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ユイ、宇宙を聞く ~その沈黙、銀河標準語~



 西暦20XX年──地球は静かに騒がしかった。


「緊急速報です。地球上空に謎の巨大UFOが接近。目的は……“対話”だそうです」


「って、なんで日本に来るんだよ!?しかも東京の……あそこ、あいつの学校の真上じゃねぇか!!」


 カナメ、叫ぶ。


 そう、ユイの通う高校の上空に、光る円盤がピタリと停止していた。


  *


 地球代表たちが騒ぐ中、降り立った宇宙人はこう言った。


「我々は“ギャラクティック共鳴評議会”所属。争いをやめたい。ただ、静かに話ができる存在を探してきた」


 地球側代表「じゃあまず我々の国連議長が──」


 宇宙人「却下。言葉が多すぎる。言葉は、誤解の温床」


 宇宙人たちが指さしたのは、なぜかそこにいた──ユイ。


「彼女が最適と判断した」


 カナメ「いやなんで!?何も言ってないぞこいつ!!」


  *


 ユイ、宇宙船の交渉室に案内される。


 同行したカナメは端っこの椅子でおびえながら、ポカリをちびちび飲んでいた。


「ユイ、おまえ今度ばかりは人類代表って意味わかってんのか……?」


 だがユイは、いつもと同じようにポケットに手を入れ、無言で着席する。


 議題:銀河間通商、惑星間教育交換制度、そして“怒り”という概念の理解。


 宇宙人「なぜ地球人は、感情によって衝突する?特に“怒り”は、非効率だ」


 地球代表「それは、思い通りにならないから……いや、思いが強すぎるからこそ……」


 宇宙人「論理で説明してほしい」


 地球代表「ええと……その……」


 ユイ、そっとお茶を飲む。


 ──沈黙。


 その瞬間、空間が澄んだような気配に包まれる。


 宇宙人「……なるほど。“沈黙とは、答えではなく、余白”」


「地球文明、見直す必要あり」


 宇宙翻訳AI「評価スコア上昇中……対話続行」


 カナメ(心の声)「なんでそんな高度な議論を、黙ってお茶飲んだだけで……」


  *


 その後、銀河各国との非言語外交が続く。


 ──ユイはただ座っていた。


 だがその姿は、どの惑星の代表たちの心にも、“静けさの価値”というものを刻み込んでいった。


「我々、議論をやめる。代わりに、黙って共に歩くことにする」


 宇宙評議会:「満場一致」


 拍手はない。ただ、静かに手を胸に当てる──銀河流の敬意。


 カナメ「……え?なに?これもう、宇宙の“閉会式”なの?」


  *


 地球に戻ったユイとカナメ。


 カナメ「……いやマジで、なんで宇宙まで行ってんの俺ら……」


 だがその背後、空には無数の星々と、遠ざかるUFO。


「“沈黙の勲章”贈呈──地球代表、ユイ」


 AI音声がそう告げ、空に銀の軌跡が描かれた。


  *


 ──そして、地球は救われた。


 ──銀河は統一された。


 ──すべては、ひとりの少女の“何も言わない力”によって。


  *


 カナメ「……って夢かよ!!」


 目を覚ますと、自宅のこたつ。


 ユイはいつものように、静かにせんべいをかじっていた。


 ミナ「お兄ちゃん、寝言うるさかったよ。宇宙がどうとか」


 カナメ「……ユイ、おまえ……まさか……」


 ユイ、ちらっと視線をよこす。


 ──その瞬間、窓の外を通りすぎた光る影。


 ユイの背中越しに、星が──瞬いた。


 カナメ「…………夢……だよな?」



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