ユイ、甘き戦場に立つ ~キノコとタケノコと沈黙の証言~
「──つまり、これは戦争なんだ」
会議室に響き渡った声。
お菓子メーカー“天満製菓”の新商品開発部。そこでは、今まさに「キノコ派」と「タケノコ派」による泥沼の論争が巻き起こっていた。
「キノコはフォルムがかわいいし、チョコ部分が多い!」
「タケノコはクッキー生地の香ばしさが段違いなんだよ!」
「そもそもこの議論を商品化すること自体どうなんですか!」
部屋はカオスだった。
そして──そこに座る、ひとりの少女。
ユイ。
開発部の社員が言った。
「今回、弊社が社運をかけて導入した“共感型傾聴AI──コードネームYUI”です!」
カナメ(バイトで同行)「いや人間なんだけど……」
部長「では、まずユイさんに両者の意見を聞いていただいて、どちらがより“共感を呼ぶ”かを判定してもらおう」
「それただの“聞かせ屋”だろ!?」
「静かに!ユイさんが耳を傾けてくださっている!」
*
ユイは、無言で両派のプレゼンを聞き続けた。
キノコ派「ご覧ください、このしっとりした形状!まるで知性とユーモアが共存してる!」
タケノコ派「いやいや、こちらの安定感!食べやすさ!それはもう“庶民派の革命”です!」
ユイ、スナック菓子をかじる。
「今、タケノコ食べた!いや違う、あれはニュートラルポジションの“せんべい”だ!」
「沈黙の中にこそ、真理がある……!」
「誰か!あの無言の意味を解析して!」
カナメ「もうみんな帰れ!!」
*
最終提案日。
会議室には、キノコ型とタケノコ型を融合した「きけのこ」試作品が登場。
社員A「これが……両者の和解の形……!」
社員B「さあ、ユイさん、ぜひご試食を」
ユイ、ひとくちかじる。
沈黙。
カナメ(息をのむ)「……どうだ……?」
ユイは、ゆっくりと、ふたつの菓子箱を指差した。
そして──両方を手に取る。
部屋が静まり返る。
「まさか……両方、選ぶとは……!」
「それが……答え……?」
「いや、もしかして──“戦わせる必要などなかった”というメッセージ……?」
部長「ま、丸く収まった……!これが“沈黙による商品戦略”……!!」
カナメ「いや、もともと争わなければよかっただけでは……?」
──かくして、「きけのこ」は“対立を超えた菓子”として市場に投入され、大ヒットを記録。
そして今も、ユイは社内資料に“伝説の沈黙モニター”として崇められているという──。




