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序章 旅立ち

「少し話を聞いてよ」


僕は大陸の南東にある一軒家に母さんと僕の二人で暮らしてた。父さんは物心つく前に死んじゃったらしい。別に苦労することもなく充実した暮らしだったよ。母さんはよく、僕に自慢話をしてきた。「私、昔は名の通った冒険家だったのよ。」って、

もう何回聞いたかわからないけど...

僕はこの本当か嘘かわからない話が大好きで、よくどんなところに行ったのか、どんなことをしたのか質問攻めにしてた。それに母さんも嬉しそうに話してくれるから、僕も何だか嬉しかった。


そんなごく普通の毎日だったけど、ある事件が起きた。

僕はその日、母さんが買い出しで街に行くって言うから、家で待ってたんだ。その日はどうしてもやりたいことがあったからね。最近この近くにペガサスが出るって噂を母さんから聞いて、日が暮れるまで探し回った。


僕は...この判断を後悔してる。案の定ペガサスなんていなかった。もう暗くなってきたし諦めて帰ったよ。家のドアを開けてリビングに向かった。いつもなら母さんがおかえりって言ってくるのにこの日は聞けなかった。おかしいとは思わなかったよ、まだ帰ってないのかもしれなかったしね。でもそんなことなかった。



帰ってきてたよ。血まみれで倒れてた...



理解できなかった。しかも、母さんの隣に知らない人が立ってた。一目で分かったよ。犯人はこいつだって。そいつが急にこっち向いてさ、僕に気づいた。その時、母さんが「早く逃げて」って言ったんだ。今にも消えそうな声だった。そして、それが母さんの最後の言葉だった。犯人が魔法で母さんを消したんだ。唖然として動けなかったよ。

そんな僕を犯人が襲おうとしたんだけど...


「ここからは知ってるよね。君がきてくれたんだ。」


家から少し離れた森で、少年は俯いていた。

さっきの信じ難い出来事の詳細を話し終え、今まで話をしていた相手へと視線を向ける


「すまない、私がもう少し早く駆けつけてさえいれば。」


視線の先に居たのは、

純白の毛並み、天使のような翼を持つ馬、ペガサスだった。


「大丈夫だよ。だって君が来てくれなかったら、僕も襲われてた。ありがとう...」


今まで一緒に暮らしていた母を唐突に失う。それは考えていたほど、簡単に割り切れるものではない。心配をかけないように、笑顔を取り繕い、目の前のペガサスへ感謝を述べる。

そして。そのままこの場の空気と共に話題を変えた。


「そうだ!まだ名前を聞いてなかったね、僕はセレスト。」


「私の名はエデンだ。」


エデン...

純白の毛並みを持ち、神聖な雰囲気を放っているこのペガサスにピッタリの名前だと思った。しかし、助けてくれたのは確かだが、あの後何が起きたのか全く分からないまま逃げてきた。聞いてみよう。


「よろしくね、エデン。そういえば、あの時何したの?」


―――――――――――――――――――――――――

犯人がセレストに襲い掛かろうとした瞬間、後ろから強烈な光が差し込む。その緊迫した空間に舞い降りたのは、


一匹のペガサスだった。


犯人は警戒し、距離をとる。

間合いを開け、互いに相手の動きを伺う。数秒経ち、犯人は何かを唱え始めた。その時ペガサスが僕を急かすように見つめてくる。僕は、ここで行動しなければいけない。そう感じた。セレストはペガサスに願う。


「お願い!僕に力を貸して!」


ペガサスはセレストの言葉に答えるように嘶く。瞬間、体の奥底から力が湧き出てくる。何が起こったのか理解できないままペガサスを見ると、犯人に向かって嘶く。


「ここから立ち去るがいい。」


何を言っているのかわかる!?驚いたのも束の間。ペガサスの嘶きと同時に、目の前を光が包み込んだ。あまりの眩しさに思わず目を瞑ってしまった。少し経ち、ペガサスに肩を押された。目を開くと光が弱くなっていて、肝心の犯人はすでに消えていた。部屋の中は、何もなかったかのように静かだ。


「倒...したの?」


家へ帰ってきてから信じ難い出来事ばかりで、混乱している。先程の光を出したと思われるペガサスへ、辿々しく消えた犯人について質問した。


「奴はまだ生きている。早くこの場から離れるぞ。」


ペガサスの答えは望んでいたものではなかったが、今は言われた通りにするしかない。

ペガサスは周りを警戒しながらセレストを先導した。


「う、うん!」

―――――――――――――――――――――――――


「あれは霊獣契約という。人の言うところの魔獣と、人が契約を交わし互いの魔力を結ぶ。契約というより儀式に近いがな。この契約を結ぶと魔獣は霊獣になり、互いの魔力を共有することになる。魔力は万物の原動力だ。そのため共有することで使い方次第では、今までとは比べ物にならない力を出せる。」


「じゃあ、僕はそのおかげで助かったんだ...」


自分の問いの答え合わせと同時にあの惨劇を思い出してしまった。これまでは笑顔を保てていたが、少しずつ実感が湧き気付けば、セレストの頬に涙が伝っている。


「あ、ごめん...なんか涙が...」


「いや、それでいい。我慢する必要なんてない。」


「お前はまだ子供だ、子供が涙を堪える理由などあってはい けない。」 


セレストは泣き喚いた。

何故母が殺されなければならないのか。自分がもっと強ければ。たらればで話してもしょうがないことは分かっているが、今は、この感情をぶつけるしか思いつかない。その間エデンは優しくセレストを慰めた。緊張が解けたからだろう、セレストは眠りについた。時は経ち、日が上り始める。


「あれ、寝ちゃってた。」


「そのようだな。」


「そういえば...何で僕エデンと話せるのかな。」


昨日の出来事に対する不満をエデンにぶつけて、少し冷静になった。当たり前のように言葉がわかることに疑問が生じ、あくび混じりに聞く。


「ああ。それも霊獣契約の力だ。契約した霊獣とは話せるようになる」


「そして昨日言えなかったがあるんだが、この契約には問題がある。」


昨日言えなかったことについて、エデンは言い出しにくそうに話し始めた。問題とはなんだろうか。出会った時から冷静だったエデンが焦っている。


「この契約は、契約すること自体は簡単だ。しかし、契約を破棄する方法が難解で、すぐに破棄することは難しい。」


エデンは昨日とは打って変わって早口になっている。


「だが!契約破棄出来るまで出来ることは何でもするぞ!」


そこまで畏まる必要はないと思うが、エデンにも何か思うところがあるのだろう。


「何だ、そんなことか。じゃあ僕達には関係ないね。これからよろしくエデン。」


「あ、あぁ。よろしく頼む...」


思ってもいない言葉にエデンは狼狽えていた。


「じゃあ僕のわがまま聞いてくれる?」


「勿論だ。なんでも言ってくれ。」


「なら僕と旅に出よう。母さんが殺されたのは何か理由があると思う。だから、理由探しの旅に。」


今、冷静に考えてみても、なぜ母さんが殺されたのか分からなかった。物を盗みに来たなら、物が散らかっているものだが、誰もいないかったかのように綺麗なままだった。さらに、偶然目につくような場所に家が立っているわけでもない。まるで母さんを狙っていたのかのような犯行だったと思う。


「異論はない」


「やったぁ!じゃあまずはどこ行く?」


「まずは情報収集が必要だな。」


目的が決まり、二人は共に歩き出す。

一人は犯人を探し敵討ちのため。一匹は約束を果たすため。これは一人の少年と霊獣の物語





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