立ちはだかる障害2
大好きな御影君にそんな事を言われて、拒める理性は最早私には残っていない。私が真っ赤な顔で、無言でコクンと頷ずくのを見て、彼の笑顔が真顔に変わる瞬間を見た。
心音のドキドキは最高潮────そっと瞼を伏せると、彼の唇が優しく私のそれに触れた。
一度それは、すぐに離された。だけど物足りな気に、角度を変えてもう一度私の唇を捕らえる。今度はもっと深く・・
やめられない止まらない。
そんな風に何度か唇を重ねているうちに、彼の手が私の背中のあたりをスリスリと撫で始めた。ゾクゾクしてしまって・・身体の中がなんだか、むずむずとしてくるのを感じた。
この感覚には覚えがある・・。私は御影君に────欲情している。
自分で成人するまではダメだって言ったくせに、自分の方が我慢できなくなってきている。これ以上触れられていると、そんな淫らな感情が抑えられなくなってしまいそうで、私はキスを求める彼の身体を押し返した。
「ご、ごめん・・もう・・」
その先もしたくなっちゃうから、とはさすがに口に出せず、私はただ恥ずかしい思いで、真っ赤になって下を向きそう言った。すると御影君は、膝の上で抱きしめていた私の身体を解放して、ベッドから立ち上がった。私の方へ背を向けて。
「俺の方こそごめん。やっぱり家で会うのは良くないですね。・・送ります」
え・・。
彼は部屋のドアを開け、玄関へと向かって足を進めた。私は慌てて荷物を持ってそれを追ったけど・・こちらを見ずにそう言ったから、彼が怒っているのかと思ってしまって。
違うのに。嫌で拒んだ訳じゃなくて・・本当はその逆なのに────・・
「御影君、私・・」
誤解されたのではないかという不安で、前を歩く彼の袖を引いた。だけど彼は振り向くなり、突然私に、もう一度キスをした。驚いて固まった私に向かって、彼はまだどこか意地悪気な笑顔でこんな事を囁いたのだ。
「奈緒子さんが止めてくれて良かったです。じゃなかったら完全に、押し倒してました」
真っ赤になった。
だけど彼はそんな私に、更にこんな事を言ってきて・・?
「一つお願いがあるんですけど」
「え?」
「8月23日の俺の誕生日・・お店休みにして貰えませんか」
「え? や、休み・・?」
「プレゼントとか要らないので、ゆっくり会いたいです。ここで・・」
────つまりだ。
昼間っからゆっくりここで・・『そういうコト』を致したい、という・・
「う、うん・・。分かった・・」
ど、どうしよう────。
御影君の誕生日まであと三か月をきった。
私ついに、その日御影君と、そんなイケナイことを致してしまうのか・・
する日にちが決まってるって、なんか逆に緊張しないか? いやそれより何より、御影君は女の子と手を繋ぐのも初めてだったってことは、当然初めてだよね。て事は私がリードしなきゃいけないのかな。だけど私は元々さほども経験が無いうえに、もう何年もそういう行為とは遠ざかっていて・・
ど、どうしよう。なんかうまくできるかどうか不安になってきた。それにこのお腹の肉とか見せて本当に大丈夫なんだろうか? 今からダイエットしとかないと・・。
不安に駆られた私はその日家に帰って早速、身体引き締めエクササイズを始めた。しかし一方その頃────御影邸であんな事が起こっていたなんて、私は全く検知していなかった。
「この間の中間で、貴方だいぶ順位を落としたんですって? 三者面談を欠席したからって、先生が心配してわざわざ連絡下さったの」
「・・少し体調を崩してたもので・・。心配ないですよ。次の期末ではちゃんと戻しますから」
「それだけじゃないでしょう。晴人、貴方・・私に黙ってアルバイトしているのね」
御影君が提出した同意書は友人が書いたもので、彼が保護者に黙ってバイトしていたなんて・・私は気づきもしていなかった訳で────・・
(続く)




