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第八話 新たな町

セレストとエデンは、修行の一環として、まだ見ぬ町イヴァンへ向う。首都から離れ、現在山を越えようとしていた。山と言っても、斜面は緩やかで、整備された道のあるようなのどかな山だが。


「こんなふうに二人で、旅するのも久しぶりだね。」


「旅を始めたのは、つい先日だがな。」


「あれ、そうだっけ?」


最近の出来事の内容が濃すぎたせいで、かなり時間が経ったように感じていたが、気のせいだったらしい。二人で雑談をしながら歩いていると、


「誰か助けてーッ!」


突然、甲高い声が山に響き渡る。


「エデン!今の声聞こえた?」


「あぁ、探すぞ。乗れ!」


急いでエデンに跨る。エデンは少し助走をつけて空へ飛び立った。声が聞こえた辺りを見渡して、声の主を探す。すると右下に、動いている木と武器を構えた橙色の髪の少女が相対しているのが見えた。


「あそこにいるよ!戦ってる!」


少女の前方に見える木に向かって急降下した。着地出来そうな高さまで下がってきたので、エデンから飛び降りて、その勢いで少女の前に飛び出した。


「大丈夫?」


「!?どこから...。違う!助けて!ネルがあいつに...」


少女は動揺している。目に涙を浮かべながら、木の隣に目を向けた。目線の先には、小さなドラゴンが根で作られた球形の檻に捕らえられていた。あのドラゴンがネルだろうか。


「あの木を倒すんだね。」


「そうなんだけど、攻撃が効かなくて...」


少女と話していても、木は足として使っていた根を伸ばして、容赦なく攻撃してくる。咄嗟の判断で伸ばしてきた根を切り落としたが、木の元へ戻った頃には、切り落とした根は元に戻っていた。


「あれはトレントだな。地面に根を伸ばして魔力補給をしている。そこが狙い目だ。」


「じゃあ手分けして...と思ったけど。その根っこを引きぬけば良いんだよね?」 


「そうだ。」


「...あなた、誰と話してるの?」


トレントを見張っていた少女はエデンに気づいていなかったようだ。エデンを見て呆気に取られている。


「ペガサス!?」


「まあ...気にしないで。そんなことより、あの木を倒すよ。」


「作戦があるの?」


少女はセレストを期待の眼差しで見つめる。作戦というより力技で無理やりという方が正しいが、この方法で倒せるかもしれない。効かなかったらその時はその時だ。


〈魔手〉(マジックハンド)!」


空中に手が作られ、トレントを掴んだ。


「よいっしょ!」


手に力を込め、全力で引っ張った。トレントは宙に浮く。すると、足の根とは別の根が地面に刺さっているのが見える。その根も引き抜こうとしたが、根は明らかに足の根より細いのに、抜けそうにない。


「エデン!あの根、切って!」


「──もう切ったぞ。後は待っていれば枯れるだろう。」


頼むより先にエデンの〈風剣〉(ウィンドブレイド)によって、根は切られていた。


「ありがとう!じゃあ、僕らがトレントを引きつけるから、君はネル君を助けてあげて。」


「わ、分かった!」


少女はネルのもとへ走り出した。それに合わせてトレントに魔法をお見舞いする。トレントはセレストの方を向いてはいるものの、抜け目なく少女の方にも根の攻撃を繰り出している。だが、少女に根が届く前に〈魔手〉で弾き飛ばす。


「ネル!」


少女はネルの目の前へ辿り着き、持っていた短剣で根を切断した。衰弱していたネルを抱え、トレントの根が届かない位置まで避難させる。


「もう大丈夫だろう。トレントの葉が枯れている。」


「本当だ。動きもゆっくりになってるね。」


トレントはみるみるうちに枯れていき、苗木ほどの大きさまで縮んでしまった。元の姿では、幹の少し上のあたりに中くらいの穴が空いていたが、それもなくなり、普通の木と遜色ない見た目へと変わった。


〈治癒〉(ヒール)!〈治癒〉!目を開けてよ...」


トレントは、ネルからも魔力を吸っていたらしく、かなり弱っているようだ。少女はネルを魔法で回復させようとしているが、目に見える変化はない。それどころか、弱っていく一方だ。


