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バレンタインにて2

 益々真っ赤になった私を見て、また揶揄っているのだろう、彼はニヤニヤを増して、道路脇へと私を追い詰めた。



「食べさせてくれるんですか?」



「へっ? いやその・・私は食べ物では・・なくてですね」


「分かってるとは思いますけどそういう意味じゃありませんよ」


「わ、わかっ・・そ、それはちょっとまだ、その」



 しどろもどろになる私を見て、彼はふふっと楽しそうに笑った。そして道路脇の壁際へ追い詰めていた私をやっと解放してくれた。



「冗談です。一応約束なので、成人するまではちゃんと待ちますから。それに」



 そこまで言って彼は優しく私の手を繋ぎ、手を引いて歩き始めると、蕩けるような幸せそうな笑顔で笑ってみせた。




「正直言うと、奈緒子さんからチョコを貰えるというだけで、かなり浮かれてますので」






 か、かわいいぃぃぃぃ・・





 彼の笑顔が輝きすぎていて眩しい。後光差してるよ。イケメンすぎるよこの子。あまりに可愛い彼の顔に見惚れていると、彼は突然、私の手を引き自分の方へと引き寄せた。その勢いで私は彼の胸板へとボスッと顔を埋めてしまった。




 へ? な、なななななに?

 ダメだよこんな所で、ハグとかっ・・




「奈緒子さん」


「は、はいっ」


「こっちを見てくれるのは嬉しいんですけど・・道には電柱とか色々あるので、気をつけましょうね」



 はっとして前を向くと、あと一歩のところに迫った電柱が、どっしりと行手を遮っていた。



「・・・・はい。すみませんでした・・」



 ────恋は盲目、とはよく言ったものだ。恥ずかしすぎる・・。こいつ大人のくせにとかいい加減呆れられていないだろうか。


 心に過った僅かな不安が、連鎖的にまた別の不安を呼び起こした。先程彼等の会話の中で出ていた、御影君がチョコをいっぱい貰っているという件・・




「あ、あのさ、御影君」


「はい」


「その・・毎年、結構たくさんチョコ・・貰うのかな・・?」



 思わず聞いてしまってから、すぐにやってきたのは後悔の波だった。なんて事聞いてるんだよ。重い。重すぎるって。



「あ、あのっ・・それなら他と被らない様なものを考えた方がいいかな、とかね! ぜんっぜん気にしてるとかじゃないからね!」



 ばかぁ・・そんな言い方じゃ気にしてると言ってる様なものだろ私───!



 苦笑いを浮かべた。だけど、御影君は・・




「気にしてくれないんですか? 淋しいな」




 彼のちょっと揶揄うような優しい笑顔と甘い言葉に、どきゅんと心を射抜かれた様な気がした。



「毎年下駄箱とか机に勝手に置かれてるやつは、わざわざ返しにいくのもなんなので持って帰るんですが・・今年はちゃんと返して回ろうかなと思ってたんです。

俺が欲しいのは、奈緒子さんからのチョコ一つだけなので」




 御影君────・・


 こんなに素敵な男の子に真正面からそんなこと言われて、どきどきが止まらないよ・・! 人気者の彼にここまで言って貰える私って、やっぱり超絶果報者なんじゃないだろうか。


 だけど彼はその後、ニコッと笑顔になって・・?





「でも奈緒子さんがぜんっぜん気にならないなら、そこまでする必要ないですかね? どう思います?」




 ・・・・。


 こ、これは・・また揶揄われているのか。それとも気にしてないと言われたのが本当に淋しかったのか・・それともその両方か? 御影君は優しくてカッコいいパーフェクト男子だけど────やっぱりちょっと意地悪だ。





「・・お、お手数ですが・・本当は凄く気になってるので、全部お返し頂けると、私的には大変ありがたい、です・・」

 




 どうせ私はこの子の掌で転がされる玉。既に戦っても勝てないことを悟っていた私は苦虫を噛み潰したような顔で、そう彼が言わせたいであろう言葉を白状すると、彼は満足気にクスリと笑ってみせたのだった。




 甘いけどちょっぴり苦い、だけどそれが癖になる・・御影君はまるで、ほろ苦いダークチョコレート────。





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