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奈緒子の逆襲2

「思い出しましたか?」



 彼は私の前でそうニコリと笑った。



「思い出した・・けど・・」



 

 ・・え? そんなに前から?


 御影君は元々結婚願望が強いという事なのだろうか。ご両親が忙しくて小さい頃から不在がちな様だし、やはり淋しいのかもしれない。


 その当時は、「高校生のときから結婚だなんて真面目な良い子だなぁ。彼女が羨ましい」とか思ってたけど・・最初からその結婚相手候補は私だったってことか? そういえばその時、料理が上手な子だ、と言っていた様な気が・・。



「すいません・・今気づきました・・」


「いえ。あ。あともう一つプレゼントがあるんですけど」


「え!? なんで二つも!?」



 驚く私の前に彼が差し出したのは、リボンの施された綺麗な茶色の小箱だった。



「チョコレートです。奈緒子さん、チョコ好きそうだったので」


「えー! わー、ありがとー!」


「いえ。どちらかと言うとこれが本当のプレゼントです。さっきのは奈緒子さんの為と言うよりは、俺の為に買ったものなので」


「え?」



 それはどういう・・? 彼の言葉の意図が瞬時には理解できずに彼の方を見ると、御影君はなにやら笑顔を仕舞い、私の方へ伺うような視線を向けてきた。



「奈緒子さんに他の男を寄りつかせない為の、護符みたいなものです。ダサいですが、就職するまで本当に待っていて貰えるのか不安なので・・。強制ではないですけど、着けて貰えると嬉しいです」




 え────?



 不安・・? いつもあんなに余裕そうな御影君が・・?



 あの時御影君の言った言葉が脳裏に蘇った。



"幸せにしてやれる能力もないのに、こんな事を言うのは間違いだと分かってはいるのですが"




 私はずっと、不安なのは私だけかと思っていた。


 だけど違うんだ。10年の年の差に不安を感じているのは、私だけじゃなかったんだ。


 私はなんて────自分の事しか考えていなかったんだろう。





「ダサいなら私も一緒です!」



 突然大声を上げた私の勢いに、彼は驚いた顔をした。だけど私はそれを無視して続けた。この勢いのまま言葉にしてしまわないと、また言えないままになってしまいそうだったから。



「今日料理を作って待ってたのは、全力で御影君の胃袋を掴みにいってました! 御影君の為というよりは完全に自分の為です! だから同じなんです!」



 ああ。恥ずかしい。

 だけど逃げ続けた私をずっと追いかけてくれた彼に向けて、私は今自分の気持ちを、ちゃんと伝えなきゃいけないと思う。




「私は・・御影君が必死に押してくれたから流されて付き合った訳じゃなくて・・前からちゃんと御影君のことが・・・・す、すき・・・・です・・」




 恥ずかし過ぎる。思い返せば面と向かって好きとか言うの、初めてかもしれません。とても彼の目を見ていられなくて、下を向いて最後は消え入りそうな声でそう搾り出した。するとクスッという小さな笑い声と共に、薬指に指輪の着いた私の手の上に、彼の手が重ねられた。ドキドキしながらそっと上を向くと、御影君はその整った顔に、どこか意地悪気な笑みを浮かべていた訳で・・





「知ってますよそんなの。奈緒子さん分かりやすいのでバレバレです」





 えぇ────!?!?



「えっ、バレっ、そんなに分かりやすい!?」


「当たり前でしょう。すぐ顔真っ赤になるし・・そういう素直な所が、可愛いなと思って見てました」



 へ?



 そして彼は・・私の方へと詰め寄ると、私の両肩を捕え、躊躇なく自分の顔を私の方へと近づけた。あの余裕そうな笑みで、甘える様に額を合わせて────・・





「密室に二人きりですし。そんなに可愛いこと言うと、ここで悪さするかもしれませんよ?」






 ────このまま、キスしてしまいそうな程に近い距離。



 息が出来ない。呼吸っていつもどうやってしてるんだっけ・・



 ずるいよ。そうやっていつも、自分だけ余裕そうな顔で、悪戯な瞳で揶揄って。不安だなんて弱い面見せて、それも全部私を沼へと落とすための罠なんでしょう?


 どうせ本当は成人するまで手を出すつもりなんか無いくせに。それでも私がこんな風にドキドキしてるの見て、楽しんでる。なんて生意気で底意地の悪い小悪魔なの! 





(今日は絶対反撃してやる!)


 



 私は御影君の身体を押し返し、顔を背けて溜息とばかりに息を吐いた。そうやって呼吸を落ち着けると、渾身の冷めた感じの表情で、彼に冷たい視線を送ってみる。




「はいはい。そういうのはまだ早いって昨日言ったばっかりでしょ? ちゃんと待てが出来ない子にはご褒美はあげられないよ、《《晴人くん》》?」




 ────どうだ! 大人の余裕を感じるだろう!?




 

 たがしかし。





 御影君はなんと────真っ赤になって私から目を逸らした!!





「は、はい・・。すみませんでした、奈緒子さん・・」






 めちゃくちゃ効いてる!? なんで!?




 

 待て待て調子狂うよ!? いつもの余裕な感じで返してくれない? 突然年下男子のカワイさ出さないでくれないぃぃ!? あわわわ私の母性本能が高みに高まってしまっているのですが!?





 ──── 一矢報いはしましたが、自分の方がダメージを喰らってしまった様です・・(もう無理)






「そ、そろそろご飯、食べよっか。つ、作るね・・」


「はい。すみません、お世話になります・・」





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