どういうつもりで
そして、定休日である月曜日がやって来ました────。
お店の前には既に、かき氷を求める客が数組、列を成していた。私達はその列の最後尾へと並び、そのまた後ろにも人が並び、列を伸ばしていく。
「奈緒子さん、何にしますか?」
「私は・・狭山茶とあずきのかき氷かなぁ・・マンゴーとみるくとかも美味しそうだけど・・。御影君は?」
「俺もマンゴー気になってます。楽しみですね」
「ねっ」
そうにこやかに笑ってみたものの・・
き・・緊張する。御影君の私服、初めて見た。Tシャツの上にシャツを着こみ、下は爽やかなベージュのパンツ。ビッグサイズのゆったりしたシルエットがイマドキな雰囲気だ。いつも制服か、シャツにエプロン姿しか見た事なかったから、なんだかとても新鮮に感じる。対する私は・・特に洒落っ気のない、Tシャツとワイドパンツ。
お洒落できんかった・・。何を気合い入れてんだ? って思われたらどうしようと思って、逆にお洒落できんかったよ・・。こんな事を思う時点で、御影君のこと意識してるよな。本当にバカだ私。中学生レベル・・。
「奈緒子さん」
「は、はいっ!」
はっとして顔をあげると、そこにはいつものあの優しい笑顔が、私を待ち構えていた。
「奈緒子さんの私服、初めて見ましたけど可愛いですね」
────なんですと・・?
真っ赤になった。
可愛いわけないじゃない。というかなんでそういう事、恥ずかしげもなく言うの・・!?
「かっ、かっ、かわいいとかっ・・」
「奈緒子さん小さいから、なんか子供みたいに見えますね」
・・・・え?
あ・・可愛いって、子供とか動物とかそういう・・
「・・・・ありがとう・・」
ずーんと一気に重量が戻ってきた感覚。何をがっかりしてんだ、アホ・・
「もしかして今日の俺たち、傍目にはお似合いだったりしますかね?」
────え?
彼の方を見ると、彼はやっぱり余裕そうな穏やかな笑みで、私の方を見つめていた。
だけど私は、固まってしまって。心の中の邪な考えを見透かされた様な気がして、どういう顔をしたらいいのか、分からなくて。
「・・冗談です」
彼はニコッと笑って、メニューへと視線を移した。だけど私の胸中は、穏やかではなくて。
どうしてそんなこと言うの?
その一言で私がどんなに狼狽えてるか、分かっててやってるの? いつだって貴方は余裕そうに、そうやって笑って・・。
私は大人なんだよ。揶揄わないでよ、御影君────。
店内は割とこじんまりとしていて、私達は空いているカウンターの席に並んで通された。この行列じゃ長居するのも悪いし、カウンター席でも問題はないだろう。
「わ〜。美味しい〜」
狭山抹茶の深い緑色に染められた軽い食感の氷の上に、たっぷりとかけられたチーズ風味のエスプーマソース。更にその上からかけられた小豆は上品な甘さで、すっきりと食べられる。大きなかき氷の内部には、抹茶ゼリーと白玉餅が入っていて、結構なボリュームだ。
「本当に。結構大きいから飽きそうな気がしてましたけど、そんな事ないですね」
御影君のマンゴーとみるくは、エスプーマされたミルククリームの上に、マンゴーソースとたっぷりの果肉が乗せられている。美味しくない訳がない。
「奈緒子さん。こっちも食べますか?」
その言葉に呼ばれて、私は彼の方へと顔を向けた。するとそこには、私の方へと差し出されたスプーンが待ち受けていたわけで。
「はい」
おいおい────待ってくれ。
アーンしろってことなの? おかしいでしょ御影君?
「ありがとう! お言葉に甘えて!」
ちょっとイラっとした私は、差し出されたスプーンを無視して、自分のスプーンをザクっとマンゴー色の山へと刺してやった。
「こっちもすごく美味しい!」
「・・ですね」
彼は行き場の無くなったスプーンを、自分の口へと持って行った。
貴方のその小悪魔は天然なの? それともやっぱり、私を揶揄ってるの? 全くもう・・いつも私が戸惑ってばかりと思ったら大間違いなんだから!
「この後、どうします?」
器の中のかき氷も残り少なくなってきた頃、御影君が言った。この後?・・が、あるのか・・
「うーん・・お昼どきだけど、結構お腹いっぱいになっちゃったし、ご飯食べる感じじゃないもんね。でも外は暑いし・・」
「すぐそこの公園のところに美術館ありますよね。あそこ入ってみませんか?」
「あ、うん。いいよ。もう随分行ってないなぁ」
だけど────。
ザァァァァァ、というよりば、ドォォォォォというような、轟音。
店の外へ出た私達を待っていたのは、激しすぎるゲリラ豪雨の水飛沫であった。店の軒先で、それを呆然と見つめた私達。
う、嘘でしょ・・入ったときはめちゃくちゃ晴れてたし、全然気づかなかった。その上、傘も持って来てないし。今更お店の中にも戻れないし。
「うわぁ・・すごい事になってるね・・。美術館すぐそこって言っても、めちゃくちゃ濡れそうだし・・今日はもうこれで解散にしよっか・・」
私がそう言ったときだった。
バサッと、頭から何かを被せられ、私は唖然として彼の顔を見上げた。それが御影君の羽織っていたシャツなんだと気がついたときには、彼は私の腕を引いて、激しい集中豪雨の中へと飛び出していた────。
「ちょっとだけ走って下さい!」
────な・・
なんですと!? 御影君!?
(続く)