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敵...??

夕方の18時、まだ少し明るい時間帯。

春風は暖かく、ドキドキする心臓を温めてくれる。


店の煌びやかなネオンが、久しぶりの緊張をさらに強くさせる。


(心臓がうるさい……)


扉の前で深呼吸をひとつ。

私は今日、ようやくここに来れた。


(1ヶ月....やっと!今日こそはもっとお金を貢いでやるわ)


ドアが開くと、いつものようにスタッフが明るく出迎えてくれる。

久しぶりすぎて、ちょっと視線がくすぐったい。


(何か変?...いつも通りの格好でメイクだって頑張って来たんのよ、燈さんに会うために)


でも、そんな不安は、彼女の姿を見た瞬間、吹き飛んだ。


――そこに、燈さんがいた。

凡人が着るには派手な真っ赤なドレスにキラキラのメイク。

変わらない綺麗な笑顔。なのに、どこか緊張してる雰囲気だった。


「……莉子じゃない!久しぶりね」


柔らかく微笑みながら、でも一瞬――ほんの一瞬だけ、本当に嬉しそうに笑ってくれた気がした。


「はい、久しぶりです。来ちゃいました」


「ふふ……嬉しいわ。すっごく」


ほんのり紅くなった頬。

それを見て、私も顔が熱くなる。


(やっぱり好き……)




案内されたのは、いつもの端の席。落ち着く場所。

席に着くなり、燈さんは静かに私の横に腰を下ろした。


「何飲む?」


「....ジュースでお願いします」


「了解。じゃあ私は……カシスグレープにしようかな」


程なくして飲み物が届き乾杯をする。


少しだけお酒の匂いがする距離。

久しぶりの近さに、手が震えそうになる。


(何を話せばいいの...前は何話してたっけ)


話の内容に困っていると、燈さんが話しかけてくれた。


「学校、忙しかった?」


「はい、ちょっと。試験とか部活とか、いろいろあって……」


「そう……頑張ってたのね。えらいわ」


ぽん、と頭に優しく手が乗り撫でてくれる。


嬉しくて泣きそうになる。




しばらくは静かに話した。

学校のこと、日常のこと――でも、どこかぎこちなさも残っていた。


燈さんも、少し様子をうかがうような表情で、時折私の顔を見つめてくる。


「ねぇ、莉子私に何か言いたいことある?」


「えっ...」


(何でそんなこと聞くの?もしかしてホストの事聞いてもいいの?)


迷った挙句、聞こうと口を開く。


「やっぱり私の勘違いかも...ふふごめんなさい。今日は楽しい話をしましょ」


「はい...」


言いたいことはたくさんあるのに、全部喉で詰まってしまう。

その時だった。


「赤姫、今日も沢山貢いでやるよ〜!」


「武士様、他のお客様の迷惑になるので大きな声は控えてください」


「あ、わるい。赤姫に会えた嬉しさでつい...」

照れながら笑う姿にキャバ嬢の人も気になるのかチラチラと伺うように見ている。


あの人確か...

例のホストの人だ。燈さんのNo.1昇格を支えたと噂の人。

モデルのようなスタイルに、堂々とした歩き方。スーツも似合いすぎて腹立つくらい。


「武士さん!来るなら言ってくださいよ〜」


赤姫さんは最初に会った頃のように、にこやかな笑顔をして対応する。


「ごめんて!でも赤姫さんに会えると想ったら...」


「そういえば許すと??もう」


2人は私を忘れたかのように会話を盛り上げる。

私が赤姫さんを指名してついた席なのに何でその人に構うの?

(私だけを見てよ)


「今日も一杯付き合ってくれるよね?」


「……はいはい、仕方ないですからね」


にっこりと笑うその顔が、むかつくほどキレイだった。

思わず、ジュースのグラスを強く握ってしまう。


(どうして、邪魔するの……)


燈さんが、少し申し訳なさそうにいう。


「莉子、ごめんね……ちょっとだけ話して来たら戻ってるから」


その横で、ホストの男が涼しい顔で笑っている。

彼の香水がほんの少し、私の席まで漂ってきた。


嫌だ。

今だけは、私の燈さんを誰にも取られたくない。


「……燈さん」


他の人には聞こえないぐらい小さな声で呟く。

自分の声が、ほんの少しだけ震えていた。


燈さんが振り返る。その瞳は、やさしいままだった。


私はそっと――燈さんの服の袖を、きゅっとつまむ。


声に出さなくても、伝えたかった。

「行かないで」って。

「もう少しだけ、一緒にいて」って。


でも燈さんは、少しだけ目を見開いたあと、苦笑するように微笑んだ。


「……そんな顔しないで?絶対に戻ってくるから。それまでゆっくりしてって」


自分の手に燈さんの手がそっと重ねられる。

暖かくて、優しくて――でも、その手は離れてしまう。


「……わかってます」


これ以上心配させないように、迷惑にならないように今日1番笑った。泣きそうになるのを堪えた。

本当に、ただそれだけのことなのに。


(分かってたこと。私は客の1人でしかない。でも、なんで……こんなに苦しいのよ)



















~燈~


(ああ、ほんとに……もう)


袖をきゅっと掴まれた時、心臓が跳ねた。


あの子が、そんな仕草をするなんて。

そんな風に、私を止めようとするなんて思わなかった。


でも、行かなきゃいけない。

私はこの世界だけでもNo.1になる。


だから、背中を向けた。


でもその一瞬、振り返りたくなってしまうくらい、

――あの子の目が、悲しかった。



武士さんとの卓につきながらも、心はそわそわしていた。



「赤姫さん、なんか今日テンション低くない?大丈夫?俺が元気出させてあげるよ」


「ありがとうございます...でも気のせいですよ。お酒、何がいいですか?」


にっこり笑ってみせる。プロとして。

でも、その笑顔の裏側では、あの子の手の感触がずっと残っていた。


(すぐ戻るって言ったけど……待っててくれる?)


ほんの少しだけ、期待してしまう。


あの子がまだ、あの席で、待っていてくれるんじゃないかって。


















〜莉子〜


(……ばか。私、何やってるんだろう)


ぽつんと残された席。

飲みかけのジュースが、少しだけぬるくなっていた。


あの袖の感触。彼女のぬくもり。


それを、何度も思い出していた。


「……凄く綺麗だもの。人気になって当然よ。私1人だけが独占なんてできるわけないのよ」


わかってる。

わかってるのに、心は全然納得してくれない。


氷がカラン、とグラスの中で鳴った。



燈さん達の卓からは楽しそうな声が聞こえて来た。

例の男が1番高いお酒を2本入れたらしい。

それに大袈裟に喜ぶ燈さん。


(何でこんな光景見せられないと行けないのよ...私はそのために来たんじゃないのに)


モヤモヤとした嫉妬という感情が胸を焦がし続ける。


(つらい...もう帰ろうかな)


そっと席をたち燈さんの視界に入らないようにこっそりとお金を払ってお店を出る。


今日払った金額は3000円弱という何の役にも立たないお金だった。










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