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7話完結の短めゾンビパンデミックです。

グロ表現も有りますので、苦手な方はそっと閉じて下さい。


 晴れ渡る青空の下、今日も響く誰かの叫びと呻き声。

 それは平和な世の中だった頃にはありえない有様となった現在での日常で、今日も誰かが化け物に変わる。

 

「ぎゃぁぁぁぁぁぁあああ」


「うわぁぁ!」


「た、助けて……たす……」


 外では悲鳴が響き渡っている。

 人が人を食う、そんな地獄が世界に蔓延った。


「どうだ?あったか?」


「…………だめね、ここには無いわ。とりあえず持っていけそうな食材系は運んだからもうここに用はないわ」


「そいじゃ、てっしゅー!」


 外で響いている叫びは途切れること無く、この室内との温度差は凄まじい。

 窓から見える外の様子を確認した後、静かにこの建物を後にした。

 そんな様子が日常化したのは、数週間前。

 もう、元の生活には戻れないのだ。







 




 それは、まるで悪夢でも見ているかのようだった。

 日常と変わらないただの普通の朝で、満員電車に乗って押されながらなんとか会社に出社する。

 そして8月の暑い中、オフィスでパソコンに向かう毎日だ。

 本当になんの変わりもないのだ。


「米田さん、これ3日後に使う至急の書類なんだけど間に合わせて貰えるかな?」


「はい、大丈夫です」


 上司に渡された書類を横目で確認した米田一臣は穏やかに微笑んで返事をした。

 そんな米田の机には未処理の書類が山になっていて仕事はまだまだ終わらなさそうだ。


「じゃあ、頼むよ」


「はい」


 上司を見送った米田は小さく舌打ちしてから、またパソコンに向き合った。


「……この机見て良く仕事まかせるよな、いや、無理だろ」


 ボソボソと独り言を言う米田の周りの社員達は聞いてない振りをして自分の仕事を処理していく。

 こんなことは日常茶飯事で、米田だけじゃなく全員が沢山の仕事を受け持っているのだ。

 ブラックな仕事をしたい訳じゃなくて、純粋に人が少なく1人に任せられる仕事の量が単純に多いのだ。


「……米田ぁ、がんばんべぇ」


「やってらんねーっすよー」


「やり手上司はこれでもさばけるから出来るって思うんだろうなぁ」


 1個上の先輩は呆れたように直属の上司を見た。

 グレーのパンツスーツに黒のパンプスを履いた若い女性でセミロングの髪をギュッと纏めて結んでいる。


「課長カッコイイけど、仕事の振り方がね、見てよこのデスクの上をさぁ」


 カラカラと椅子のキャスターを動かし近寄ってきた米田と同期の桃園かのん。

 茶色の肩までの髪をヘヤピンでとめている女性は自分の机を指さして言った。

 そこには皆同じくらいに積まれた書類の山で、パソコンには沢山のメモが貼ってある。


「……たまんねー」


 米田がガクンと頭を下げたのを先輩が軽く肩を叩いて激励した。


「よーし、やるかー」


「私も頑張りマース」


 それぞれ持ち場に戻って行った2人を見送り米田も仕事に向かった。

 それから1時間がたった頃だった。

 救急車やパトカーの音が響き渡り出した。

 ん?と顔を上げたのは米田だけじゃなく、何人もの職員が同じように顔を上げ窓から外を見る。

 1台2台ではなく、止まらず音が鳴り響いているのだ。


 ビルが立ち並ぶこの場所は、住宅外から離れている。

 その為子供達も近くに来ることなく静かな日中を過ごせるのだが、なぜか今日は外が騒がしい。


「……なんだ?」


 上司がカツカツと音を鳴らして窓に近づくと、通りには誰もいない。

 ただ、やはりサイレンは響き渡り人の声が遠くで聞こえるのだ。

 上司が立ったのを皮切りにぞろぞろと窓に寄って行く。

 なんかあったのかな?と話す声を聞き、米田も立ち上がった。

 その時だった。


「……な、なんだあれ」


 同じフロア内の別部署の人が震える手で何かを指さしている。

 それに合わせて全員が視線を向けると、服が破れ血塗れの女性が向かい側のビルの入口を叩いていた。


「な、なんかの事件!?」


「警察に連絡した方がいいんじゃない?」


 ザワザワとし始めたフロア内に米田も不安そうにしつつ窓際に行くと、女性は右腕と左腰からかなりの出血があるようだ。

 誰かが電話をしている様子が聞こえてきた。


「…………え?繋がらない?まってよー、もう1回かけよ」


 警察に掛けたはずなのに、回線がいっぱいですと言われたスマホを見てからもう一度電話をする。


「…………あ、すいません警察ですか?今職場なんですけど外で怪我をしている人がいて…………え?あの……は?外に出るな?いえ、助けを……は……はい…………」


「どした?」


 電話をした人は呆然と切れたスマホを見つめていた。

 冷や汗が吹き出してきていて、また窓から外を見ると他に人が増えていた。

 その人は怪我はしていないようだが、狂ったように何かを叫んでいる。

 血塗れの女性を見て、また悲鳴を上げているが、その女性は手を伸ばして痛みに耐えながら何かを言っているようだ。


「…………なにが、起きて……」


「どうしたの?警察はなんだって?」


「た……建物から絶対出るなって!ゾンビが居るって!!」


「きゃー!!噛み付いてる!!」


 警察に連絡した人がそう言った時だった。

 逃げて来た人達が来た方向から数人のユラユラと歩く人影を見つけたと思ったら、女性2人を見つけ早足で向かっていく。

 そして飛び付くように女性の上に乗った人影は首や腕に食い付いたのだ。


 それを見ていたフロアの女性が悲鳴を上げた。

 ありえないその様子に、仕事をしていたはずのフロア内が一気に混乱の渦に巻き込まれる事となった。


「……なんだよこれ……こんな事」


 窓に手を付き無意識に呟いた米田は、むしゃぼりつく人影をガタガタと震えながら見つめていた。

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