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「…………なんかあるだろ、どっかに」


「工具箱工具箱…………」


 5人はガサゴソと色々漁り出していた。

 まったくこんな状況でも逞しいものだ。

 この6階にいる人達はどちらかと言うと危機意識が高いのだろう、桃園の話しが聞こえてから荷物の整理をしている様子も見られていたし、長い棒や何故かあったバット等を手の届くところに置いている。


「………………あった」


 バックヤードのような場所にあった工具箱を見つけた上司は手当り次第抱えて米田の所に行った


「米田君、これで大丈夫だろうか」


「あ、助かります!!」


 ガチャガチャと音を鳴らしながら使えそうなものを分別していくと、刈谷も合流。


「……これでフェンスはいけそうじゃんね?」


「あと、武器にもなるな」


「……リーチが短ぁい」


「しゃーないべよ」


 佐藤が悲しく言うと、刈田が肩を叩いた。


「……課長、佐藤さん、これ……」


「ん?」


「なに?」


 中が見えない紙袋に入れてある何かを渡してきた桃園。

 2人が紙袋を開けるとそこには生理用品が入っている。


「……とりあえず、探してかき集めて来ました。鞄に入れてください。必需品です」


「「………………たしかに」」


 2人は頷き直ぐに鞄に入れると、キッチンから持ってきたキッチン袋やトイレにある消臭袋なんかも鞄に入れるように渡してくる。


「……桃園さん凄いね、頭になかったよ」


「ありがとう、助かるよ」


「まだ、欲しいの有るのに悔しい……絶対あるはず。……まさか。備蓄食材しか持ってきてないとか……」


「え?桃園さん?」

 

 急に走り出した桃園を慌てて佐藤が呼ぶと、それに反応した男性2人は振り返る


「どうした!!」


「桃園さんが走って行っちゃったの!」


「えぇ!!」


「多分、備蓄庫だ!」


 上司の声に弾かれたように走り出す米田と刈谷。

 佐藤と上司はそのまま待機しているのだが、周りの人間の視線が気になりだした。

 どうやら桃園が何を取りに行ったのか気になっているようだ。


 数分後戻ってきた桃園の手には大きめの箱を抱えていて、さらに刈谷や米田も袋を持っている。


「……何を持ってきたんだ?」 


 上司が聞くと、箱を開けた桃園は小分けになっている何かを全員に手渡した。


「…………簡易……トイレ」


「いずれ電気止まるだろうし水も無くなるから、とりあえず鞄に入れるべき!」


「がっつり防災……」


「無いより断然いいよ!」


 この時の桃園の判断が、後に感謝される事をこの4人はまだ知らなかった。

 2箱を開けた桃園は5人でわけあい、残りの箱はテーブルに置いておいた。

 まだ人がいるのだ。必要かもしれない。

 さらにボディシートや洗髪料、水で大きくなる小さなタオルなど嵩張らない物を選んで全員の鞄に詰め込んだ桃園。

 たしかに量は増えたが走れない訳では無い。


「……逃げる時に鞄を掴まれないように気をつけよう」


「……絶対気を付ける」


 ゴクリと唾を飲み込み頷く桃園は、大きめのリュックをギュッと掴んで言った。

 そして見つけたガムテープで鞄の余分な部分をぐるりと締めるようにテープで巻きつかめる範囲をなるべく減らした桃園は満足気に頷いたのだった。










 あれから3日が経過した。

 周りはまだまだゾンビが徘徊していて解決の目処は立たなさそうだ。

 かなりの量あった保存食は桃園の指導の元大事に食べている為まだ米田達には余裕があったが、1階下にいる人たちは長引くと思っていなかったのか、それとも安易に食べてしまったのか手持ちが少なくなってきているようだ。

