ユイ、霊と語る ~沈黙はあの世をも動かす~
「……あの、聞こえてますか?」
誰もいないはずの深夜の教室。けれどそこには確かに“何か”がいた。
──彼女の名はユイ。
そして、その“相談者”は、幽霊だった。
*
話は少し遡る。
カナメがバイト帰りに教室の窓から見てしまったのだ。
カナメ「ユイ……が誰もいない教室で、ひとりで座ってたんだ。なんかこう、うすら寒い空気の中で」
友人A「でもさ、あいつ相手が幽霊でも普通に聞いてそうじゃない?」
カナメ「やめろ!普通にありそうなのが怖いんだよ!」
*
その夜の教室では、不思議な会話が成立していた。
「……あの、生きてたとき……告白できなかったんだ。好きだった人に……」
ユイは、何も言わない。
だが、黙ってうなずいた。
その瞬間、空気が変わる。
「やっぱり、このままじゃ、だめだよな……?ちゃんと伝えなきゃ、成仏……できないよな……?」
ユイは、静かに視線を逸らし、窓の外を見た。
風が、カーテンをふわりと揺らした。
「……だよな。後悔、残したままじゃ終われないよな……」
ユイ、ポケットからメモ帳とペンを取り出す。
『名前』
──そう書いて差し出す。
「……そっか。誰かにちゃんと伝えなきゃ、俺がここにいた意味、なくなっちまうもんな……」
ペンが、空中にすうっと浮かび、名前が書かれていく。
『佐伯 琴音』
*
翌朝。
カナメが教室に入ると、机の上に白いメモがあった。
『佐伯琴音さんへ──あなたのことが、ずっと好きでした。ありがとう』
──誰かが、佐伯琴音に向けて残した言葉。
カナメは背筋を凍らせる。
「な、なにこれ……だれが……」
そこへやってきた担任が一言。
「おー、佐伯琴音?あー……10年前の卒業生だよ。……って、なんでそんな震えてんだ?」
カナメ「ちょ、ちょっと保健室行ってきます!!」
*
だがその夜。
ユイはまた教室にいた。
ふたたび、誰かが──いや、“何か”が語りかけてきた。
幽霊の少年の声「……あの、聞いてくれますか?ぼく……体育倉庫に埋まってるんです……」
ユイは、ほんの少しだけ顔を上げる。
一瞬の沈黙。
──そして、誰もいないはずの空間から、乾いた笑い声が響いた。
幽霊の少年の声「……うそです。てへっ☆」
カナメ(廊下から)「やめろォォォ!!」
その叫び声が、深夜の学校にむなしくこだました。
*
オチかと思った次の瞬間。
ユイの背後に、誰もいじっていないはずのピアノが──
ぽろん。
──文化祭の夜、残された音楽室の隅に、ただひとり佇む白い影。
ユイは、それを見ても、何も言わなかった。
ただ、深く──深くうなずいた。
そして、その影も……うなずき返した。
──沈黙は、生者にも、死者にも届く。
……のかもしれない。




