きしめたかったけど、軽くかわされてしまった。


「急に!?そう言うのは別に良いんだよ。この話はここで終わりだ。その王様がいる場所へ行くんだろ。お前しか場所わかんねえぞ。」


「ここだよ。」


「ここかよ!なんで目的地の目の前で立ち往生させてんだ、着いたんかなら一言言ってくれよ。」


無駄に大きな扉を開き、玉座の置かれた部屋へ足を踏み入れた。相変わらず豪華という印象だ。メルセナは目を輝かせて部屋を見渡している。


「やっと来た。ようこそセレスト、エデンそれに...メルセナとスキア。活躍見てたよ。」


「見てたって、あの場所にいたってこと?」


「いやいや、僕はいつでもセレストのこと見てるよ〜なんてね。エルガから全部聞いたよ。」


タチの悪い冗談だ。それにしてもエルガから聞いた?そんなはずないけど。もしエルガが話に来たとしても僕らを追い抜くことは難しいはずだし、そもそも研究の途中だったはず。いや、そうか。思い出した。確か僕が初めてここに来た時、アルカナがアストラルの背中の上で遠距離で話してた気がする。歪門(ワープゲート)みたいなやつで。これを使ったら可能なんだろう。


「そっか。じゃあ話すことは...ないかも?」


「え?俺の出番なし?」


「そうなっちゃうね。じゃあエルガのとこへ行こうか。研究の手伝いで呼ばれてるでしょ?今ならなんと!僕も同行します。」


「...わかった。行こう。」


エルガのおかげで話はすぐに終わった。メルセナは口を挟む隙もなく、室内を見ただけだったはずだ。一応メルセナの顔をバレないように覗き込む。まだ目は輝いているままだったし嬉しそうだから良いかな。持て余すほど大きな扉をこじ開け、研究室へ戻った。

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