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「ほら、これ」
テレビが着くと、この地域にゾンビが溢れ出している様子が出ていた。
街中が映し出されていて、報道はその様子を事細かに伝えているのだが、現場にいる報道の人は近づいてくるゾンビからなんとか逃げつつカメラを回しているようだ。
こんな時にまで仕事根性を出さなくてもいいと思うのだが、この人達のおかげで情報がわかるのだ。
『ご覧ください!まるで地獄です!!人が人を襲っています!!見ているとわかりますが噛まれた人は後に起き上がりあの……名目上良く映画で使われているゾンビと、今は伝えさせて頂きます。あのゾンビのように起き上がり人を襲い掛かるのです!』
丁度起き上がってきた人を指差して伝えているキャスターの右隣から女性が襲いかかってきた。
それにいち早く気付いたキャスターはマイクと逆の手で持っていたバットを握りしめて大きく振りかぶった。
バキャァ……
『…………ただいま映像が乱れました。ご了承ください。』
血の着いたバットを握り締め真剣な表情で話すキャスターの服には返り血が飛び散っていた。
「…………なんなんだ、いったい」
『なお、この片岡市から発生していると考えられているゾンビ化現象は何処から始まり広がったのかは現在調査中との事です。皆さん、くれぐれも安全に気をつけてください。今わかって居ることは、生きた人間を襲う事。襲われた人間はゾンビ化するということ。ゾンビは頑丈です。力も強く簡単に人を吹き飛ばすくらいの力が有るかと推測されます。…………………………あ、あぶない!!』
なんとか動きながらレポートし、現状を伝えるタフなキャスターは、カメラマンの後ろからくるゾンビに気付きいち早く声を上げバットを振り上げた。
そこで画面がかなり揺れカメラが地面に落ちたのだろう、テレビに移る画像が地面を写していた。
『が、画像が、乱れました……スタジオに移します……え、えっと。こちらに寄せられた情報では…………』
顔色が青を通り過ぎ白くなっているキャスターは新しく渡された紙をガタガタと震える手で受け取った。
『し、視聴者から寄せられた、動画がこちら、です』
映し出されたのはまさに米田達がいるこのビルの通りだった。
下で蠢くゾンビ化したヤツらがビルの扉をこじ開けてまさしく入っていく所だ。
「……ここじゃねーか」
静かなつぶやきがテレビに釘付けになっている米田達の耳に入っていった。
『こちら、オフィス街の状況、です。既に建物周辺には、ゾンビ化したと思われる人間が、あつまっているようで、す。……いま、ビルの……中に……』
ビルに入り襲っているのだろう、悲鳴がテレビから聞こえ、キャスターは口を閉ざした。
『…………速報です。他県にもゾンビ化した人間が現れたとの事です。現在原因究明、及び対策を自衛隊や研究施設が立ち上がり…………』
読み上げることが出来なくなったキャスターの代わりに別の人に変わり、新しく来た情報を読み出した。
それは速報ではあったがいい情報では無いようだ。
「……やっぱりゾンビなんだ」
「わたし、ゾンビ映画って見ないんだけどどんな感じなの?」
桃園が米田の服を引っ張り聞く。
それは全ジャンル問わず映画好きの米田ならゾンビ映画も見ているのではないか、と考えたからみたいだ。
「……まぁこんな感じだよ。大体何でかわかんないけどゾンビが発生して、戦いながら逃げる。最後はそのまま逃げて終わりか、原因究明するか」
「……原因って?」
「さぁ、ウイルスとか、殺人兵器を作るためとか。薬剤系の会社から出たり……色々」
「…………助かるのよね?終わるのよね?」
「……そんなの俺が知りたいよ」
「そんな…………」
頭抱えて地面を見る米田の腕を掴んで軽く振る桃園を上司が止めた。
「止めないか桃園」
「だって!課長!知ってる米田に聞かないと!」
「知らないよ!!映画で、趣味で見てるだけなのに知るわけないだろ!俺に聞くなよ!」
「なんで、そんな怒鳴るのぉ」
泣き出す桃園が掴む腕を離すように引っ張り、米田は立ち上がりテレビに近付いて行った。
「なに、ゾンビ映画好きなやつ?」
「……悪いか」
「いーや、仲間仲間!俺も好きで見てた!…………まぁ、当事者にはなりたくなかったがな」
「まったくだ」
「俺、刈谷康介。よろしく」
「米田一臣」
「一臣な。よろー」
手をヒラヒラさせて笑った刈田を見て小さく頷く。
そして2人でテレビを見る。
「どー思うぅ?一臣」
「……まぁ、今んとこ2種類のゾンビが居るよな」
「だよな。嫌だなぁ、走るヤツいるよ」
「早いぞ、階段2弾飛ばしで上がってた」
「げぇー。まぁ、壁登るようなトリッキーが居なくて良かったかな」
「……たしかにな」
腕を組んでテレビを見てる2人の後ろに、1人の女性が来る。
「これは、変異ととるか、元々2種類いるか、どっちかな」
「……お!」
「あんた……あの階段の時の」
「あの時はありがとうね!」
階段でギラギラと目を光らせ走って上がってきた女性はふくよかな体を揺らして胸を張った。
「私もゾンビ映画愛好家。仲間に入れてよ」
にっと笑った女性に刈田は笑って女性の肩を叩き、米田も笑みを見せた。
「……調べる方法もわからないけど、変異なら強くなってるっていうのがゾンビ映画ならではだよね」
「ウイルス系と同じ感じに変異したら強くなるって感じだよな」
3人で並んで首をかしげると、上司が桃園を連れて戻ってきた。
泣き腫らした目をしていて上司の後ろに隠れている。
「すまん、私たちはなにをすればいい?」
割って入ってきた上司に3人が視線を向ける。
ザワザワとテレビや外を見ながら、扉は破られないのか!?と疑心暗鬼になっている人が騒いでいる。
さらには子供は大丈夫なのかと騒ぎ出す親が扉を開けようとするのを必死に止めていたり。
「………………え!!ちょっ……扉開けないで!?」
ふくよかな女性が慌てて近付くと、男は振り返り叫ぶ。
「俺は!子供と妻を助けに行かないと行けないんだ!!あの、あの学校に!子供がいるんだ!!」
指さした先はテレビに映っている女子高で、既にゾンビ化している生徒が蔓延っていた。
まだ逃げ惑う生徒が廊下に居るのを見て男性は慌てて外に行こうとしたようだ。
「まってまって!この扉1枚隔てた向こうにゾンビがいるんだよ!」
「なにも聞こえない!もう居ない!居ないんだ!」
「外を見ろって!たとえ居なくても外には行けないって!」
「いいんだ!行くんだ!」
「いくねーって!俺ら全員死ぬぞ!!」
暴れる男性を数人がかりで押さえ付け扉を死守すると、同じように家族を心配する人達はその姿を客観的に見て心配だけど……っとグッと堪えていた。