第3話
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――は?
悪魔?悪魔ってあの悪魔?デビル?
「冗談ですか?」
「まさか。正真正銘本物の悪魔ですよ。この空間の時間を止めたのも私ですし。信じられないのなら、もう止めておく必要もありませんから取りあえず元に戻しましょうか。自分の目で見れば信じられるでしょう?」
あ、やっぱり。薄々そうかなーとは思っていたけどこの白黒世界は彼の仕業らしい。
そんなことを考えている間に彼はパチンと指を鳴らした。
瞬間、世界に色が戻り時間が動き出す。瞬きすることも出来ない、本当に一瞬の出来事。
下を向けば私にもちゃんと色がついていた。
「信じて頂けましたか?」
その言葉にコクコクと何度も頷き、返事をしながらずらしていた視線を彼に向けたのだが。
「本当に悪魔だったんです…ね!?」
彼を見て驚いた。彼にも色が戻っていたのだ。いや、それはいい。私にも景色にも色は戻ったのだから彼だってそうだろう。気になるのはそこじゃ無い。
彼が纏っていた色だ。
身につけているものは全て漆黒。でも、彼の髪と瞳はそれはそれは鮮やかな――――――――――――――――真紅だった。
「――――綺麗……。」
彼が驚いたような顔をしたが構わず続けた。
「貴方の髪と瞳、とても綺麗。」
自分が素になっていることにも気付かず、本心からの笑みを彼に向けた。漆黒に栄える鮮やかな赤はそれほどに魅力的だったのだ。
彼は一瞬だけ驚きに目を丸くしたが、すぐに壮絶な色気を振り撒く笑顔になった。
そういえば、色彩に気を取られて気がつかなかったけど、この人凄くカッコイイ。テレビで騒がれてるイケメンだとか目じゃない位にカッコイイ。
「ありがとうございます。」
ポォ、と見とれていたのが彼の言葉で正気に戻る。
あぁ!!というか私助けてもらったのにお礼すら言ってない!
「あ、あの!さっきは助けてくれてありがとうございました!」
「いいえ、気にしなくていいですよ。貴女はそれに見合った代償を払うのですから。」
ニコニコと心なしか上機嫌になったように見える彼から告げられた言葉にビクリと私は震えた。
そうだ、契約。私は善意で助けられたのではない。取引によって助けられたのだ。
しかも彼は悪魔だ。一体どんな要求をされるか分からない。一生こき使われるとか?、凌辱されるとか?い、いたぶり殺されるとか?!
「貴女の払う代償はこれから先の一生の全て。」
一生こき使われるコース?い、嫌だ!でも殺されるよりは…。
「これから先の人生の全てを私の傍で生きること。」
――――あれ?なんか今の言い方おかしくない?それだと何だか一生こき使ってやる宣言っていうより…………
「私の名はレイディアム・アストリア
貴女の夫となる者の名です。」
夫?
「おっとぉぉぉぉぉぉっ!?」
もう無理だ。完全にキャパオーバー。今日の出来事の何より衝撃が大きかった。大きすぎる。こんなのただでさえギリギリなところで保っていた頭が受け止められる訳が無い。
今私は頭から煙を出しているんじゃなかろうかと思っていると、やはり傍から見ていても分かるくらいの混乱ぶりだったようで。
「もう疲れたでしょう?眠ってしまって構いませんよ。」
と言われ、抱き抱える力が少し強まった。そしてそのままゆっくりと背中を撫でられる。
思い出したことでドッと押し寄せて来た疲れと眠気に抗う事も出来ず、一定のリズムで上下する手の平の心地良さを感じながら私は眠りの世界へと旅だったのであった。