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第十一話 状況が変わる

セレストがイグニと訓練を始めて数日経った。獣気解放の継聖馬(エデン)続時間も始めは4分ほどだったが、10分、15分と少しずつではあったが伸びてゆき、今では大体30分は維持できるようになった。そして、ついに今日からは戦闘訓練が始まる。


「〈獣気解放〉聖馬(エデン)!」


セレスト翼が生え光輪が浮かび上がる。目の前には準備運動をしているイグニがいる。


「よし!準備完了。それじゃあ...試合開始だ!」


前回同様イグニは急に仕掛けて来た。二人の距離は一瞬で縮まり、既にイグニの大剣の間合いに入る。予想はしていたので避けようと足を動かすと、今までとは比べ物にならないくらい体が軽く、間合いから外れることができた。


「動きやすい!これならイグニさんにも太刀打ちできるかも。」


「ぼーっとしてんなよ!」


イグニは逃げるセレストをものともしない。即座に間合いに入り込み、はっきり聞こえる程大きな風切り音と共に大剣が振り下ろされた。今度は避けることができず必死に受け流すしかない。


「攻撃しなきゃ敵は倒せねぇぞ!」


剣を振る速度が加速し防戦一方になってしまう。切り上げ、切り下ろ、突き、薙ぎ払いなど様々な攻撃を立て続けに受けるがギリギリで回避する。どう反撃しようか考えていると、突然イグニは距離を取り、大剣を大ぶりに構えこちらに突進してくる。ここだと思い、魔法を唱えようとするが、既に目の前に斬撃の魔法が飛んで来ていた。危機一髪で剣で防ぐことができたが、その後ろにはイグニ。体制を変えることができずやむを得ず両手で剣を支え、受けるしかなかった。


「お、重いッ!」


「乙女に重いは禁句だぜ!」


剣と大剣がぶつかる。衝撃が剣を伝い、支えていた手が痺れる。これ以上は耐えられないと感じて咄嗟に剣を手放しイグニから距離を取る。剣は地面に叩きつけられ砕けてしまった。


「あらら、壊れちまった...。そういやエデンのユニークはどうした?使えんじゃねえか?」


「まだ判明してないんですよ。エデンも分からないって。」


「へー。まあ、使えねえならいいか。じゃあ今度は魔法も使えよ。忘れてただろ。」


「いや〜、忘れてたっていうか、使う暇がなかったというか...」


「いいっていいって。」


イグニはセレストの肩を軽く叩き笑った。謙遜しているわけではないのだが。そしてイグニが手を叩くと、どこからともなくフェーゴが新品の剣を持って登場する。完全に執事とお姫様である。剣を受け取ったイグニはセレストへ投げ、大剣を構え直す。


「構えろセレスト!戦闘再開だ!」


「 〈石爆〉(ストーンブラスト)!」


今度は先手を取るため、早めに魔法を放つ。飛んでいった石は大剣で防がれたが、着弾と同時に爆破させる。


「爆発もすんのか。面白え!」


「そこだ!」


爆発で動きが一瞬止まった。セレストはその隙を逃さずイグニの背後へ回り込み剣を振り下ろしたが、イグニも大剣を背中に合わせ防ぐ。すぐにイグニの正面に回ると、大剣を後ろに回した勢いのまま前へ切りかかっていた。ギリギリで防ぐことができたが勢いに耐えられず、弾き飛ばされてしまった。


その後も魔法を織り交ぜながら戦い、優位に立てた場面もあったが、体力の差によるセレストの白旗で実戦訓練の幕は降りた。


「楽しかったな!特にあれだ、手の魔法。昔、熊が似たような魔法使ってきたこと思い出したぜ。」


「熊がこんな魔法使うんですか...怖」


「お前でも倒せると思うぜ。それよりもだ、もっと攻撃の選択肢増やした方がいいぞ。」


「選択肢と言うと、新しい魔法とかユニークとかってことですか。」


「そうだ。特にユニーク。獣気解放してる時はやっぱユニークがしっくりくるからな。慣れといて損はねえぞ。」


「分かりました、またエデンと練習してみます。」


「おう。じゃあ今日は終わりにするか。いや、今日ならユニーク探し付き合ってやってもいいぞ。」


イグニはすでに門の方へ歩き出していたが、セレストへ別の案を問いかけた。しかし返事が聞こえない。不思議に思い振り向くと、セレストは既に倒れていた。


「時間切れか。フェーゴ、戦い始めてからどれだけ経った?」


「42分32秒です。」


「いい感じだな。セレストが起きたら伝えといてくれ。今日の訓練は終わりだってな。」


イグニはエデンに言い渡すと町へ戻った。倒れたセレストをエデンがいつも通り翼で包む。その後道ゆく人を眺めていたが、何人通ったか数えるのをやめたあたりで翼の内側で動きがあった。


