ユイ、異世界に転生する ~しゃべらぬ賢者は世界を救う~
目を覚ますと、そこは──石造りの天井だった。
「……おお、女神よ!ようやく目覚めたのですね!」
金髪の神官風イケメンが、ユイの前に跪いていた。
「この世界“レムレア”は、争いと混乱に満ちております。そんな中、我らはあなた──“無言の賢者”を召喚しました」
カナメ(召喚に巻き込まれた):
「え!?なんで俺まで!?てかなんでユイが“しゃべらぬ賢者”扱いなんだよ!」
神官「彼女の“何も言わない姿勢”が、我が教義と完全一致しておりまして」
「沈黙はすべてを受け入れ、あらゆる感情を超越する……」
カナメ「それただのマイペース女子だって!!」
*
まず向かったのは王都。
道中、噂が広がる。
「見よ、あれが“口を開かぬ救世主”……!」
「目を合わせるだけで悩みが消えた」「あの無言、浄化の波動……」
ユイ、馬車の上でせんべいをかじる。
「おやつまで神々しい……」
道端の子ども「……お姉ちゃん、言葉はなくても、あったかいね」
*
魔王軍の刺客が襲来したときも、ユイは動じなかった。
剣士「逃げてください賢者様ァァ!」
ユイ、刺客をじっと見つめる。
刺客、勝手に罪悪感で倒れる。
「う、うわぁぁああ!なんだその眼!!俺は何をしているんだぁああ!!」
カナメ「なんで敵が自己反省して自滅してんだよ!!」
ユイ、地面に落ちた花を拾ってそっと供える。
その姿に、戦場が沈黙した。
*
ついに王宮にて、大会議。
国王「賢者よ、どうかこの国の未来をお導きください」
重臣「お願いします、一言だけでも……」
ユイ、静かに王の前に進み、玉座の横に座る。
そして──何も言わない。
会議室、沈黙。
数分後。
全員「なるほど……!!」
国王「“民の声を聞け”……そういうことか!」
重臣「“静かに耳を傾ける”……それこそが統治の真髄……!」
カナメ「ちがう!絶対ちがう!!」
*
その後、ユイは“無言の賢者”として国家顧問に任命。
何も言わないまま、税制改革・教育改善・農業発展などを次々と成功させていく。
ただし、本人はずっとせんべいを食べながら窓際でぼーっとしてるだけだった。
民「我らが賢者様が、また沈黙のうちに新たな政策を……!」
カナメ「いや何もしてないぞ!?なにもしてないからな!?」
*
そして月日は流れ、ユイの教えを信奉する“ユイ教”が大陸全土に広まり──
礼拝の作法は、静かにせんべいをかじること。
賛美歌は、無音。
神託は、沈黙のまなざし。
*
カナメ「おい、ユイ……おまえ、もう帰る気ないだろ……?」
ユイ、こくりと一回うなずく。
カナメ「あるのかよ!」
──こうして、異世界“レムレア”に、沈黙で世界を救う少女が君臨した。
なお、ユイの座った椅子は“聖なる沈黙の玉座”として後世に残り、今も静かに……何も語っていない。




