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理想の家族の過ごし方3

「えっ、私が?」


「そうです。俺ばっかり気持ちいいのは不公平なので。俺も奈緒子さんに膝枕してあげたいです」



 彼はあの、底なしに優しい笑顔で私にそう笑いかけた。その瞳に愛情を感じて、またきゅっと心が切なくなる。私にもやってあげたいとか、なんて可愛いのかしらこの子。



「じゃあ・・お言葉に甘えて、失礼します」



 そう言って御影君の膝に頭を預けてはみたものの────。



 見上げた先には、愛のこもった瞳で私の顔を覗き込んでくる、御影君の綺麗な顔。そしてありがたい事に彼の手が、私の頭を優しくナデナデしてくれる。



 御影君かわいすぎる。一方の私、脂肪が弛んで不細工になってないだろうかどうしよう。彼の背景の空は桜色に美しく染まっているけど、もうそれどころではなかった。緊張でカチンコチンに身体を強張らせた私は、恥ずかしさに耐えきれず、ついにこう漏らしたのだ。



「す、すみません・・緊張して全然くつろげないので、もう起きてもよろしいでしょうか・・」



 やっぱり私は真っ赤になっていたに違いない。御影君はそんな私を見てあははと笑い、どこか子供っぽい無邪気な笑顔を落とした。




「かわいー」






 ────ああ。かわいいのは貴方ですよ御影君。本当に幸せだ・・




"奈緒子さんは全然俺の事、分かってないと言う事なんですよ"



 あの時言われた通り、私は全然貴方のことを分かってなかったね。


 御影君はただ良い子な訳じゃなくて、意外と捻くれたものの考え方をする。友達にはちょっと当たりが強い。中学の頃から私を想ってくれていて、モテるのに女の子とは手を繋ぐのも初めて。頭が良くて策略家ででもちょっと、いやだいぶ、ヤキモチ焼き。


 だんだんと貴方の事を理解できてきて・・知れば知るほど、どんどん好きになっていく。


 まるで沼に堕ちるように────彼の愛から抜け出せなくなってきている。





 ゆっくりお弁当と花見を楽しんだ後、公園内を散策し、氷川神社でお参りしておみくじを引いて、駅前のカフェに立ち寄りお茶をして、駅構内で美味しそうな食べ物に釣られてお土産を買って、その日は帰路に着いた。最寄り駅に着いたのは午後六時すぎ。だいぶ日が長くなってきたのでまだあたりは日暮れ時で明るかったが、私達は手を繋いで帰った。


 もう近所の目とかどうでも良かった。だって私達の交際は、そこらにいるどのカップルより真剣だって今は思えるから。


 こんなに大切にしてくれる彼の存在をコソコソ隠すなんて・・そんなのやっぱりおかしいと思ったんだ。




「今日はありがとうございました。一日奈緒子さんと一緒に居られてとても楽しかったです」


「わ、私の方こそありがとう! すっごいすっごい楽しかったよ!」


「ほんとですか?」


「うん、もちろん! 全然まだまだ帰りたくないくらい・・」



 あ。


 身体中が恥ずかしさで一気に温度が上がったのを感じた。そ、それじゃ変な意味に・・思春期の男の子に向かってなんちゅうことを言ってるんだ私は。恥ずかしすぎる!



「ち、ちがくて。そういう意味では・・」



 真っ赤になって下を向きそう弁解したのだが、そんな私に御影君は、その愛らしいご尊顔をちょっとムッとさせながら、私の顔を覗き込んできて・・?



「奈緒子さん、俺が必死に我慢してるの知ってて、意地悪言ってます?」



 へ・・?



「ち、違うよ! ごごごめんね!?」



 イジワルって私にそんなスキル無い! ・・っていうか、我慢? 我慢してるの御影君!?



「なんだ・・もしかして試されてるのかと思っちゃいました」



 彼はちょっと恥ずかしそうにしながら私から目を逸らした。珍しく少し顔が赤くなってる気がして、そんな仕草にまたズキュンとしてしまう自分がいる。




 だけどそのとき、そんな甘酸っぱい空気を一掃する一声が私達に投げかけられたのだ。



「奈緒子?」



 

 それは紛れもなく、私の母の声で────・・





(続く)



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