 大事に食べている人の残っている食料をチラチラと見始めているらしい。

 1日数回、扉の確認の為に下に行く刈谷がそんな様子を確認しているらしく、危険を察知して鞄は米田に預けて見に行っている。

 そして、上司の提案で分けた食材をさらに分けビニール袋に入れたものを屋上の見付けにくい場所に保管することにした。

 屋上への入口は米田たちがいる場所から良く見える為、誰かが上に上がらないか交代で監視をしている。


「……この状況で安易にあげますとか言えないからね」


 佐藤は呟くように言うと、桃園は眉をぎゅっと寄せた。


「助け合いって大事だけど、パニックになる状況だと食料の奪い合いになるから微妙なんだよねぇ」


「…………桃園の意見が俺らと一緒でよかったわ」


「いくらなんでも何も考えないでどうぞー、とか無理だよー」


 テレビを見て、窓から下の様子を見て分からないなりにも自分の行動を考えるようになっていた桃園は最初の頃のオロオロする様子はなくなっていた。

 むしろ逞しくなっているくらいで、防災という自分に出来る事があったことに自信が出たのだろう。


「…………いつまで続くのだろうか」


「そればっかりはなんとも」


「何が原因か、終息の方法はどうなのか。……ぜーんぜんわかってないからなぁ」


 上司の言葉に米田と刈谷がそれぞれ答えていくと、何やら下からザワザワと声が響いてくる。

 なんだ?と佐藤が階段へと顔を出すと、叫び声が聞こえてきた。

 なにやら抑えろとか、何考えてるとか聞こえてくる。

 それは明らかに防火扉の事だろう。

 佐藤はすぐに振り返り4人を見た。


 

「…………まずいかもしれないよ、入ってくるかも」


「え!?だって、扉はしっかり閉まってたはず……」


 鞄を持ち同じく階段へと顔を出した刈谷が少し話を聞いていたが、振り返り全員を見る。


「いそげ!屋上行くぞ!誰かわからないがどっかのバカが扉開けやがった!抑えてるみたいだが時間の問題だ!」


 既に全員鞄を持ち移動出来る準備をしていた米田たちは一斉に階段を駆け上がり始めた。

 それを見ていた6階にいた人達も慌てて荷物を持ち走り出したが、米田達のように小分けしてない鞄が重そうだ。


「フェンス外してある!?」


「昨日のうちに外して2箇所だけ残してある。直ぐに外す」


 上司が工具箱を持ちすぐにフェンスの両端をとめている金具を外しにかかると、佐藤と桃園が残してあった食料や衛生用品がはいった袋を掴み鞄に押し込んだ。

 残り3人分を手に持ったまま走り、上司の鞄を勝手に開けてひとつを押し込んだ。


「またせた!」


「…………っよし!」


 米田と刈谷がロープを持って走ってきた。

 そんな2人に桃園は袋を渡し一時ロープを預かった。


「取れたぞ」


 外れたフェンスが外れ上司と佐藤がフェンスを端によせる為に持っていきガパリと開いた視界が隣のビルとの近さをきわだてている。


「……いけるか?」


 走ってジャンプしたら届く距離にあるビルに米田は目測すると、後ろから騒がしくバタバタと走ってくる音が聞こえてきた。


「迷ってる暇はねーべよ」


「だな」


 頷き米田が振り向く。


「先に行く、ロープを向こうに結ぶからちょっとまってて」


 そう言って急ぎ腰にロープの端を結んで助走を付けるために離れた。

 そして紐なしバンジーをする様に米田は走り出す。

 

 失敗したら死ぬ、でも、ここにいても死ぬ。


「…………っ……はは……」


 自分がどんな選択をしているのかなんて、なんて馬鹿げてると3日前の自分は笑うだろう。

 何の変哲もない世界で楽しく生活していたあの日はもう無くなってしまったんだ。

 こんな、こんなありえない状況があって言い訳がない。


「っっなんなんだよ……」


 ジャンプした瞬間、ギリっと歯を食いしばった米田はギリギリ足が届いた隣のビルのフェンスをガシリと掴み無事に着地する。

 米田でギリギリ。

 女性は厳しいかもしれない。


 振り向くと、米田達より後に来た6階の人達が到着していて、ジャンプした米田を目を見開き見ていた。


 刈谷は米田がロープを結んでいる間に力いっぱい鞄を投げ飛ばし隣のビルに送ると、それを見ていた佐藤達も頼む!と鞄を手渡していった。


「先に行け」


 桃園の腰に結んだ紐を外れないように結び助走を付けさせる。


「いくぞ!」


 ガタガタと震える桃園の背中を叩き米田に言うと、フェンス横で米田は待機した。


「…………こ、こわい」

 

「大丈夫だ、米田が向こうで支えてくれる。な?」


「そこに居ても死ぬだけだぞ!」


「っ!」


 泣きながら振り返り続々と来る人達を見てから手を握りしめた桃園は腰を低くした。


「……っ、死にたくない!!」


 走り出した桃園を米田は両手を出して捕まえる体制を取るが、ジャンプした桃園はビルまで届かなかった。

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