『ユイちゃん、文化祭という名の修羅場に立つ』
「いや、なんでお前が制服着てんの……」
目の前のユイは、どこからか調達されたブカブカの女子高制服を着て、
屋上の風に飴缶をカラカラ鳴らしていた。
「マジで意味がわからん……誰に頼まれたんだっけ、これ」
文化祭当日。俺の友人・ハヤトの学校で、
「お悩み相談ブースやりたいから、ユイちゃんに来てもらえないか」
という、なぜか公式企画の体で依頼が来た。
そして今、俺たちの前には——
『占いと癒しのユイちゃん相談室』
(立て看板:手書き、文字デカすぎ)
が、なぜか校舎の一角に成立している。
「うっわ、ほんとに来てる!これ本物!?ガチ!?え、喋る?喋らない?てか写真いい?」
最初に来たのは文化祭命のギャル。
眠そうな目で飴を見つめ、「それ、なに味?」と聞いてくるがユイは当然黙っている。
「……うわ、うめぇこれ。やば。疲労が溶けた。てか寝てないのになんか落ち着いてきた……」
そしてそのまま寝落ち。
「早っ!癒され方バグってるだろ!」
二人目、演劇部の爆裂ヒロイン女子。
「聞いてよ!?主役降ろされたの!ロミオ役のアイツが、なんかユイちゃんが“ジュリエットっぽい”って言い出して!」
「知らんがな!」
「でもわかるわ〜。この無口で佇む感じ……哀愁?背負ってる?」
背負ってねぇよ!てかお前今、主役返せって叫びながら階段登ってきたろ!
次は猫耳コスの文学少女。
「ユイちゃん……あなたは"観測者"なのね……」
こっちは観測される側だっつの。
そのまま彼女は「この世界に意味をくれた」とか言って去っていった。
もうなにがあったんだよ演劇部。
続いて模擬店カップルの修羅場劇場。
「揚がってねぇっつってんだろ!この半ナマ唐揚げ野郎!」
「じゃああんた昨日の既読無視は!?私ばっか火の番してさ!」
「っていうかカナメさぁ、これもう唐揚げが恋愛のメタファーになってるよな……」
冷静に分析すなよ俺。
ユイがスッと二人に飴を差し出すと、ふたり同時に口へ。
「うま…」「うん…」
「…揚げ直すわ」「…ありがとう」
なにこの味覚で仲直りする謎展開。
さらにやって来たのは意識高い系バンドマン。
「音楽か恋か……いや、俺たちには何もなかったのかもしれない」
そう言っていきなりアコギを取り出して弾き語り。
「♪き〜み〜の〜瞳に〜映る〜ユイちゃ〜ん♪」
「うるっせぇ!!」
ユイは無表情のまま飴を差し出す。
「……うん、たぶん俺、恋してなかった。音楽に戻るわ」
なにこの人生の再構築スピード。
「失礼します。このブース、申請してませんよね?」
現れたのは生徒会っぽい委員長男子。
「これは明らかに校則違反であり、文化祭の安全規則に基づいて撤収を——」
ユイが、スッと彼の目を見て、飴を一粒。
「……ん。あれ?……まぁ……今回は特別に……許可します……」
「なんで!?なにその即・堕ち2コマみたいな反応!」
その後も、漫研男子が哲学語り始めたり、なぜかカオスな展開が続いたが、
なぜか全部、ユイを中心に綺麗に片づいていった。
夕方。片付け終えた教室で。
「……なぁ、今日誰が相談されてたと思う?」
「…………」
ユイは飴を一粒、俺の手に置いた。
「いや、お前が一番配って疲れてんじゃん!」
そんなこんなで、ユイちゃんの相談室(?)は大盛況のうちに幕を閉じた。
明日になったら、誰も信じないだろうけど。




