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第5話

柔らかく暖かいものに包まれた心地良い微睡みの中、フワフワとまるで羽でくすぐられるようなこそばゆさを感じて少しだけ意識が浮上した。


それは額に触れて、瞼に触れ、頬、首筋を通って鎖骨の辺りまでおりて行った後、再び頬に戻ってきた。


至福の時間を邪魔されたくなくて、身を捩ってそれから逃れようとするのにクスクスと小さく笑みを零しながら追い掛けてくる。


うぅ、しつこいなぁ。まだ眠ってたいのに…………てか、あれ?笑う?


「起きて下さい。朝ですよ。」


耳元で囁かれた腰が砕けそうな激甘ボイスに、私は夢から現実にそれはもう超スピードで引き戻された。


パチリと目を開けると、目の前には(自称)私の夫予定だという悪魔のそれはそれは美しいお顔が。


「おはようございます。」


まだ驚きから回復出来ていない私に彼―――レイディアムは言って、額にキスをしてきた。そのまま下に向かって行き瞼、頬と辿っていって――――――………さっきくすぐったかったのはこれのせいか!!


寝ている間にキスされまくってたんだ!!


驚愕の事実に唖然としている間に、先程と同じように鎖骨まで一度下がって頬に彼の唇が戻ってきた。


良かったこれでこの羞恥地獄から解放される、と安堵したのもつかの間、そのまま離れて行くと思っていたレイディアムの唇はなんとそのまま私のそれに重なった。

かなり驚きはしたが、しかしこれで二度目なのだ。今度は好き勝手させないぞと固く口を閉じた。レイディアムが舌で押して開くよう促してくるけど無視してやる。


「口、開けて下さい。」


フルフルと首を横に振る私の頑なな態度に、彼は一度口を離した。


あ、諦めてくれた……?


一瞬そう思ったが、どうやらそうでは無いということが彼の顔で分かった。


笑っているのだ。とても。


いや、私が起きてからずっとレイディアムは笑顔を絶やさなかったのだが、何と言うか笑顔の種類が違うのだ。


ニコニコという感じの邪気の無い笑顔から、口の端を上げてニヤリと笑う邪悪な笑みになったというか…………。


とにかく、身の危険を覚えるには充分な黒さを持った顔だった。


――――え、あ、何か……ヤバイ?


「なら、仕方が無いですね?」


何が!?何が仕方無いの!?


気がつかない内に無意識で後ずさっていた身体をグイッと引き寄せられ、再び互いの唇が重なった―――――のだが。


ふうぅぅぅぅ!息!!息が出来ない!!!


口と同時に鼻もつままれたのだ。勿論口は開けないし、鼻をつまんでいる手を引っ張ってどかそうとするけどそんなに力が入っている訳でもないのに何故か外れないし。


暫くは負けるもんかと頑張っていたが、しかし限界が近づいて来た。


うぁぁ、そろそろキツイッ。


でもでも、口開けちゃうのはヤダ!


いつの間にか閉じていた目を開けてチロリと彼を見ればバッチリ目が合ってしまった。その目に面白がっているような色を見つけて尚更悔しく思う。


だって、余りにも余裕そうなんだもん!こっちはいっぱいいっぱいなのに!


そうはいっても呼吸というのは何時までも我慢してられるものじゃない。


も、もう……限界っ。


プハァッと水の中から顔を出したときみたいに思いっ切り息を吸った。


するとまぁ、案の定というか何というか、開けてしまった口から入って来たのは彼の舌で。


「ふっ…ンン……ぁふ………ん」


我が物顔で口内を動き回るそれに翻弄され、彼が満足して離れたときには息も絶え絶えになっていた。


「すみません。少々浮かれていて、歯止めが効きませんでした。大丈夫ですか?」


そう言いながらレイディアムは私を抱き起こし、ベッドに腰掛けた自分の膝の上に横抱きにして乗せた。


「さて、昨日の事は覚えていますか?」


その言葉に昨日起こった色々な事が頭に浮かぶ。あんな強烈な事忘れるものか。


「はい。」


「良かった。では昨日の会話の続きをしましょうか。まずは、貴女の名前を教えて下さい。」


「藤咲 楓です。えと、藤咲が姓で、楓が名前です。」


「カエデ。綺麗な名前ですね。貴女によく似合う。それではカエデ、一つずつ説明していきま……」


グキュルルルル……。





―――――――――――――は、恥ずかしい!

お腹なっちゃった!!

顔が熱くて見なくても真っ赤になっているのが分かった。


ち、沈黙が辛い……。

どうしよう、黙ってるのが辛い。でも、顔上げるのも恥ずかしいし…。


脳内会議を行っていた私を現実に引き戻したのはククッという押し殺した笑い声だった。


「本当に…可愛い人ですね。」


クスクスと笑いながら私の頬にキスをして、続きは朝食を食べてからにしましょう、と私を膝から下ろし彼は立ち上がった。


レイディアムに手をとられ、案内しますと手を引かれた。


部屋を出てすぐのところで控えていたメイドさんのような人に朝食の用意を、と言った彼にメイドさんは、はい旦那様と答えてどこかへ向かった。そう、彼女は旦那様とレイディアムを呼んだ。


あぁやっぱり、と思う。やはり高い地位を持った人なのだと。


だって、凄いのだこの家。物の価値なんか分からない私にすら高価だと分かるものばかりだし、さっきまで私が寝ていた部屋は広いなんてもんじゃなかったし。


と、そこまで考えて彼がこちらをジッと見ている事に気がついた。


「あの、レイディアム…様?」


少し迷って様付けしてみた。さんでは失礼かと思ったのだが彼は眉間に皺をよせた。


「レイディアムで構いません。それに話し方も、昨日のように話して下さい。」


昨日…?

いまいち伝わってない事が分かったのか、彼は更に付け足した。


「私の髪と瞳を褒めてくれたでしょう?」


にこやかに微笑まれて思い出す。自分の恥ずかしい言葉を。


「いや!あれは、そのですね、えっとあの…」


ようやく収まりかけていた顔の赤みを取り戻しながら、しどろもどろになった私に彼は触れるだけのキスをした。


「素のカエデで接して欲しいし、名前も様付けなんてよそよそしいのは嫌ですよ。」


「そ、それじゃあレイディアム…さん。」


やっぱり呼び捨ては無理!まだ私にはハードルが高いよ。


「まぁ、今の所はそれでよしとしましょうか。」


まだ少し不満げだけど、取りあえずは納得してくれたらしい。


では行きましょうかと言った彼に再び手を引かれて歩きだす。


そんなこんなで契約初日の朝は始まったのだった。



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