第十四話 浄火
少し前に遡り、
「こりゃ避けらんねえな...。影入っとこ。」
鎖の雨が降る前に影に潜っていたメルセナ。その後の猛攻で出てくるタイミングを見失い、戦況を見ていると、なんかヤバそうだったので、急いでイグニを探しに行っていた。
(隊長殿が向かった道はここに繋がってたはずだが。)
巨大な空間から離れ、イグニが通るであろう道を進んでいく。
(それにしても、誰もいねえな。全員倒されたか?)
人気のない道を進みいくつか空間を見て回った。しかしどこももぬけの殻で、そろそろ連れて行かなきゃまずいかな〜と考えていたながら移動していると、ついにイグニを発見した。大量に人が倒れている中央に大剣を片手に立っていた。
戦闘終わりで気が立っているのかとんでもない気配を出していたので、切られないように少し離れて影から出る。
「メルセナだ!」
影から出てきた直後にイグニとの距離が急に無くなり、大剣が体へ振り下ろされようとしていた。しかし大剣は体に当たるギリギリのところで踏みとどまった。きっと名前を伝えていなければ二等分されていただろう。
「おっと悪い。戦りあった後だから感覚が研ぎ澄まされてんだ。どうした?」
「他の二人が今幹部と戦ってんだ!すぐ行かねえとやられちまうかもしれねえ。」
「そっち行ってたのか。そりゃ見つからねえわけだ。つってもやられるなんてことはねえと思うが...よし。一旦外に出るから案内しろ。」
イグニが何を考えているかわからず疑いの目を向ける。するとイグニは申し訳なさそうな顔でメルセナを見た。
「いや、正直その幹部って奴を舐めてたっつーか。俺だけで大丈夫かと思ってたんだが、フェーゴが苦戦するってんなら相当な手練れだろうし、相棒を連れてこようってだけだ。」
「本当に大丈夫かよ...。出口はこっちだ。」
時間は戻って、合流時。
「メルセナはセレストを安全な場所へ連れてけ、フェーゴはまだ動けるな?」
「当然...です。この程度の傷で止まる私ではないと隊長が一番知っているでしょう。」
ぎこちなく立ち上がるフェーゴを見て、イグニは微笑みフェーゴの背中をまあまあな力で叩いた。この隙に僕はメルセナに引っ張られて入り口付近まで下がる。
「セレスト君。よく見ておけ。これが我が隊の最高戦力かつ数多くの霊獣使の中でも指折りの実力者の戦闘だ。」
「はっ!よく言うぜ。まあ自分を信じる部下の期待を裏切ることはできねえな!獣気解放"烈火竜"!」
イグニが手を空へ伸ばすと、通路の奥から振動を感じ始める。その振動の正体を掴むべく通路の先を見つめていると、徐々に振動の正体が明らかになる。風を切り、颯爽とこの空間へ乱入したのは一頭のワイヴァーンだ。このワイヴァーンがフランなのだろう。イグニの上空へ止まると同時にイグニの姿が変化していく。片方だけのツノに炎のように赤い翼が現れる。
「俺らの方が人数は多い、だが勘違いすんなよ。俺がここに来るまで何十人と戦ったんだって話だ。」
「分かってるわ...。はあ、今更引けねえよな。俺が何事もなく切り抜けるには全員ぶっ倒すしかねぇんだよな!ならよ、さっさと、俺のための生贄になりやがれぇ!」
エグゼから数え切れないほどの鎖が伸びてくる。
「〈操制火〉。」
魔法を唱るとイグニの手のひらが燃え始めた。火がついたことを確認し、その手を大剣へと当てる。すると、そこを中心に大剣全体に火が燃え広がった。大剣を構え直し、伸びた鎖を見極めて一太刀で鎖を弾き飛ばした。鎖も燃えた大剣に当たったことで引火し、燃え始めた。
「燃えるだけか?いやでも隊長格のユニークがそれだけな訳ねえよな...。っていやいや、鎖が燃えるわけねえだろ!なんだよこれ!」
エグゼは鎖を乱暴に振り回したが、火は一向に消えそうにない。それどころか火の勢いは変わらぬままエグゼに向かって燃え広がり続けている。そしてその鎖が地面へ当たった時にその周囲にも火が引火していた事を見つけたエグゼは、火から離れてイグニへ話しかける。
「消えねえ火か。思い出したぜ。前にここの組員が噂してたんだよな。お前のユニークについて。」
エグゼは鎖の火がついた部分だけを切り離した。燃えた鎖はそのまま地面に落ちる。その火も落ちた場所が岩肌の地面であるにも関わらず、その場所を中心に火が燃え広がり始めた。
「確かこの魔法はどんなものにでも燃え移り、お前の魔力が尽きるまで消えることのない火を生み出す。だったか。」
この空間唯一の通路に鎖が張られる。
「これしかねえなぁ、なあ、ここの壁にも火がついたってことは本当になんにでも燃え移るんだろ。今通路を塞いだ。このままだとすぐ燃え広がっちまう。全員火傷じゃ済まねえな。」
「あー大体正解。でも肝心なこと聞き逃してんな。」
鎖の火は地面へ燃え移る。火の勢いが増しながら全体へ燃え広がる。ように見えたがそんなことはなかった。まるでその火自体に意志があるかのように僕たちの周りを避けて燃え広がる。そしてそのまま鎮火していく。だがエグゼに向かう火は収まることなく燃えていた。
