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『不変の愛』の証明理論2

「お疲れ様でした〜」



 14時に昼バイトの吉瀬さんが帰った後、私は表の看板をたたみ、店の中へしまった。ランチ営業の最後のお客様を見送り、誰も居なくなった店内で、私はレジ横の腰掛けに力無く座り込んだ。


 今日はランチ営業で終了すると、前々から店前に貼り紙を貼って告知してある。理由は18時から、同窓会に参加するため。当然だが16時になっても御影君はやって来ない。



 私は一人溜息をつき、レジの机の引き出しをそっと引いた。中には印鑑や帳簿、レシート印字用のロール紙などと一緒に、一枚の封筒が入っている。綺麗な字で『退職願』と記載されたそれを、私は手に取りじっと見つめた。



 あの言い争った日の翌日────彼は一言、「昨日はすみませんでした」と私に謝罪をした。私も彼に謝った。それからは特に何事も無く、月日は過ぎていった。

 彼が私にこれを渡してきたのは、昨日の事だ。




「・・・・っ・・」




 

 泣くな。自分で蒔いた種でしょうが。



 遅かれ早かれこの日が来るのは分かっていた事だろう。それを回避できる僅かな可能性に賭けて彼と向き合う勇気なんかない癖に・・一丁前に泣いてんじゃないよ。



 どれだけ好きになったって、この恋はきっと成就しない。少女漫画の世界とは違う。現実は愛を告白し合うまでがゴールではなくて、必ずその先が存在するのだから・・







◆◇◆◇◆◇◆◇



「再会を祝して、カンパーイ!」


 

 駅前の居酒屋で同窓会はスタートした。再会を祝してとは言っても、地元に住んでる人も多いから、そこまで懐かしむほどの顔は、チラホラと言った感じか。



「そうそう、夏に独立して、税理士事務所立ち上げたわけよー」


 隣に座っている栗原君もその一人だ。彼は中学から私立の学校に行ったから、顔を合わせるのはそれ以来となる。


「最近は会計ソフトもほとんどクラウド型になったし、帳簿の確認だけならリモートでも出来るからね。都内でせかせか暮らすより、地元の方が居心地良いしな」


「そっか。若いのに独立とか、凄いね栗原君は」


「ま、当面は一人で気ままにやるから、事務所に所属してたときほど大手企業案件は無いけどね。〇〇(株)とか〇〇商事とか、聞こえはいいけど中身は大したことないから。ま、細かいことは守秘義務があって言えないけどね」


「そっかぁ・・そんな大手も見てたんだね。凄いなぁ」


「佐藤も飲食店経営してるんだろ? もしだったら俺が会計見てやるよ」


「あー・・でもおばあちゃんの時からお世話になってる税理士さんで、良くして貰ってるしね・・」


「変えりゃいいじゃん。この辺じゃあまりレベルの高い税理士なんか居ないだろ。俺は税務申告だけじゃなくて経営指導もちゃんとするからさ。飲食店ならやっぱり、雑誌に載るのが手っ取り早い。出版社の知り合いもいるから、紹介してやるよ。上手くいけばフランチャイズ化も夢じゃない」


「・・・・そう・・だね・・」


 ・・・・栗原君てこんな人だったっけ。なんていうかさっきから、自慢気というか俺凄いだろマウントが激しいのですが・・。それになんか香水の匂いもキツイし。


 フランチャイズ化なんて全然望んでない。経営は割と上手くいってるし、養わなきゃいけない家族がいる訳でもない・・私はただ料理するのが好きで、地元のお客さんに美味しいって喜んでもらえればそれでいい。




"奈緒子さんは仕事が辛いとも恋人が欲しいとも言っていないのに、不幸だと勝手に押し付けないで下さい"


"奈緒子さんに事務はやらせられません。俺や常連さん皆を幸せにする、魔法の様な才能を持ってるんですから"




 ────御影君の言葉は私を癒す魔法の言葉。


 私は私で良いんだと、そう認めてくれる優しい言葉。だから彼の居るあの場所は、あんなにも居心地が良かったんだ。


 本当に魔法が使えたら。老いという理を逃れる薬があったなら。

 私はきっと何に代えても、それを手に入れたいと願うだろう。





 その時、肩に回された手の感触に、私はびくりと身体を震わせた。


「なぁ。この後二人で飲みに行こうよ。大宮に客のやってるバーがあって、雰囲気いいからさ」


 


(続く)


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