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枯れ女子の今更アオハルな年末

 トントンと階段を登ってくるお母さんの足音が聞こえる。案の定、その直後私の部屋のドアノブが引かれ、お母さんが顔を出した。


「奈緒子。あんたお昼ご飯はー?」


 私は未だパジャマのまま布団の中で、手にはスマホに表示された漫画アプリ。だらけきった状態で、視線だけお母さんの方へ寄越す。


「まだお腹空いてないからいらない。あ、孤食のグルメとふっとばし王決定戦、録画予約してくれた?」


 そんな私の様子を見て、お母さんは溜息をついた。


「やだよぉ、アンタ。せっかくのお休みにずっと布団の中だなんて。何か約束の一つでも無いもんかねぇ・・」


 そう白い目を向けながらお母さんは部屋を出て行った。すいませんねぇ。いつも予定ナシで。やる事無さすぎて漫画アプリを開いてみたけど、何を読んでいいかも分からないし。何となくランキング上位のやつの無料分を読むも気乗りせず、また他の漫画の無料分だけ読んで、そんなのをずっと繰り返してる、暇人代表な大晦日。


「はぁ・・。御影君は今頃、お友達と盛り上がってるのかな・・」




 ────お休み二日目にして、御影ロスです。



 昨日30日は、一日かけてお店の大掃除に勤しんだのだが・・御影君の居ない一人きりのお店の、なんたる淋しかった事か・・。だからと言って御影君に掃除の手伝いをさせる訳にもいかないし。言ったら多分手伝ってくれそうだから、尚更言えない。

 

 その時だった。ピコンとスマホが鳴って、御影君のアイコンがポップアップされたのに気がつき、私は正に秒でそれを空けた。



『カラオケで菓子パ』



 一緒に送られてきた画像には、うっすら見覚えのある男の子と一緒に映った御影君の姿。多分前に彼の誕生日を祝いにお店に来てくれた子だ。結構な人数が集まっているのかその後ろには、暗くて顔は見えないが、何人も人が映り込んでいる。そしてその中にはスカートにブーツを履いた、女の子の足と思われるものがいくつか・・。



(・・。女の子も居るんだね・・)



 という事は、亜美ちゃん結衣ちゃんら御影ガールズ達も居るって事か・・?



 モヤっとしてしまって。自分の心の狭さにまた、深い溜息をついてしまった。



「私も会いたかったなぁ・・。家に居たくないなら、私を誘ってくれれば良かったのに・・」



 呟いてしまってから、自分でツッコミを入れる。待て待て。御影君は多分、私があんなに人の目を気にして交際を断った過去があるから、気を使ってくれてるんでしょう? それが何よ突然、やっぱり誘って欲しかったとか自分勝手にも程がある。誘って欲しいなら欲しいで、こっちからそうと意思表示しないと、御影君はこっちの心情の変化なんてわからないでしょうよ?


「・・・・」



 そこで私が入力した返信は────。




『後でちょっとだけでもいいから会えない?』




「怖っ! ダメダメこんなの送っちゃ、重たい! 絶対面倒くさすぎの女!」




 そういえば私っていつも、始まりは向こうからなのに、結局最後はフラれるんだよな。大体は向こうの浮気で。友達には「尽くしすぎだ」ってよく言われる。言う事聞きすぎて、いつの間にか都合の良い女になってるんだって・・。



 ウェブで「フラれる女 特徴」で調べてみた。



①自分勝手、ワガママ

 

「あー・・ついさっき、自分勝手すぎるって自分でつっこんだな・・」


②束縛する


「友達と楽しんでる時に会いたいとか・・束縛だよね。ウザすぎ」


③尽くしすぎる


「・・・・でた。彼に尽くしすぎていつの間にかお母さんの様な存在に。男には狩猟本能があると言われており、何でも許してくれる女性は飽きられてしまうかも・・って、これまんま私の事じゃん」


④見た目に気を使わない


「こ、これも私・・。ここ数年、家とお店の往復だけだから」



⑤ネガティブ


「自信が無くてすぐにネガティブな事を言う女性に男性は魅力を感じません。ネガティブ発言が過ぎると、ウザイと思われてしまうかも・・。・・・・」





 ふ、フラれる要素しかない────。




「自信つけろってねぇ、言われてつくもんじゃないから! 仕方ないじゃない、成功した経験なんか無いんだから、自信ある方が不思議だよ・・!」



 一人悪態をつくも、いいしれぬ不安にかられて、思わず頭から布団を被った。


 ・・メッセ、なんて返そう。既読になっちゃってるから、何かしらは返さないと。


 一昨日手を繋いで帰ったときの、あの幸せな気持ちが嘘の様だ。メッセの返信一つ出来ないなんて、確実に恋愛レベル高校生以下だよ。つくづく私って、恋愛には向いてないんだろうな。




『楽しんできてね!』




 悩んだ挙句にやっと返したのは、そんな何の面白味もない一文だった。再び溜息をつき、布団の中で力なく画面を見つめる。するとすぐに、スポッという音と共に、御影君からの返信が帰って来た。そこにはこう書かれていた────。




『奈緒子さんに会いたい』




 ガバっと起き上がって、スマホを握りしめてマジマジと画面を見つめた。



「────〜〜っ御影くぅん・・!」



 彼も会いたいと思ってくれてた事が嬉しくて、速攻でこう返信を返した。




『私も会いたい!』




 ────バカみたいだ。メッセ一つでこんなに一喜一憂して。30手前のいい年した女が、こんなのでこの先やっていけるのだろうか・・




 私が不安に駆られていた一方その頃。


 御影君が友達にこんな事を言っていたなど、私には知る由もなかった。






「今日さ、誰か一緒に二年参り行かない?」


「あー、行く行くー。家帰っても暇だし」


「俺も──」


「どこ行く?」


「大宮の氷川神社。出店いっぱい出てるらしいし、混んでるとこのが楽しいでしょ」





(続く)




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