第十二話 潜入
イグニは差し出された手を力強く握りかえした。
「星竜騎士団騎竜隊隊長ではなく、イグニとしてお前を雇おう。報酬は働き次第だ。手始めに名前と本当の職業を教えろ。」
「丁寧にどうも。俺はメルセナ。商人ってのは嘘で本当は傭兵をしている。他には?」
すました顔で言っていたが傭兵だったらしい。それに気づいていたイグニはすごいのだが、傭兵ってそんな簡単に名前とか教えていいのだろうか。
「なぜ急にこんな態度をとる?何が狙いだ?」
「あいつらが俺との約束を破った。つまり俺を裏切ったってことだろ?ムカつくからやり返したい。そんだけだ。」
「...十分だな。次に犯人に関する事を教えてくれ。」
「あいつらは犯罪組織リ・アンスロ。金のためなら何でもやる馬鹿どもだ。」
「え、アビス・グラジオラスじゃないの?」
「...なんだそれ?聞いた事ねえな。」
思わず聞いてしまった。今まで聴いていた話から完全にアビス・グラジオラスに関係していると思っていたが、母さんの件とは別なのか?それとも本当は知ってるのに隠してる?この人を信用することはまだできない。気を張って自分で確かめないと。
「それよりもだ。その子供が連れ去られた場所に心当たりがある。案内してやるぜ?」
「へえ?そりゃ好都合だ。ぜひそうしてもらいたいな。」
「勿論。ただし一つだけ条件がある。行くならここにいる奴だけだ。」
「待ってよ!ここにいる人なんて僕を入れても4人だよ?」
イグニ、フェーゴ、メルセナそして僕の4人。連れ去った人間を置いておく場所なんて、大抵敵の拠点みたいなのに決まってる。そこを攻めるとするならこの人数じゃあまりにも少なすぎる。
「いや、これでいい。俺も人は少ないほうが動きやすいからな。」
「私も同感だ。大勢で行って救助する前に見つかってしまっては、連れ去られた人々が何をされるか分からん。」
「じゃあ決まりだ。細かい事は移動中に話すから、戦えるように準備してこい。すぐに出るぞ。」
流れるように話は進み、結局行くのはここの4人だけ。まあ隊長と副隊長だし?二人の全力を見たことはないけど多分強いはず。別に強い敵と会うことが決まってるわけじゃないし...大丈夫、大丈夫。メルセナは知らないけど。すぐに武器などの持ち物の点検を済まして町を出た。
「今から向かうのは、この辺りを占めてるあいつらの支部だ。そして組織の幹部が一人いる。こいつをどうするかが一番大事だな。」
あ!フェーゴの後ろに狼が付いてきている。霊獣なんだろう。それに気づいて他の二人も見てみたが、特にそれらしき子は連れていない。それにしても、犯罪組織の支部か。これだけでもいい気はしない。でもこんなこと考えていても仕方ないのも分かっている。参加する以上足を引っ張らないように気合い入れていかないと。気分を入れ替え軽く頬を叩く。
「ふむ。ならば別れて行動するのが良いだろう。捕えられている人々の救助と組員との戦闘及び拘束の二組に別れる。」
「なら案内できんの俺しかいねえし救助確定かよ。まあ、しゃあねえか。終わったら戦闘にも参加させてもらうぜ。」
「なら俺は戦闘係だ。」
「私とセレスト君も救助係でいいですね。救助を終えたら隊長へ合図を送るのでそれまでは暴れ過ぎないでくださいよ。」
「分かってるって。少し騒ぎを起こすぐらいにしとくわ。」
「話は終わりだ。止まれ。」
かなり離れた位置にあるのかと思ったが、そんなことはなかった。門を出てすぐ近くの森林に入ると古びた一軒の小屋が立っていた。とても支部とは言い難く人間がいるのかも怪しい。
「黙って待ってろ。」
メルセナは耳打ちするほどの声で言う。3人を待たせ、小屋へ近づくと今にも壊れてしまいそうなドアをメルセナは乱暴にノックする。
「俺だ。」
メルセナは誰かへ話しかけると、真っ暗だった扉の向こう側から光が溢れ始める。扉がひとりでに開きだした。メルセナはついて来いとセレスト達へハンドサインを送り、小屋の中へ入っていった。
「お疲れ様です!今日はこちらでお休み...」
部屋の中から声が聞こえたが、急にプツリと消えた。恐る恐る部屋の中を見るとメルセナとなぜか倒れているローブを着た人、それに明らかに外見とかけ離れている内装...というか洞窟が広がっていた。これも魔法なのかな?
