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枯れ女子の今更アオハルな年末2

 大宮氷川神社は公園を併設した大きな神社で、駅の方から続く長い参道には屋台が立ち並ぶ、さいたま市内では一二を争う参拝スポットだ。普段人混みはあまり好まないけど、夜中にこれだけ人が溢れるこの日のこの雰囲気が好きで、毎年二年参りに訪れては、家とお店の破魔矢や御守りを購入し、去年のものを焚き上げて、お詣りして甘酒を飲んで、焼きまんじゅうと苺飴とベビーカステラを買って帰る。一緒に来る相手がお母さん、ていうのが悲しいところだけれど。


 人の溢れる参道を流れに乗って進み、大きな門を潜るあたりで、お母さんは近所の三村さんを見つけて、世間話に花を咲かせ始めた。長くなりそうなので、私はその間に破魔矢や御守りを購入する為の列に並んだ。人が多い分、それを売る巫女さん姿の売り子さんも沢山いて、十本近い列が出来ているが列の進みは割と早そうだった。


 御影君からメッセが届いたのはそんな時だ。「今二年参り中ですか?」と来たので、「そうだよ。凄い人」と返すと、「写真送ってください」と来たので、コソッと自撮りしてそれを送信した。それからしばらく、私の順番が回ってきた。


「えーと、破魔矢が二つと、家内安全札一つと、商売繁盛札一つと・・」


(御影君へのお土産は、厄除け御守りでいいかな? あとは・・)


 私が躊躇いつつ手を伸ばしたのは────ピンク色の、縁結びの御守りだ。



「こ、これも・・」


「あ、アレじゃん? 店長さーん!」



 聞き覚えのある声に、びっくりし過ぎて飛び上がりつつ、慌てて振り返った。そこに居たのは金に近い栗色の髪に濃いめの化粧をした少女と、清楚な黒髪ロング美少女のコンビ・・その後ろには数名の少年達。そしてその中で私へ向けて手を振る、御影君の姿────・・



「だっ、でっ、なっ、みか、御影君!? と亜美ちゃん結衣ちゃん達!?」


「わー、御影から来てるらしいとは聞いてたけど、マジでいたー! てか、店長さん縁結びの御守り買うんですかー?」



 はっ・・



「い、いいいいいやこれ縁結びか! しょ、商売繁殖と間違えた!!」



 は・・恥ずかし過ぎる! てゆうかなんで!? どうゆう事だこの状況!?


 動揺しまくる私に笑顔で近づいて来たのは、御影君だった。彼は私が棚に戻したピンク色の縁結び御守りを、スッと手に取ったのだ。



「じゃあこれは俺が買おうかな。彼女に渡す用」



 へ・・?


 彼のその言葉に、周囲からは野次が飛ぶ。



「うわー、出た出た。幸せマウント」

「はいはい。最近よく話してる噂の彼女ね。腹立つわー」



 その時、後ろの人からの「まだですか?」の声に気付き、私は慌てて列を外れ、彼等と一緒に列の最後尾へ並び直した。



「お母さんは一緒じゃなかったんですか?」


「お母さんは・・向こうで知り合いと話し込んでるんだよね」


「そうなんですか。あ、商売繁殖のお札、俺に買わせてください」


「えっ。いいよ悪いし!」


「いえ。いつもお世話になってますので」


「そ、それよりあの・・・・皆は何で・・ここに」


 私の問いに、御影君はいつもの穏やかな笑顔で私にニコリと笑いかけた。


「お参りに来たら良い事がありそうだったので。皆を誘ってみました。ここで会えたのも何かの縁ですし、せっかくなら一緒に参拝しましょう」



 い、良いことって・・



 

"奈緒子さんに会いたい"




 わ、私に会いに来てくれた、・・って事でいいのかな・・?



「あー、店長さんとこの唐揚げ、美味かったなー」


「御影の誕生日に便乗してお前もタダ食いしたもんな」


「それはお前もだよね??」


「てか、店長さんは御影の彼女見た事あるんですか?」


「えっ!? か、彼女!?」


 どきんとして、思わず大声を上げてしまった。

 御影君・・皆に彼女が出来たって話してるのか。でもさすがに相手が私だとは言ってないって事なんだね? こ、ここは上手く話を合わせないと・・



「あれ。店長さん知らない? こいつ最近、彼女出来たらしいんですよ。ムカつきますよね」


「そ、そそそうなんだ。ぜ、全然知らなかったなぁ!」



 まずい。動揺しすぎて噛みすぎだろ、落ち着け私!



「店長さんの店にそれらしい女来てないすか?」


「へ!? き、来てないなぁ! 御影君、今度連れて・・」


「あ、それは無理ですね」



 食い気味でバッサリ切られた・・。こ、これ以上変なこと言って墓穴掘るなって事か?



「御影、お前・・。いつもお世話になってる店長さんに、そんなバッサリ・・」


「店長さん気にしないでください。つーかコイツ、俺らにも絶対会わせてくんないんスよ。意味わかんなくないスか」


「だってやだもん」


「なんでだよ。ほんとドライだなぁ御影はー」



 彼等が会話を続ける傍ら、ふと気がついてしまった事がある。そういえば亜美ちゃんも結衣ちゃんも御影君のことが好きだったはずで・・。



「あ、あの、亜美ちゃん・・」



 騙している罪悪感でいっぱいになって、ついそう声をかけた。だけどごめんと言う訳にもいかず、そのまま苦い顔で言葉を濁してしまった私の様子に気がついたのか、亜美ちゃんは小声でこう耳打ちしてきた。


「あ。もしかして店長さん、ウチに気を使ってくれてます? でも気にしなくて大丈夫ですよ。実はウチも結衣も、だいぶ前に御影にフラれてるんで」



 え・・



「え!? そうなの!?」


「はい。ね、結衣!」


「う、うん」


 

 そして亜美ちゃんは、結衣ちゃんと仲良さそうに腕を組みながら、明るい笑顔でこう言ったのだ。


「そのときはちょっとヘコみましたけど、今はウチら、今年こそ彼氏作ろーって意気込んでるんで!」


「そう・・それなら、よかった・・」


「なんか中学んときからずっと片想いしてる子がいるとか言われちゃってぇー。さすがに諦めるしかないっつーか?」




 ────え・・




「一途だよね、御影君」


「御影が何年も片想いとか、どんだけ可愛い子なんだよ。すげー興味沸くわ」




 胸の中が騒つくのを感じた。



 皆が言う御影君の彼女って────本当に、私の事なんだろうか・・





(続く)




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