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エピローグ2

 旅行の前日の夜、私は御影君のお家を訪ね、念のため響子さんに挨拶をした。


「それじゃお母さん、明日から旅行に行って来ます」


 今日も響子さんはお世辞にもにこやかとは言えない表情だけど、これが怒っているのではないことはもう分かっている。御影君と二人並んでペコリとお辞儀をすると、彼女はそれを一瞥し、相変わらず歯に衣着せぬ物言いでこんな事を言った。



「避妊だけはちゃんとするのよ」



 私は真っ赤になった。

 

 いや・・この年の恋人同士が二人きりで旅行に行くんだもん、そりゃ何もしないと言えば嘘になるんだけどさ。でも言わないでよぉ。恥ずかしすぎて下を向いた私の横では、御影君が響子さんに呆れた様な視線を向けていた。



「お母さん・・もう少しオブラートに包んだ言い方できないんですか」


「大事なことはハッキリ言っといた方がいいでしょう」



 ま、まぁそうなんだけど・・。それでなくても緊張してるのに、意識させないで欲しかった。親にまでヤッてくると思われてると思うと、余計に恥ずかしいよぉ。その後の帰り道、意識しまくった私は恥ずかしくて、手を繋ぐどころか碌に彼と目を合わすことすら出来なくて、なんだかぎくしゃくしてしまった。







◇◆◇◆◇◆◇



 初日は江ノ島周辺を散策した。


 島へと続く道中には沢山のお店が立ち並び多くの人が往来していて祭りのように混雑していた。昔来たときに比べて外国人が多い事に時の流れを感じる。


「わぁ〜・・たこせんべい食べたぁい。あっちはアイス最中だって。食べたいのいっぱいあるなぁ。でもやっぱり江ノ島来たら、生しらす丼かね? でも食べすぎると夕飯食べられなくなるしなぁ・・」


「じゃあ初日はお昼は抜いて、シェアして色々食べ歩きませんか? しらす丼は気になるなら、また明日来てもいいしね」


「そっか。そうだねっ」


 他にもしらすパンとかブリュレクレープとか唐揚げにお団子・・二人で仲良くシェアして色々味見してみるのがとっても楽しくて、いつの間にかぎくしゃくしていた空気は消え去っていた。エスカーは使わず歩いて階段を登った先には、海を臨む素晴らしい眺望が広がっていた。二人で手を繋いでそれを眺め、写真を撮って、神社でお参りしてお茶を飲み、天気も良かったしとても満喫できた。



「楽しいですね」



 海沿いをのんびり歩いていると、彼はそう言った。



「うん! すごく楽しい!」


「初旅行だし張り切りすぎて写真めちゃくちゃ撮っちゃいました」


「あ、私もだよ!」


「二人の写真増えましたね」


「ねっ」



 ニコッと笑顔になった御影君に、ニコッと笑顔で返す。神様ありがとう。お陰さまで今日も平和です。



「これからどうしようか? 水族館でも行ってみる?」


「・・それもいいけど、そろそろホテル向かいませんか? 頑張れば歩いてもいけるけど、送迎バス乗った方が楽みたいですよ。ちょうど15分後にあるみたいなんで」


 ドキン。


「うん。そうだね、そうしようか。・・」


 平静を装ってそう答えてはみたものの、身体は正直で、さっきまで普通に繋いでいた手が急に汗をかき始める。このあとホテルに着いてお風呂入ってご飯食べてお布団に入ったら、いよいよ・・と考えたら、緊張でごくりと唾を飲み込んでしまって。その後ホテルの部屋に着くまで、彼と何を話したのか、あまり覚えていない。 





 駅前から送迎バスに乗って5分ほどで着いた先の小高い丘の上のホテル。チェックインを済ませてお部屋に入ると、丘の先に海の広がる素晴らしい眺望だ。泊まりで旅行なんて久々すぎて一気にテンションが上がり、トイレとかバスルームとか開けて回っては、綺麗に整っていて気分が高揚する。家ではどう頑張ってもこうはいかないもんね。



「あ、ホテルタイプでも一応浴衣はあるんだね! コーヒーも紅茶も緑茶もあるよ。まずはお茶でも入れる? それとも早速、大浴場行っちゃう?」




 はしゃぎながらお茶を物色する手を────彼の手が捕えた。



 後ろから彼にぎゅっと抱きしめられて、ビクッと身体が反射的に強張ってしまう。



「お茶はいいです」




 どきどきと高鳴る鼓動が急に耳をついたそのすぐ後ろで、彼の声が甘く響く。私を抱きしめる彼の硬い身体の感触が、急激に男である事を意識させた。




「あ・・じゃあ・・お、お風呂、行く・・?」




 情けなくも緊張で、声が震えてしまった。

 だけど彼は無言のまま、緊張に強張る私の身体に回した腕に、ぎゅと力を込めただけで。思わず息を止めてしまうくらいの緊張に張り詰めた空気が周囲を支配する中、しばらくの後、彼がやっと口を開いた。





「・・・・もう一秒たりとも待てないって言ったら、駄目ですか」






 ま・・待てないって・・



 また私を揶揄っているんじゃないか。そう思ってすぐ後ろを振り向いた。

 



 だけどそこにあった彼の顔は、いつになく余裕のない表情をしていて────・・






「だ・・だめじゃない、よ・・」






 そんな顔されたら断れないよ。────ずっと我慢してきたの知ってるから。



 緊張と羞恥と期待で胸が爆発しそうなくらいに早鐘を打っている。そんな私の身体を彼は無言のまま抱えあげ、そっとベッドの上に横たえた。彼の身体が私の上に覆い被さる。そして熱い眼差しで私を見つめながら、唇を奪う。


 甘く激しいキスに刺激され、吐息は熱を増していく。舌が絡められると、甘美ともいえる興奮に凌駕され、あんなに不安を覚えていた気持ちは、気づけばどこかへと消え去っていた。私は欲望の赴くまま、私を求める彼の首に夢中で腕を回した────・・





(続く)


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