「ふあぁ。また倒れちゃった。でも今日はなんか調子がいいんだよね。」


「起きる時間も早くなってるぞ。慣れてきている証拠なのか。」


「そうだといいけど...それにしても、イグニさんに手も足も出なかったな。調子良いしこのまま依頼でも受けようかな。」


「受けるなら魔獣討伐だな。実践は定期的に行わなければ、当然腕が鈍ってしまう。」


「なら、早速選びに行こう!」


ギルドへ着き、依頼書を選ぶ。


「これだ!」


向かった先は町から少し離れた森。ダンプフォレストと呼ばれる場所だ。名前通り周囲はジメジメしている。木々の隙間から入る光は少なく、どことなく暗い雰囲気に包まれている。気が滅入るが依頼の目的はすぐに見つかった。


「この中から探すんだよね...」


至る所にキノコ、キノコ、キノコだらけだ。今回の依頼の目標はレッグシュルームという魔獣で、通常のキノコに足が付いている姿らしい。これならすぐ見つかりそうと思ったが問題がある。この魔獣は普段は他のキノコと変わらず地面から生えているように擬態する。さらに危害を加えられない限り動かないらしい。


「一つずつ探す?いやいや、いっそのこと魔法で一掃しようかな...」


「だが、依頼品として提出するのだろう。なるべく丁寧に採取するべきだろうな。」


「ごもっともです...できる限りやってみよう。」


集合場所を決めて二手に分かれた。しらみつぶしにそこら中のキノコに触れていく。しかしいくつ触っても動き出すことはなく、そろそろ空も橙色に染まり始める頃だ。エデンも手伝っ、てくれたが、成果は得られていない。一度集合場所へ戻ろう。


「良いかな!?もう魔法使って良いかな!?」


「私が許可する!やってしまえ!」


「〈魔手〉!早く出てきてレッグシュルーム達!」


魔手を使って木や地面を叩きまくる。キノコに直接触れなくても、周りに衝撃を与えれば出てくるかもしれないからだ。とにかくこの調子で先へ進む。先程の場所から少し離れた所でついに希望が見える。右奥の木を叩いた時に根元のキノコが飛び上がったのが見えた。しかも一つではなく五つほどのキノコが地面から飛び出し、四方八方に散らばっていく。


「うわ、分かれた!エデンはあっち捕まえて!」


「了解した!」


二手に分かれ走り出したレッグシュルームを追う。森の中を機敏に走り回る小さい物体を捉えるのは簡単ではない。多少の段差なら軽々と飛び越えているので、目で追うだけでも一苦労だ。


「はぁはぁ、全然捕まえられない...。」


「どうしたセレスト、まだ捕まえられてないのか。」


後ろにはすでにキノコを捕まえていたエデンが立っていた。エデンの背中辺りに黄色に光る平べったい入れ物が浮かんでおり、そこにキノコ入れているようだ。


「早ッ!どうやって捕まえたの?」


「まあ、あいつを見ていろ。」


レッグシュルームの目の前が輝き、その光が集まり何かを形作る。光は少しずつ実体化して盾へと変化した。紋章や模様が浮かび上がり、光沢を帯びている。するとレッグシュルームを囲うように次々と盾が作られて地面へと突き刺さる。盾は縦に長く彼らの跳躍力では飛び越えることはできないだろう。よく見たらエデンの入れ物も盾の背面を使っている。


「そして、こうだ。」


今度は光が剣の形へ集まる。盾と同様、徐々に実体化して本物の剣のように変化した。盾に垂直に切り付けられる。弾かれると思ったが、不思議なことに剣は盾を通り抜けてレッグシュルームを切った。


