表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

悪役令嬢に転生しましたがヒロインも婚約者も断罪してやりましたわ。私の勝ちです……の、後日談



 どうしてこうなったのだろう。

 私のなにが間違っていたというの?


 後ろ手に縛られ、両側の兵士から断頭台に押されながら、私は現実から逃れるように自問自答していました。


 ーー首をはねろ!

 ーーー悪女の首をはねろ!!


 王宮前の広場は、市民たちの声で揺れんばかり。

 私の次に処刑を待つ幾人かの貴族からは憎悪の視線が向けられています。

 少し離れた位置からは王と、あの日失脚したはずの元婚約者ーー第一王子が暗いまなざしで見つめています。


 こうならないために、生まれてからーー転生してから、ずっと努力してきて、あの日、それが実ったはずなのに。

 それなのにどうしてーー……


 跪いてギロチンに首を預けます。

 大きな歓声があたりを包みます。


 ーーああ、実のところ、私はその理由をもう知らされていたのでした。

 死から目を逸らすように、目を閉じて、私は思い出すのでした。





■■■





 私は王家に次いで大きな領地を持つ公爵家の長女として生まれました。

 美しい第一王子との婚約も決まり、全てを持った令嬢として何不自由なく育ちました。

 しかしある日、前世の記憶が蘇りーーこの世界は前世で読んだ少女小説であり、私は断罪される悪役令嬢だと気付いたのです。


 私は驚き、焦り、絶望しました。

 なにしろ小説の中で私は婚約破棄され、そのうえ処刑されてしまうのです。

 王子と恋に落ちた庶民のヒロインをいじめた罪で。


 ……次第に怒りが湧いてきました。

 浮気された側なのに何故断罪されなければいけないのか。


 もちろん物語の中で私は様々なヒロインへの嫌がらせを行い、その結果として何人かの平民が死ぬことになりました。

 ただ、貴族である私は平民を殺しても罪にはなりません。それがこの世界の常識なのです。

 それなのに処刑されるというのはーー不当な私刑にほかなりません。


 浮気をしたうえに、個人的な感情でわたしを殺す男。

 まだ犯していない罪だとしても、そんな人物が婚約者だなんて嫌でした。

 自慢だった美しさも色褪せます。


 しかし、私から婚約破棄することは出来ませんし、王妃になれないというのもしゃくでした。


 ならば目指すところはひとつ。

 婚約破棄はされましょう。

 ただしその後断罪されるのはーーヒロインと、第一王子のほう。

 私は第二王子と婚約を結び直し、そして王妃になるのです。


 まるで前世読んだネット小説のよう。

 でも、私にとっては現実でーーそして戦いでした。





■■■





 それからの日々は、つらくも充実したものでした。

 生まれもった美貌に更に磨きをかけ、礼儀作法やダンスなどの令嬢として求められるものに全力で取り組み、完璧な淑女としてたたえられるようになりました。

 前世知識を生かしていくつかのアイデアを父に提供し、自領の発展にも貢献しました。

 どうしても嫌悪が滲み、婚約者との仲は冷え込む一方でしたが、変わりに第二王子とその派閥とは接近することができたのでかえって良かったでしょう。


 そしてついに小説の舞台となる学園生活が始まりました。

 小説をなぞるように、優秀さを認められ奨学生として入学してきたヒロインは生徒会に入り、会長である第一王子と次第に接近していきました。


 婚約破棄のため私が原作通りに行った嫌がらせを含む、幾つかのイベントを越えた頃には、二人の想いは周りからも明らかになっていました。

 私と第一王子の不仲もそれなりに知られていたため、新聞などにも平民王妃などと書き立てられることもあったようです。

 一方私の方の根回しも、順調に進んでいました。


 そして遂に訪れた婚約破棄の日。

 学園のパーティーで、ヒロインの頭にスープを注いだ私を咎めた第一王子は、その勢いのまま婚約破棄を口にします。

 私は淑女らしく堂々とそれを受け入れーー反撃を始めました。


 婚約破棄の根拠として示された悪事に証拠がないこと。

 そもそも平民相手なので罪にはならないこと。

 婚約者たる私を差し置き平民女にうつつをぬかす不誠実さ。

 生徒会の男たちを侍らせる女の娼婦のごとき淫乱。

 汚らわしい商売女に騙された男たちの愚かさ。


「殿下、お立場に相応しくないのは貴方の方ですわーー」


 果たして、騎士たちが取り押さえたのは第一王子とヒロイン、そして生徒会の男たちでした。


 騒然となるパーティー会場のなか、見送る私の手を取ったのは第二王子でした。

 その場で新たなる婚約を申し込まれ、もちろん受け入れました。


 後日宮廷にて行われた国王臨席の裁判にて、第一王子の廃嫡と去勢のうえの幽閉、生徒会役員のうち貴族のものは廃嫡のうえ幽閉または放逐、平民のものは奴隷落ちのうえ鉱山送り、そしてヒロインは奴隷落ちのうえ男性刑務所送りとなりました。


