この関係は何?
閉店後、店仕舞いをしていると、近頃決まって顔を出す人物がいる。
「奈緒子さん。終わりました?」
八時で退勤した筈の、御影君だ。
普段ならその後は家で勉強に勤しむ彼だが、夏休みに入ってからというもの、昼間に勉強できるので時間的に余裕があるらしい。八時にここを出てから彼は、運動不足解消の為にBluetoothイヤホンで英会話のリスニングをしながらジョギングをし、店仕舞いを見計らってここに戻ってくるのである。
その理由は一つ。私を家まで送り届ける為。
「あ。コンビニ寄っていいですか? アイス食べたい」
彼はそう言うとコンビニへと消えて行き、すぐにビニール袋を手に戻ってくる。
「はい。奈緒子さんの分」
手渡されたのは私の大好きなチョコレートのコーティングされたアイス。六粒入っていてピックで刺すアレだ。御影君のはフルーツ系のアイスバー。コンビニの前に置いてあるベンチに座ってそれを開けて食す流れになった。
「えっ! ハート形の入ってる!」
私が驚きに声をあげると、御影君がそれを覗き込んでくる。
「ほんとだ」
「わー。初めてかも」
「俺も初めてです。あ、記念に写真撮りましょうか」
彼は肩掛けしたウエストポーチからスマホを取り出すと、私の方へ身を寄せてそれを翳してシャッターを切る。インカメラに映し出されたのは、ハート形のアイスを持った私と、御影君のツーショット。
「LINEで送りますね」
────つ、付き合ってる雰囲気・・!
ジョギングで時間潰してまで毎日家まで送ってもらうって・・絶対に普通の雇用主とバイトの関係ではない。はっきりとした言葉は無くとも、彼の中ではもしかして、もう付き合ってる事になってるのだろうか・・?
(そ、そろそろはっきりしなくては。告白されてもいないのに断れないしとか考えてたら、このまま流されて行き着く所まで行ってしまう!)
「御影く・・」
「こんなので幸せになるかよ、とか実は思ってましたけど・・見つけると思ってたより嬉しいもんですね」
そして彼はその愛らしいご尊顔に、幸せそうな笑顔を輝かせた。
「おかげで奈緒子さんとの二人の写真も撮れちゃいましたし」
────か・・
私は思わず彼から顔を背け、心の中で絶叫した。
かわぇぇぇぇ! ちょっとはしゃいでる御影君、かわいすぎるぅぅぅ!(涙)
これはまずい。どんどん沼に・・
「どうかしましたか、奈緒子さん?」
「う、ううん、何でもない。あ、あのさ御影君。送ってくれようとする御影君の気持ちは嬉しいんだけどさ・・別にその・・家近いし大丈夫だよ」
「? ジョギングの帰りに寄ってるだけなんで大丈夫ですよ」
「い、いやでも悪いし・・べ、勉強の邪魔したくないし・・その、地元だから人の目もあるっていうか・・」
しどろもどろ、そう切り出した私。するとそれまで満面の笑顔だった御影君は、暗い顔で下を向いた。
「迷惑・・って事ですか・・?」
落ち込み!?
「ち、違うよ、そういう訳じゃないんだけど! 学生の本分は勉強でしょう? 普段からこんなにバイトさせちゃって悪いなとか思ってたし!」
御影君の落ち込んだ表情を初めて見て、あたふたと弁解をしたけど、それでも御影君の暗い表情は晴れることはなく・・
「すいません俺、奈緒子さんの迷惑も考えずに・・。学校も無いから、あの家に一人で居るの、少し淋しかったんですよね・・」
え────。
「み、御影く」
「でも奈緒子さんが迷惑なら、もう明日からは来ない事にしますね・・」
「い、いやいや、そういう事ならいいんだよ別に。勉強の邪魔になってる訳じゃないなら、全然!」
「・・ホントですか・・?」
「うん、もちろんだよ! 私も御影君と話せて楽しいし!」
大慌てで、そう取り繕った。すると御影君はやっと、下へ向けていた顔を上げた。────悪戯っぽい笑みを浮かべて。
「やった♪」
────な。笑って・・!?
ハメられた!!
「じゃ。明日もあることですしあまり遅くなると悪いですよね。そろそろ行きましょうか、奈緒子さん」
御影君はいつもの余裕そうな笑顔で立ち上がった。その瞳の奥には、やっぱりどこか意地悪そうな色が見え隠れしている。完全にやり込められたことを悟った私は、悔しさに彼の背中に恨みがましい目を向けた。
くっ、くそう・・この・・小悪魔めが・・!
(続く)