「そうだ、言い忘れてたが誰も殺すなよ。できれば拘束最悪気絶だ。」
「へいへい、言いつけは守るから安心してくれ。」
「よし。ここからは別行動だ。救助優先で動けよ。」
イグニはここへ来る途中バレないように見て回ると言っていたがどうするのだろう。そう考えていると突然倒れている人のフードを脱がし被り始めた。どうやら変装して回ろうとしているようだ。
「...行くか。こっちだ。」
洞窟内にはいくつもの通路がある。この様子だと誰かの案内がないと目的地には到底辿り着けそうに無い。迷いなく進むメルセナの後ろを足音を立てないようについてゆく。エデンが心配で見てみると普通に歩いているのに音一つ鳴っていない。
「それどうやってるの?」
「無音と言う魔法だ。使っておけ」
エデンへ感覚共有を使い魔法の感覚を覚える。自分へ魔法を使ってみる。すると、普通に歩いても足音が出なくなっていた。軽く壁を叩いてみたがその音すら聞こえなくなっていた。
「 」
「...声も消えてるぞ。」
一度魔法解く。
「まあ、解こうと思えば解けるし良いね。ありがとう。」
「前方に敵だ。構ってやる時間はねえのに倒さなきゃ進めねえ。そんな時は...」
通路の先の空間には巡回中らしき敵が二人。それに気づいたメルセナは首筋に手を当てる。すると服の中から蜥蜴が手の甲へ登ってきているのがみえた。
「獣気解放"影蜥"」
魔法を唱えると、メルセナに尻尾が生え、顔周りが鱗に変わり、爪が鋭くなっていく。
「なんか副隊長殿にも疑われてるみてえだし?信用してもらえるように頑張らさせてもらうぜ。〈影〉。」
魔法を唱えると同時にメルセナと地面の影の境目が徐々に消えてゆき、完全に消えたあたりで足元の影に吸い込まれた。だがメルセナが消えただけでなにも起きる気配はない。すると向こうの部屋からこちらへ近づいてくる足音が聞こえてきた。体を隠せそうな隙間を見つけ入りこむ。念のため魔法を放てるよう準備をしておこう。
「この辺から変な感じがしたんだよな。」
敵の動向を伺っているとついに姿が見えた。他の人同様ローブ着ている二人組だ。そして今隠れている隙間へとどんどん近づいてきている。
「〈光〉っと。よっ!」
敵の方からメルセナの声が聞こえたと思い見てみると、なぜかメルセナが二人組の後ろで強引に肩を組んでいる。背後に人間がいることに気づき振り返っていたが、声を出すより先に一人は頭突き、もう一人は尻尾で叩きつけ気絶させていた。
「これが俺の相棒のユニーク〈影次元〉。影に潜って移動できる。」
メルセナは説明しながら岩の隙間の影に触れると、指先が影の中に入るところを見せてくれた。そしてメルセナの霊獣、スキア?を元の位置へ戻すと、獣気解放で出た特徴が少しずつ薄まり消滅した。
「助かった。この調子で先へ進むぞ。」
その後は敵と遭遇することもなくスムーズに奥へ進むことが出来た。すると三つほど部屋を抜けた辺りで響く声が聞こえた。
「家族に会わせて...。ここから出して...。」
声の方向へ進むにつれて段々と鮮明に聞こえるようになる。きっとこの先の空間にいるはずだ。出来るだけ早く慎重に進むと鉄格子が見え、人が閉じ込められている牢屋があった。これ以上先に道はなくここで行き止まりになっている。
「連れ去られた方達を発見。救助活動に移るぞ。皆さんは扉から離れて。セレスト君は私に無音を掛けてくれ。」
「え?...分かりました。〈無音〉」
感覚は一度目で掴めたから難なく発動できた。魔法で音が消えたフェーゴは腰についている物を手に付けた。あまり気にしてなかったので気が付かなかったが、小さなガントレットがぶら下がっていた。手のひらの上で収まるほどの大きさだが、フェーゴが少しいじると拳より一回り大きいほどへ変わった。そのガントレットを手にはめ鉄格子を全力で殴ると静かに扉の形が変わってゆく。
