表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
58/72

御影君の苦手なもの3

「一緒に寝てるって本当ですか?」



 すぐ近くのコンビニのイートインスペース。長くなると踏んだのか飲み物まで買い与えられ、彼は不機嫌丸出しの表情で私を真っ向から睨みつけた。



「い、いやそれは・・過去に何度かエアコンの事情とかでですね、リビングに布団敷いてみんなで雑魚寝した事がありまして・・しかし姉も母もみんなで一緒に、という事でございまして、御影君が想像してるような感じではなくてですね・・」


「皆であっても即刻やめてください。・・まさか一緒に風呂とか入ってないですよね」



 ぎくっ。



「そ、それは・・今はさすがにね・・」


「入ってましたね?」


「な・・何年も前の事だけどね・・? あの子が一年生とか、二年生とかの頃までで、でもそれはホラ、あの子が赤ちゃんの頃からお世話してて、本当の子供みたいな感覚だからね・・?」



 産まれたときから面倒みてる甥っ子相手に、さすがにそれはヤキモチ焼きすぎなのでは? しかし彼の険しい表情は少しも緩むことはなく。



「もう赤ちゃんじゃありません。小6は立派な男です。もうマスターベーションしてるような年です」


「ブフッ!!」



 口にした飲み物を思わず吹き出してしまった私。


「しょっ、しょっ、翔馬が!? それはちょっと、まだ早・・」


「早くなんかありません、奈緒子さんの認識が足りないだけです。男は子供でも老人でも、性欲のある生き物ですから。もう少し危機感を持って貰わないと」


「危機感ってそんな・・さすがに勘繰り過ぎだよ御影君。あの子と私は家族なんだよ?」


「・・話にならないのでもういいです」



 御影君はそう言うと・・席から立ち上がった。怒った表情のままで────。



「でも俺、あいつと一緒に寝たり風呂入ったりなんかしたら、本当に別れますから」



「え・・!? ま、待ってよ御影君!」



 『別れる』って・・


 その言葉の持つ不穏さに、全身が泡立った気がした。些細なことで急に冷めてしまう恋も中にはある。いつも優しい御影君の口から、こんなに早くその言葉を聞くことになるなんて────。



 私を置き去りにしようとする彼を追おうと、慌ててその場に立ち上がった。だけど鈍臭い私は、その時にテーブルに置いてあったコーヒーを倒してしまって。



「ぎゃ───! こんな時に私のバカぁ───! ティッシュ! ティッシュどこー!?」



 そのままにして立ち去る訳にもいかず、私は半ばパニック状態で拭くものを探して鞄をまさぐった。情けなくも叫びをあげてしまったせいか、すぐに店員さんがダスターを手に寄ってきてくれて、「やりますよー」とありがたすぎる声をかけてくれたので、私はこれでもかと言うほど深く頭を下げた。


「迷惑かけて本当に申し訳ありません!! あとよろしくお願いします!!」


 私はコンビニから飛び出した。





 『別れる』なんて言わないで。そんなの嫌だよ御影君────。


 御影君が居なきゃ、私もう・・




 この幸せな日常が終わってしまうという恐怖。なんとか彼を繋ぎ止めたい一心で猛然とダッシュし、先の路地を曲がった、その時であった。今度は角を曲がってすぐの所で人に勢いよくぶつかってしまい、私は更に大慌てでその人への謝罪を叫んだ。


「す、すみませんっ!!」



 ────だけど、そこにあったのは見知らぬ顔ではなく、呆れたような目で私を見下ろす、見慣れた顔・・





「追いかけてくるのが遅いんですけど・・」





 御影君はそう言った。


 一瞬理解が追いつかずに、呆然として彼の前で立ち尽くしてしまった私。だけど遅れて、何故彼がここに居たのか理解が追いついてくる。




 来るのが遅いって御影君────あんなに怒って出て行ったのに、ここで・・追いかけてこられるの待ち・・




「プッ」



 思わず、吹き出してしまった。ダメだって思ってるのに、込み上げてくる笑いをどうにも抑えきれず、私は必死で口元を押さえ身を悶えさせた。



「や、やばい・・御影君っ、か・・かわいすぎるっ・・」



 そう肩を震わせる私を前に御影君は、やはり憮然とした表情でこちらを睨んでいた。だけど珍しく、ちょっと顔が赤くなっていて。



「それ以上笑ったらほんとに怒りますから」





(続く)





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