「〈治癒〉は、体の傷を癒す魔法だ。そのドラゴンは魔力を失っている。効果は期待できない。」


「そんな...何か方法は...」


「一つあるぞ、霊獣契約だ。その娘とドラゴン次第だがな。」


確か、霊獣契約には、契約した者同士の魔力を共有するとかなんとかという力があった。それを使えば、ということか。


「ネル君を救えるかもしれない方法があるよ。」


「...教えて。ネルを助けられるなら...私どんなことでもする。」


少女の眼差しには、強い決意が宿っていた。少女に霊獣契約について説明をして、準備を始める。エデンが言うには、互いの利害関係が一致していれば、契約は出来るらしい。確かに、自分が契約した時も、ちゃんとした儀式のようなものはなかったことを思い出した。

少女が衰弱したネルを、愛おしそうに抱き抱える。


「出会った頃はネルに迷惑かけてばかりだったよね。だから、今までの分、恩返ししなくちゃ。」


「キュ...キュウ...」


少女の言葉に答えるように、ネルが消えてしまいそうな儚い鳴き声をあげた。同時に、少女の額にネルと瓜二つの角が生え始めている。少女は気づいていないようだ。


「つ、角が生えてきてるよ!」


「角?」


少女は自分の周りを見渡し、何もないことを確認すると、自らの頭の前辺りを確認した。そして角に手が当たる。そこに何があるのか、初めは理解できていなかったようだが、セレストの言葉の意味を少しずつ理解していく


「私に!?」


少女は、状況を理解できず慌てている。


「キュウ!」


少女の腕の中から、鳴き声が聞こえる。ネルは元気を取り戻した。無邪気で明るい鳴き声をあげて、少女の腕から空へと飛び上がる。体が小さいこともあり、飛ぶ姿は妖精のようだった。


「ネル!良かった...」


「キュウ、キュウ!」


「ん?あなた今、何か言った?」


「いや、何も言ってないけど...あ!それはね。」


少女に喋りかけたのは、多分ネルだろう。霊獣契約の効果について説明しておこう。


「つまり、ネルともっと仲良くなれるってことか。」


「まあ、そんな感じ?」


霊獣使の試験を受けないといけないといけないし、〈感覚共有〉とか〈獣気解放〉とか色々あるけど、それはアルカナに頼んでみよう。


「それで、細かいことは僕の知り合いが...」


少女は突然、後ろに倒れ込んだ。


「大丈夫!?」


少女の元へ行き、体を揺すってみたが、反応はない。セレストは表情が曇り、身動きがとれないでいる。


「どうしよう...」


「あれ、セレスト!こんなところで何してるの。」


少女を助ける方法が思い浮かばず、途方に暮れていると、後方の上空から聞き覚えのある声が聞こえてきた。声のした方向を見ると、遠目でもすぐに分かる、星空模様のドラゴン。アストラルに乗ったアルカナがいた。


「アルカナ!この子が急に倒れて、診てくれない?」


アストラルは風を立てないよう、ゆっくりと降下して近づいてきた。アルカナはアストラルから降りて、少女を見ている。


「これはあれだよ。セレストが獣気解放した時に倒れたのと同じ。だから、待ってたら起きるよ。」


「良かった〜。安心したよ。それで...この子、さっき霊獣契約したんだよね。だから、色々教えてあげて欲しいな〜。」


「......わかった。じゃあ、一度僕の家で様子を見るよ。でも、修行は忘れずにすること。」


「もちろん!わかってるよ〜。」


アルカナは険しい顔をしていたが、アストラルに少女を乗せて、城の方へ戻っていった。とてもいいタイミングでの登場だった。初めて会った時も襲われる直前だったし、ちゃんと自分で国内中を巡回しているのだろう。巡回というよりは、暇つぶしとか気分転換とかだろうが。

少女のことは心配だが、アルカナならどうにかしてくれるだろう。とりあえず、イヴァンに向かおう。


「それにしても、なんで獣気解放したんだろう。生えてたの角だけだったけど。」


道を進みながら、先程のことで疑問に思ったことを尋ねてみる。


「セレストも私と契約した時、光輪が出ていたぞ。」


え?エデンの発言に開いた口が塞がらない。確かにあの少女も気づいていなかったし、ありえない話ではない。あの時、眠ってしまったのもそういうことだろう。ならば、霊獣契約をしたら、同時に獣気解放と同じ状態になってしまうわけだ。


