第8話
エリサさんに「慌てなくとも、これからいくらでも聞く機会はありますから落ち着いて下さい。」と言われ、それもそうだと冷静になった私はレイディアムに聞けなかった事を彼女に聞くことにした。
婚約云々は本人に聞くからいいとして、他に知らなければならないのは悪魔そのものについてだ。
「ねぇ、エリサさん。ちょっと聞きたい事があるんだけどいい?」
「勿論です。私に答えられる事ならば喜んで。」
「あのね、悪魔について知りたいの。あ、そういえばエリサさんは何の種族なの?エリサさんも悪魔?」
「いいえ。私はヴァンパイアですから悪魔じゃありませんよ。」
あ、良かった。出来れば悪魔の人以外から聞きたかったから。
「そうなんだ!ヴァンパイアってことはエリサさんも血を飲むの?」
架空の世界にしか存在していなかった人が目の前にいると思うと、どうしても興味を惹かれてしまう。
「勿論飲みますよ。”運命の人”の血だけを、ですけど。」
「”運命の人”?」
「はい。魔界に生まれた者には皆、”運命の人”がいるのです。長い一生を添い遂げる人が。ヴァンパイアはその運命の人の血しか飲めません。そのせいかヴァンパイアの運命の人は極近しいところで生まれます。ですから出会え無いという事はまずありませんが、他の種族だと出会える方が稀なほどです。」
凄い。何だか物凄くロマンチックだ。魔界なのに。もっとおどろおどろしい感じを想像してたよ。
「いけません。話が逸れてしまいましたね。悪魔についてでした。カエデ様は悪魔というのはどのようなものだと考えていますか?」
どのような…?どのようなっていうと、沢山あるけどやっぱり――……
「凄く狡猾で極悪非道なイメージかなぁ?あとは快楽主義で自分が愉しければそれでいい、とか。」
こんなかんじかな。あんまり良いイメージは無いんだよね。
「そうですか…。何と言えばいいんでしょうか、確かにそれも間違ってはいませんが、そればかりでもないんですよ。」
「んん?どゆこと?」
そればかりではないって?
「確かに悪魔は極悪非道ですが、それを向けるのは敵とどうでもいい者―――早い話が他人ですね。だけなんです。」
「そうなの?自分以外は見境なくって訳じゃ無いんだ?」
「はい。まぁ中にはそういう方もおりますが、それは悪魔だからというより本人の性格ですね。ですから基本的に私達とあまり変わらないのですよ。愛する者を傷つけたりはしないし、慈しみます。親愛の情もちゃんと持っていますよ。ただ、一度敵となれば容赦なく、完膚なきまでに潰すというだけです。」
エリサさんの話に私は成る程と頷いた。
悪魔も普通に人を(悪魔を?)愛すし、大切にするようだ。冷酷なところはあってもそれを自分の敵に向けらるのは仕方がないだろう。人間だって多かれ少なかれそういうのはあるだろうし。全く関係の無い他人にも、というところは少し引っ掛かるけど、取りあえず安心はできた。
だって、ねぇ?一応婚約者って事になってるし、相手が安全なのかどうかも分からないんじゃどうしようもない。もしレイディアムがヤバイ人だったらビクビクしながら毎日を過ごさなくてはならない。それは絶対に嫌だ。この屋敷の外に出て自分の身を守れる自信もないけど、閉じ込められていたぶられるよりは逃げる方がマシだろう。
そんな風に考えていたけど、大丈夫そうだ。
「ありがとう、エリサさん。よく分かったよ。」
ニッコリと笑顔で御礼を言った。いや本当に助かったよ。
「お役に立てたなら幸いです。」
エリサさんもニッコリと返してくれて、言葉を交わして緊張がとけた私達はお昼を知らせるメイドさんが来るまで夢中になってお喋りを楽しんだのだった。