「これで必要な数集まったな。帰るぞ。」


「すごく便利な魔法だね。今度教えて!」


依頼品を落とさないように気をつけながら町へと戻った。依頼品を届けるために依頼者の元へ向かう。場所が路地裏だったため多少迷ったがサインをもらい、ギルドへ帰ろうと今来た道を引き返す。辺りはすでに暗く静かだ。四つ角に差し掛かり路地から出られる道へ向かおうと、右の道の奥の曲がり角から少女が走って出てくる姿が見えた。


「夜にこんなとこ歩いちゃ危ないよ!」


周りは暗く、心配なので少し大きな声で声をかけてみた。距離が遠いせいで、口が動いているのがわかるが内容までは聞こえない。少女はこちらへ走りながら近づいてくる。距離が少しずつ縮まり、声も少しずつ大きく聞こえてくる。


「おにいちゃん!たすけて!おとうさんとおかあさんが...」


突然少女が地面に"落ちた"。地面に落ちたという表現は比喩ではなく言葉通り。まるで少女の真下に急に穴が空いたかのように真っ逆さまに落ちた。自分に助けを求めていたことを理解できたが、何に追われ何から逃れようとしたのかわからぬまま少女は消えてしまった。突然の出来事に体が固まってしまう。すると曲がり角から黒いローブを着た"人"が出てきた。感覚はイグニのものと同じ。多分認識阻害の魔法を使っている。


「あの子に何したんだ!」


「チッ!見られたか...」


"人"は見られていることに気づき走り出す。こちらではなく少女が落ちた場所へ向かって。よく見るとその場所の地面が歪んで見えた。歪門(ワープゲート)が作られているのだろうか。すくなくとも少女が落ちたのはこれのせいだろう。

"人"はそこへ飛び込み。路地裏には静寂に包まれた。


「エ、エデン!あの子助けないと...。いや、でもどこ行ったかわからないし...。完全に油断してた。僕があの時動けてれば...」


「セレスト!落ち着け。まずはイグニ達に報告するのが最善策じゃないか?」


深呼吸をして、息を整える。


「...うん。そうだね。ありがとう。」


駆け足で詰所へと向かった。すぐに着ける距離だったことは幸いだろう。詰所の扉を勢いよく開ける。騒がしかった室内に激しい開閉音が響く。何事かと思った騎士達はセレストを見る。


「セレスト君?こんな時間に...何か?」


「さっきこんなことが...」


少女が消えた事。認識阻害を使った人が関与している事。さっき起きた事を全て話した。


「事情は分かった。では隊長の元へ向かうぞ。そろそろ終わる頃合いだ。」


フェーゴの後を着いて行く。そのまま別の部屋へ移ると、そこには地下へ続く階段があった。下りると留置所のような場所へついた。大体は檻が付いている部屋だが、向かったのはその奥に孤立している取調室。扉を開けると机を挟んでイグニと商人が何か話していた。


「どうだ!考えは変わったか?」


「だ・か・ら!契約相手は売らねえって言ってんだろ!」


白熱しているイグニに釣られて、商人のテンションも盛り上がっている。互いに立ち上がり言葉をぶつけ合っていた。


「隊長。事件です。」


盛り上がっているイグニに水を差すように声をかける。事件という言葉を聞いたイグニは真剣さを取り戻し、フェーゴの話を聞いていた。話を聞き終えると商人の目の前へ立ち、睨みつける。


「...聞いていたな商人。状況が変わった。今、認識阻害を使った奴に子供が連れ去られたらしい。知ってる事を話せ。」


話を聞いた商人は態度が一変し、席についた。イグニを見る目の光が消え冷酷な雰囲気を醸し出していた。部屋に少しの沈黙が流れる。


「服装はなんだ?どんな方法で連れ去られた?」


沈黙を破って話を始めたのは、商人だった。


「服装は黒いローブ、歪門みたいなのを足元に使って落としてた。」


犯人の特徴を伝えると、商人はため息をつきながらも、なぜかスッキリとした顔をしていた。椅子から立ち上がりイグニに近づき始めた。元々いい雰囲気ではなかったがさらに不穏な空気が流れる。


「そうか。俺の方の状況も変わったみたいだ。」


「なんだ。今更抵抗か?」


「たった今、あいつらとの雇用契約を破棄する。そして運のいいことに、次俺を雇った奴には俺に答えられる情報ならなんでも話してやるおまけ付きだ。どうする?俺と手を組んでみないか?」


イグニに向かって手を差し出している姿を見ていたら、状況が変わりそうな、そんな予感がした。

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