「肝心ってのはこれだ。この魔法はお前の言った他に、出した火をどんな道筋で何に燃え移るか俺が好きに操作することもできんだよ。」
「そして君はもう一つ間違えている。この場を全て燃やしたとして、残るのは隊長だけではない。」
フェーゴがイグニの隣へ立つ。そしてガントレットをはめ直し構える。
「獣気解放は...してるな。いくぞ。」
イグニがフェーゴの背中は手を当てると、背中には火がつき徐々に体を包んでいく。しかし即座に火は収まら始める。いや収まるというよりはフェーゴの体へ吸い込まれたように見えた。全ての火がフェーゴへ吸い込まれ姿が鮮明に見えるようになる。そこには髪の先や生えた耳の先に炎を帯びた緋色に輝くフェーゴの姿があった。
「さっき倒したからって舐めねえ方がいいぜ。今のこいつは俺よりちょっと弱いぐらいだ。」
「合わせろロガ!」
フェーゴの霊獣であるロガにも火を移す。フェーゴと同様に火を吸い込み炎を帯びた。そして合図と共に二人同時にエグゼへ接近。卓越したコンビネーションでエグゼを追い詰めた。そんな活躍を何も出来ずに見ていることしかできない僕です。
「僕達と戦っていた時とは比べ物にならないぐらいに動きが変わってるね。」
「まあ火を取り込んでたのもあんだろうけど、元からこんなもんじゃないのか?あれは俺達を庇いながら戦ってただけで。」
本当にそうなんだろう。こんな状況になってしまうと酷く自分の無力を痛感する。だからといって何かを諦めようなんて考えはしないけど...これはチャンスなんだ。人間同士の本気の戦いを間近で見る機会なんて生まれてこの方なかった、まあそもそも戦う理由がなかったし。でも、もう目を逸らす事は出来ないんだ。これから幾度となくすることになるであろう真剣な戦い。今日からはしっかり向き合おう。
「おいおい!動き変わりすぎだろ!」
エグゼは二人の猛攻を鎖で精一杯いなしている。だが、それに合わせて二人の攻撃のペースが早まり、防御の間に隙が生まれる。その隙を見逃すことなく鋭い一撃を叩き込んだ。体に鎖が巻かれているから決定打には欠ける。
「がっ...痛ってぇ。っざけんなよぉ...。」
鎖を突き刺すように伸ばすことでフェーゴとロガを吹き飛ばす。そしてこの空間を二分するように鎖で壁が作られた。エグゼの姿は見えなくなった。
「お前ら、鎖から離れとけよ。」
「セレスト君は可能ならば盾を出しておけ。」
少し体調も良くなってきたし目の前に盾を二つ展開する。そして何をするのか見ていると地面から手のひら大の石を拾い上げ、燃えている大剣へ近づけて石へ火をつけた。そしてその石を鎖へ投げる。すると鎖の壁へと燃え広がり炎の壁へと変わった。
「向こうにも火を伝わらせてんだけど、諦めて魔法解いてくんねえかな。お!解けた...」
炎と共に消え去った壁の向こうには、見覚えがありすぎる鎖の球体と、壁や天井へとめどなく突き刺さり、はねかえっている鎖が見えた。
「すげぇなこれ。おいフェーゴ、これ避けれるか?」
「この技は二度目です。避けることなど容易い。」
その言葉通り繊細かつ大胆な動きで鎖を掻い潜り球体まで接近していた。イグニは鎖を避けながらフランへ縮小をかけて小さくさせる。そしてフェーゴの方へ進み始めた。
「〈解放〉。」
フェーゴは拳を鎖の球体へ向ける。拳は魔法と共に燃え上がり球体を燃やした。フェーゴの火は小さくなっていたが、成果はあった。エグゼも火には流石に耐えることができなかったのだろう。魔法を解いて警戒しようとしていたが、遅かった。解いた瞬間に既にエグゼの体はフェーゴによって打ち上げられていた。
「また...やりやがった...。許せねえ絶対に許さねえ...。」
憎しみの目で二人を見ていたエグゼは、既に背後へ回った人物に気づく事は出来なかった。
「あいつらばっか見てんじゃねえよ。妬いちまうだろ。」
エグゼの背後から全力で大剣を振り下ろす。もちろん側面を向けて。その勢いによってエグゼは地面に叩きつけられる。飛び回っていた鎖も消滅した。戦闘の緊張が解けて、体の力が一気に抜けるのを感じた。
「隊長殿、こいつ本当に生きてんの?やばそうな音が聞こえたけど。」
「大丈夫だ。俺が力加減をミスるなんてことするわけないからな。うん。」
イグニはエグゼを魔法で拘束した。そしてフェーゴへ担がせてこの空間を出た。
「後は救助だけだ。さっさと助けてイヴァンまで帰るぞ。」
その後、鉄格子の檻のあった牢屋のような空間へ向かった。あの時に魔法で作られた壁は崩れ去っていた。混乱している人達へもう大丈夫という事を伝えると、安堵して泣き崩れる人やひたすらに感謝を伝える人など反応は様々だ。その中には路地裏で見た少女が母親と抱き合っている姿見えた。母親と過ごせていたのは不幸中の幸いと言えるだろう。人々が落ち着いた頃に先導して町へと帰った。自室に戻れたのは空が明るくなり始めた頃で、体の痛みを感じながらも倒れるように眠りについた。




