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奈緒子の逆襲

 クリスマスデートは結局、どこへ行っても混んでいそうということもあり、お店の中でダラダラ過ごす事になった。お休みの締め切った店内でこっそり二人きり・・というのも、それはそれで緊張するのだけれど。


 食事はいつも出来合いのものだという御影君の為の特製クリスマスランチコースは、サラダに野菜たっぷりミネストローネ、メインはラムチョップの香草焼き、シメは普段お店では作らないパスタにしてみた。家で育てているバジルとニンニクをミキシングして作ったバジルペーストを使ったジェノベーゼ。本当は松の実を入れるところを粉チーズで代用してみたけど、味は上々だ。

 約束の11時にお店に来て早速、私が料理を仕込む姿を見つけた彼はこんな事を言った。



「すみません、お休みの日にまで料理作らせちゃって。これなら外に出た方が良かったですね」


「え? いや全然大丈夫だよ? 料理するの好きだから」



 というか────正直それしか取り柄がない。



 まだ高校生の彼が10も年上の私と、結婚まで視野に入れて交際しようとしている理由・・それはつまり胃袋を掴まれたというか、料理スキルを見込まれての事なのではないかと・・。

 ここぞとばかりに甲斐甲斐しく料理を振る舞う私・・いつか捨てられるという不安が拭いきれず、媚を売っているのかもしれないけど・・。



「気にしないでね! まだお腹空いてないよね。とりあえずコーヒーでも入れようか。あ、あとこれは、クリスマスプレゼント」


「ありがとうございます・・開けていいですか?」


 私が彼に送ったのは革製のペンケースとブックストッパー。勉強に使ってもらえそうな文房具にしてみた。中身を見た彼は、その愛らしいご尊顔に笑顔を輝かせた。


「ありがとうございます。大事にしますね。あ、じゃあこれは俺から」


 彼がそう言って差し出したのは、某有名ジュエリーブランドのブルーの箱だった。それを見たときまさかとは思ったけど、やはり中に入っていたのはシルバー製の指輪であった。



「わー・・綺麗・・。」



 ですがこれは────・・どこの指に・・はめるべきものでしょうか・・? 薬指イッて違ったとき、かなり恥ずかしくないか? そんな考えが頭を掠め、動きを止めてしまった私の心を読み取ったのか、察しの良い御影君はこう言った。



「一応、左の薬指のサイズに合わせて購入したつもりです。着けてみて貰えますか?」


 薬指だった! いつの間にサイズを調べたのかは謎だけど! 言われた通りに指にはめると、特に問題なく指輪は薬指へとおさまった。自分の指で光る真新しいリングの姿に、驚きで動きを止めていた心臓が、今度は段々とそのリズムを速くし始める。



 ダイヤモンドリングとかでは勿論ないけれど、あのブランドのものだもの。高校生的にこれは、相当無理した値段のヤツだ。


 つまりその・・


 結婚の約束をしている、というアレ的な意味のヤツ、て事ですよね・・。




「大丈夫みたい」


「良かったです」


「あ、ありがとう。高かったでしょ? なんかごめんね、こんなの・・」


「シルバー製なのでそうでもないです。バイト代全部貯金にまわってるので、もっと高いのでも良かったくらいですけど。さすがに引かれるかなと思ったんで」


「え? ・・御影君てそもそも・・どうしてバイトしてるの?」


 

 以前お宅に訪問してからずっと心の片隅にあった疑問。金銭的には絶対に困っていないだろう環境で、何故彼は毎日ここで働いてくれているのか。私の問いに、彼はいつもの通りの落ち着いた調子で、こう答えた。



「前に話した事ありますよ?」


 

 あの時、欲しいものがあるから、と彼は言っていた。だけど実際は全て貯金していた。私は更に前に記憶を辿らせる。



" 取り立てて今は必要ないですが、就職してすぐ結婚するなら、今から計画的に貯金をしていかないと"





 お・・思い出した────。






(続く)

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