 ヒロインはほんの二か月ほどで死んだようです。

 それを聞いたときは、売女に相応しい結末とはいえ、心が痛みました。

 しかしそれよりも、運命に、原作に、第一王子とヒロインに完全勝利した喜びで、私の唇には笑みが浮かんだのでした。





■■■





 ーー不穏な空気が流れ出したのは、ヒロインの死からひと月も経たない頃でした。

 王宮の外からはこれまでに聴いたことのないような怒号が度々聞こえるようになりました。

 公爵家の馬車や、王都の別邸に投石を受けたり、いわれなき中傷が落書きされるようになりました。

 何人か見せしめに処刑しましたが、落ち着くどころかますます酷くなっていきました。


 懇意にしていたはずの貴族とも急に連絡がとれなくなることが増えました。

 公爵家の取引先もいくつかなくなったようです。


 そしてある日ーー王太子の婚約者として王宮に滞在していた私の部屋に何人もの兵士が押しかけ、有無を言わせず牢に入れられました。

 訳がわからず抗議しましたが、聞き入れられることはありませんでした。


 数日ののち、裁判所にて私に告げられたのはーー死刑の判決でした。

 罪状として反逆、殺人、脅迫など幾つも連ねられ、弁護人からもまともな助けもなく、私の言い分は何一つ聞き入れられませんでした。


 なぜ。どうして。

 貴族牢の中で半ば狂ったようになりながら繰り返す私のもとに一人の男が訪れました。

 記憶よりもだいぶ痩せていましたが、生徒会役員だった貴族のうち一人でした。

 逆ハーレムの一員らしくやつれてもなお凛々しい顔立ちに、凍えるほど冷たい表情を浮かべて言いました。


「解っていないようだから、死ぬ前に教えてやる」


 そうして私が死刑に至った理由を話し始めたのでした。





■■■





 ーーお前は、貴族が平民を殺すのは、罪ではないと言ったな。

 そのような法はない。

 200年ほども遡れば、貴族は平民に対して司法権が有ったから、例えば侮辱罪などで好きに処刑できた。……まあ、お前はそんな手順も踏んでいなかったわけだが。

 だが今は貴族の権利に含まれていない。貴族が平民を殺せばただの殺人だ。


 もちろん裁判で貴族有利でないとは言わない。現実には、いろいろな理由をつけて無罪になったり、隠蔽されたりすることもままある。

 罪にならない、と思っている貴族はまだまだ多いだろう。


 だが、公言するようなことではない。


 あの場には沢山の人間がいた。もちろん、平民も。

 彼らがお前の発言を聞いてどう感じたと思う?


 お前自身もそうだが、そのお前を育んだ公爵家の時代錯誤な貴族主義が王妃には相応しくないと、以前から婚約者から下ろす方向で王家側では固まっていた。

 公爵の抵抗が激しかったのと、平民も通う学園での変化をーーまたは婚約破棄にいたる明確なやらかしを期待して様子見されていたが。


 あの日、証拠がないと言ったな。

 あの場になかっただけで、司法局にはしっかり提出していたさ。今日まで守り抜いた担当者たちには頭が下がる。


 そしてあの日お前が起こしたクーデター……

 何を驚いた顔をしている。

 お前ら回顧的貴族主義者どもが王太子殿下を含む王家を監禁し、第二王子への王位継承を迫ったのを他に何という。


 反逆罪は死罪だ。法で決まっている。


 妃殿下や姫殿下、王太子殿下を人質にとられ、従わざるを得なかった陛下……。

 まともな貴族や司法局を締め出して行われたあの悪趣味で醜悪な裁判もどき……。それを受け入れるしかなかった陛下の御心を思うだけで、お前らへの殺意がいくらでも湧いてくる。