「そっか。それが普通なのかな。」


「そうだ。心配しなくていい。それよりも、そろそろ見えてくるぞ。」


山も下り坂に差し掛かり、ついに向こう側の景色が見えてきた。まだ離れているが、イヴァンと思われる町も見えている。話もそこそこに、少し遅れているので急足で、町へ向かった。

入り口の門の前で検問を受けたが、特に問題もなく終わった。小耳に挟んだ話によると、例の事件のせいで普段より警備が強化されているらしい。エデンに〈縮小〉(シュリンク)かけ、町の中へ足を踏み入れた。


町を見渡すと、首都ほどではないがかなり栄えているように見える。冒険者ギルドの建物や宿泊場所、市場に至っては、かなりの人混みが発生している。ここで会う予定の人の特徴は、赤黒く短めな髪をした女性と聞いた。アルカナは、すぐに会えるよ。と言っていたが、この人混みの中から探し当てる自信はない。とりあえず探そうと町の中を歩き回っていると


「見つけました!」


前方に屈強な男が走ってきた。セレストの目の前に立ちはだかる。何事かと様子を見ていると、男の背後から大剣を背負った"人"が出てきた。人と認識できるのに、容姿が分からない。全身に靄がかかっている様だが、まるで違和感を感じない。


「ペガサスと空色髪の子供。こいつらだな。まあ、ちょっと面貸せよ。」


気づけば、前方には人、後方には屈強な男で挟まれている。人が歩き出したので、この場から逃げられる自信もなく、しょうがなくついて行く。

結局また町の外に出てきてしまった。門番も見ているではなく止めて欲しいのだが、明らかに、カツアゲとかされそうな雰囲気だ。それとも、止められないほどやばい人たちなのだろうか。


「この辺でいいか。よし、覚悟はいいな!」


「ちょっと待っ...」


「いくぜ!!」


こちらの言い分も聞かず、背中の大剣を抜き、こちらへ突進してくる。セレストは剣を急いで構える。大剣は軽々と持ち上げられ、勢いよくセレストへ振り下ろされた。その剣撃をまともに受けたら動けなくなると思い、間一髪で受け流す。そのまま反撃したが、呆気なく塞がれてしまう。


「不意打ちを受け流して、反撃か。へえ、セレストだっけか。結構出来るじゃねえか。」


「ち、ちょっと待って!あなたは誰、何で名前知ってるの。」


人はセレストの発言が理解できない風な顔をしている。すると、先程の屈強な男が慌てて人へ近寄り、何か会話を始めた。人は何かに気づき、頭の辺りを触る。無から綺麗な髪飾りが現れ、少しずつ顔が認識できるようになっていく。


「いや、悪い悪い!認識阻害外し忘れてた。」


靄が晴れ、現れたのは、赤黒い髪をした女性だった。


「アルカナ様から話は聞いてるよな。これからお前の面倒を見てやるイグニだ。よろしく!」


「よろしくお願いします...ていうか、何でこんなことをしたんですか!」


「何でって...戦ったら大体そいつのことわかるだろ?」


イグニは平然とした顔で話した。


「じゃあ続きいくぞ!」


悪い人に絡まれたと思ったが、実は味方で、しかもその人は自分を味方と知っていた上で絡んできていたという不思議な状況になってしまった。しかしこれはチャンスだ。イグニさんは自分と比べかなり格上の相手だろう。打倒アビス・グラジオラスのため、経験を積める。


「はい!よろしくお願いします!」





魔法

〈治癒〉(ヒール)

体の傷を癒す。魔力を回復させることはできない。

〈木人〉(トレント)

動く木。

足代わりの根(根足)と地面から魔力を吸う根(吸根)があり、どちらも伸びる。根足で移動できるが、移動範囲は吸根が届く範囲だけ。

根足を伸ばして攻撃する。吸根が地面の魔力を吸うから、周りの草木は枯れていることが多いため、居場所が分かりやすい。

目が見えず、地面に伸ばした吸根である程度の位置を察知して、攻撃する。

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