ユイ、沈黙の館へ行く ~語られぬ真実と、ひとつのまばたき~
夏休みの終わり。
「聞いたことある?あの廃屋。昔、有名な作家が住んでたって噂の──“沈黙の館”」
ミナの通う小学校で話題になっていたその洋館。
カナメ「いや、そもそも名前からして不穏なんだが……」
だがなぜか、ユイはその話にピクリと反応した。
*
そして数日後。
カナメ、ユイ、そしてミナの三人でその館を訪れることになった。
外観は立派だが、どこか冷たい空気が漂っている。
カナメ「んー、これは出るな。100%なにかいる」
ユイ、無言で門を開ける。
ミナ「お兄ちゃん、こわいけどユイちゃんがいるなら大丈夫だよね!」
その瞬間、館の扉が自動で開いた。
*
内部は意外にも整っていた。
だが、廊下には鏡が多く、どれも中央が曇っていた。
「これは……人の気配を映すが、顔だけは映さないタイプの呪具じゃないか?」
ミナ「なんでそんなこと知ってるの?」
カナメ「趣味だ」
廊下の奥に、ひとつだけ違う鏡があった。
ユイがそこに近づくと、鏡の中の自分が、まばたきを──しなかった。
*
そして2階の書斎。
古びた机の上に、一冊の手記。
『誰かが来た。今度の子は、何も語らない。だが、それがいい』
『私は語りすぎて、誰も信じてくれなかった。沈黙は、証拠なのだ』
次のページ。
『この館には、語られてはいけない真実がある』
ユイはゆっくりと本を閉じた。
そして──背後の壁を指さした。
カナメが押すと、隠し扉。
中にあったのは──大量の手記。すべて“語られなかった事件”の記録。
*
だがその瞬間、館が揺れた。
ミナ「地震!?」
カナメ「いや……これは誰かが“語ってしまった”から……!」
壁に刻まれた一文。
『語った者、消える』
カナメ「ユイ、今すぐ外へ!」
だがユイは、壁に向かってそっとまばたきを一回だけした。
揺れが止まる。
──そして、館は再び静寂に包まれた。
*
数日後。
ニュースで“沈黙の館”の取り壊しが報じられた。
その地下から見つかった手記の内容は、いずれも未解決事件の核心を突くものだった。
だが、誰がそれを訴えたのか、証言者はいない。
ただひとつ、現場に落ちていた──麦茶の空きペットボトル。
カナメ「……ほんとに、なんなんだよおまえ……」
ユイ、無言で新しい麦茶を差し出す。
ミナ「ねぇねぇ、お兄ちゃん。また探検行こうよ!ユイちゃんと一緒に!」
カナメ「……勘弁してくれ」