 幸い、王太子殿下は取り返しがつかなくなる前に、心あるものたちの手で逃がされたのでご無事だ。……お体はな。

 私はその時共に助け出された。幸運にも。

 われら生徒会は何人か欠けてしまった。奴隷などと……国民を奴隷にする事など禁止されてどれだけ経ったと思っているのか。一生消えない傷を負った者もいる。


 そして彼女は……。


 ……彼女は、平民女性として初の主席入学者だ。お前は男を侍らせているなどと言っていたが、生徒会に女性は彼女だけだ。教室では女性の友人たちと共にいた。

 知っている? ……それなのにあんな事をほざいたのか。


 様々な批判も差別も、賞賛も偶像化も、乗り越えていく強い人だったよ。


 常に注目の的となる彼女は、いつも厳しく己を律していた。

 王太子も。……惹かれ合う気持ちは見て取れたが、仲間や友人として以上のやりとりをする事はなかった。

 お前が婚約者ではなくなるのはほぼ決まっていたが、身分の問題もあるからな。


 平民王妃の風聞は、むしろお前の加害行為から発生したものだ。彼女は注目されていたから、それを害しようとするお前も目立っていた。

 破局寸前の婚約者が嫉妬から嫌がらせをしている、ならば彼女が新しい婚約者に決まっているのでは、とな。

 ……お前は始めから彼女にきつく当たっていたな。試験もない淑女科に通うお前とは何の関係もないはずだが。なぜだ?


 ……妄想か。そんなもので、彼女は……わが友たちは……。


 ……お前と第二王子、回顧貴族どもによるクーデターはすぐに知られた。我々国王派や融和派の貴族はもちろんだが、平民たちにも。

 お前は悪い意味で有名だったから、特に平民には危機感が募っていった。


 そして彼女の……末路が、判明した。


 わが国での平民革命の兆しはこれまでもあったが、我々の努力で緩やかな移行で推移していた。

 平民議会の設立も20年を目処に発表予定で内々には進んでいたしな。


 それが一気に沸騰した。

 良くも悪くも変化と希望の象徴だった彼女の、あまりにも悲惨な結末に誰もが怒り狂った。

 あのような醜悪な私刑・・で失われて良い人ではなかった。

 聞こえていたんじゃないか? お前たちの罪を償えと叫ぶ声が。陛下を解放しろ、でなければ国民が立つと叫ぶ声が。


 お前たちは次第に追い詰められた。首謀者ども以外は手を引いた。

 国民だけではない。我々まともな貴族もどうにかして陛下を救おうと手を尽くした。

 革命が起きる前に国賊どもを討ち滅ぼし、国を守る必要もあったしな。平民革命は大抵悲惨な結末を迎える……。


 そしてついに陛下を解放できた。妃殿下はお亡くなりになられたが……。

 犠牲は大きかったが、致命的なことになる前に収められた。

 国民も王太子殿下には同情的だ。譲位や平民議会の設立は早まりそうだが……まあ、これからのことだ。お前が知ることはない。


 お前ら反逆者も殆どを捉えた。

 すぐにでも八つ裂きにしてやりたかったよ。いや、それでは足りない……皆や、彼女以上の苦しみを与えたかった。

 だが我々はお前たちとは違う。決まりきった結果でも法に則り裁判を行い、ギロチンにかけてやる。


 苦しみは地獄で味わうと良い。





end





貴族絶対主義と平民女子が通える共学校って矛盾してるな……という気持ちからかっとなって書きました。

原作ありならなおさら。

平民女子が王妃になれるのが正史な世界観なら「平民と結婚しようとした王子と平民娘を法に基づかなさそうな感情的残虐処刑」とか革命の火種以外の何でもないな……と前々から思ってました。

市民革命までいくとバッドエンド過ぎるので王太子生存からの軟着陸エンドです。迷いましたが去勢もなしにしました。セーフ。

本編に入らなかった小ネタ

・知識チートは成立してません。アイデア出ししただけなので……。パパは誉めましたが本気で取り組みませんでした。

・悪役令嬢子は法律の勉強してません。そういうのは文官や司法官の仕事です。地理とか語学はちゃんとやってました。常識や一般的な倫理観が有ればいいのだ。なお

・王家が以前まで主に婚姻を結んでいた国の王家が革命でなくなったり、議会制導入などから婚姻外交の時代じゃないな……ということで国内貴族と婚約しました。大失敗。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