「力技すぎるだろ...」
扉が完全に破壊され、出入りが自由になった。フェーゴが喋ろうとしているので急いで魔法解く。泣いてる人、感謝を呟く人、捕まっている人の多くは若い印象を受けた。
「あとは今来た道を通って町へ戻るだけだが...妙だな。」
「妙って何がですか?」
「そりゃ、ありえねえだろ。途中から明らかに人気がなくなったし、牢屋の周りにも一人も居ねえ。」
確かにここまで来て、遭遇したのは初めの空間にいた二人だけ。その他の空間は警戒はしてたものの、何事もなく進むことが出来た。人がいた痕跡は残っていたのに。
「おいおい、それマジで言ってる?あんたらの隊長さんのせいなんだけど分かってんの?。」
唯一の出口につながる道に人が立っている。
「構えろ!こいつが幹部の一人だ!」
「お、メルセナじゃん。寝返った感じ?まあ俺らのとこいた方がおかしいよな。まあ、ここじゃ戦んねえよ。商品に傷つけたら怒られんの俺だぜ?広い部屋あっからそこでいいだろ。」
「こちらも人を傷つけてしまう可能性のある中戦うのは難しい。好都合だ。メルセナもいいか?」
フェーゴは二人の間に割って入った。メルセナの武器を無理やり下ろさせる。
「チッ!さっさと行け!」
「話はまとまったな。とりあえずそっから出てもらいたいんだけど。」
何が相手の逆鱗に触れるか分からないので警戒は緩めずにとりあえず部屋から出る。捕まった人達以外が空間から出ると幹部の魔法によって空間の入り口が塞がれ、何かの宝石が壁に打ち込まれると打ち込まれる前に聞こえていた人々の声が急に途絶えてしまった。
「扉壊されてっからこうするしかないんだよな。まあいいけど。ちゃんとついてこいよ?」
なぜか微笑んでいる幹部へ嫌悪感を覚えた。しかしここまで来ている時に周りの空間も見ていたが、どの空間も戦うことの出来るほど広い場所はなかったはず、そう考えながらついて行くと途中の通路の壁の一部に幹部が手を触れた。すると壁が消え、その先は整備のされていない通路が現れた。新たな通路を進み、ついた先は大きめの屋敷が丸々入ってしまいそうなほど巨大な空間が広がっていた。
「隊長さんが来る前にカタつけなきゃなんねえな...。もうスタートでいいか?」
「勿論。素早く終わらせて、人々を解放してもらう。」
敵の幹部が前方へジャンプしながらこちらへ向き、目が合う。こちら側は武器を構えているが、相手は構えるどころか余裕そうに天井を見上げていた。
「いいねぇ!じゃあ初めっから使うわ。獣気解放|"鎖手"《シーダ》!」
幹部が叫ぶと同時に、天井から二本の鎖が幹部の体へと吸い込まれるように巻きつき鎧のように変わってゆく。巻き切れていない鎖は重力に反して、幹部の背後に漂っている。
「隊長を待たなければ怒られそうだが、そこまでの余裕はない。皆、戦闘体制につけ。これより敵幹部との戦闘を開始する。獣気解放"炎狼"。」
フェーゴの獣気解放。狼の耳がついているのは分かるが他の人より変化が少ないように感じる。あと、髪が少し伸びてるような気がするぐらいだ。自らの拳を合わせ、気合を入れている。
「これは復讐だ。覚悟しな。獣気解放"影蜥"!」
「罪のない人達を傷つけるなんて事。僕は絶対許せない!獣気解放"聖馬"!」
予定とは違う戦闘。僕の戦力はあまり期待されてないはず。足を引っ張らず出来るだけ敵を消耗させられたら御の字かな。捕まってる人達をできるだけ早く助けられるように頑張ろう。さあ、戦闘開始だ。
魔法
〈無音〉
使用者が生み出した音を消す。
声、足音、その他諸々の音が消える。




