表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
52/72

理想の家族の過ごし方

「ホワイトデーのお返し、何か欲しいものありますか?」


 

 寒い冬も峠を越して、割と暖かい日も増えてきた、三月。御影君はそう言った。



「どうせなら奈緒子さんの欲しいものがいいかなと思いまして」


「欲しいもの・・かぁ・・」



 ふと頭にあるものが浮かび、私は隣を歩く彼に伺うような目を向けた。



「御影君が春休みに入ったら、その・・またデートしたいな・・?」



 普段お店の定休日である月曜日は、当然彼は学校に通っている。だから一日デートできる機会はそうそう無いのである。年始のデートで張り切り過ぎて体調を崩し大失敗してしまった私、是非とも今回は成功させたい。私の言葉を聞いて御影君は、ふふっと笑顔になった。



「はい、もちろんです。でもそれだと俺の方が嬉しいかもしれないですけど」



 きゅん。かわいい。



「何したいですか?」


「そうだなぁ・・あ。ちょうど桜が咲く頃だろうし、天気が良ければお花見にでも行こうか。お弁当作ってさ」



 私がそう提案すると、彼の顔から何故か、一瞬笑顔が消えた。


 ・・あれ? はずしたかな。



「ご、ごめん。もしかしてそういうの、嫌いだった?」


「え? いや、そんなことないです。この辺で桜の名所というと・・別所沼だとちょっとご近所すぎますし、大宮公園とかどうですか?」


「あ、うん。・・本当に大丈夫?」


「はい、もちろん。・・・・むしろ楽しみです。奈緒子さんのお弁当・・」



 彼は最後に呟くようにそう言った。今一瞬真顔になった気がしたのは気のせいだったのかな。



 御影君はホワイトデー当日、お返しにカラフルで可愛いマカロンをくれた。お店で一緒に働けるだけで嬉しくて、一緒に帰って手を繋いで癒しを感じる。そんな毎日がとても幸せだ。私達のピュアな愛情は、春に育つ草花の様に着実にその芽を伸ばしていっていたように思う。

 そして待ちに待った、約束のデートの日がやってきた────。




 大宮公園は大宮駅から歩いて約15分程の場所に位置し、初詣に行った氷川神社と併設されている大きな公園だ。サッカーや野球のスタジアムにこども動物園まである市民の憩いの場で、桜の名所でもある。狙いどおり桜の咲いた三月下旬の良く晴れた日、公園の芝生には多くの花見客が居て出店も出ていたが、平日ということもあってか場所は十分空いていた。人の少ないエリアに目星をつけてレジャーシートを敷いて、早速お弁当を広げる。


 お弁当のおかずは、卵焼きにアスパラチーズ肉巻き、はんぺんにカニカマや紅生姜を混ぜて揚げた薩摩揚げ風、筍の煮物、蓮根を梅酢につけて桜に見立てた桜蓮根、菜の花の辛子醤油あえ。そして主役は俵状に握ったおこわだ。餅米に焼いた油揚げと醤油を混ぜたのと、大根の葉と梅を混ぜたのと二種類。全体的に春を意識した品にしてみたけど、気に入って貰えるといいなぁ。



「大根の葉っぱって食べれるんですね」


 彼は小皿にとったおこわをまじまじと見つめながらそう言った。


「あれ? 食べたことなかった?」


「はい。美味しくて驚きです。なんであまり使われていないんでしょう」


「確かに、捨てちゃう人のが多いもんね。それに最近スーパーで売ってるのはもうあらかじめ落とされちゃってるしね。硬いのも多いからかねぇ? 私は結構好きで、お味噌汁とかにも入れるけど」


 彼はおこわもあまり食べた経験が無いらしい。確かに給食でも外食でもレアなメニューではある。とりあえず気に入ったみたいで良かった。これから色んなもの作って食べさせてあげたいなって思ってしまったけど・・



"尽くし過ぎ"



 過去の失敗が蘇る。これこそお母さん的存在まっしぐらだろうか・・?



 そのとき、私達の方へどこからか転がってきた一つのボール。御影君がそれを拾いあげると、視線をあげた先には、まだヨチヨチ歩きの幼児が一生懸命それを追って芝生の上を歩いてきた。後ろには笑顔でこちらに会釈する、お父さんとお母さんと思われる男女が見えた。彼がその子の方へとボールを転がしてあげると、懸命にそれを捕まえる姿がとても愛らしい。



「すいません、ありがとうございます!」


 夫婦は笑顔でこちらへお礼をし、親子三人は手を繋いで芝生を歩いて行った。


「あはは、かわい〜」


「・・そうですね」


 

 歩いて行く親子三人の後姿をじっと見送っている彼にちょっと違和感を覚えて、私はある疑問に至った。御影君は随分前から私と結婚しようと考えていたみたいだし、結婚願望が強いのだろうか。もしかして早く子供が欲しいとか?



「御影君、子供好きなの?」


 あまり深く考えずに、そう聞いた。だけど彼の答えは────。



「・・・・いえ。どちらかと言うと、あまり好きではないです」


 

────ん?



「あ、そうなんだ・・」


「はい・・どう接したらいいのかよく分からないと言いますか・・。奈緒子さんは好きそうですね」


「うん、まぁね。ちっちゃくて可愛いなぁ〜って、つい見ちゃうなぁ」



 ・・子供は苦手なのか。なんか変な空気になっちゃったな。じゃあ早く結婚したいってのは、やっぱり家に一人が淋しいとかなのかな?



 だけど彼は、そこで益々私を困惑させる発言をする。



「・・こういう休日に家族がピクニックして過ごす映像って、テレビCMとかでよくあるじゃないですか・・」



「え? あ、うん。確かに良く見るね」



「あれ・・大嫌いだったんですよね」





 ────んんん?






(続く)



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