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うしおとらく  作者: 枇榔
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ある日の夜 sideらく

 仕事終わり、ふらりと立ち寄るうしおの家。15時くらいからずっと炭酸が飲みたいと思っていて、買って帰ろうと思ったけど、寒くてコンビニに寄るのも億劫だった。インターホンを押すと、気だるげないつもの声。その声を聞くだけで、どんな表情をしているか安易に想像出来る。それにしても、なんでこいつの声ってこんなにイケボなんだろう。自分に無いものを持っている人って、どうしてこんなに羨ましく感じるんだろうね。


 なんだかんだでいつも家にあげてくれるうしお。真っ直ぐ冷蔵庫に向かい、お目当ての炭酸があるか覗こうとすると、潔癖なうしおから手を洗えの指示。逆らうとめんどくさいから大人しく手を洗っていると、除菌シートがケースごと飛んできた。


 冷蔵庫のさっき触ったところを拭いて、今度こそ炭酸があるか確認をするも、入っておらず。完全に炭酸の口になっているが、外に出るのも嫌で、うしおに買ってきてもらえないか、試しに聞いてみる。


 秒で断られた!うん、分かってた!


 うしおは大抵ゲームをしている。しれーっと隣に座り、しれーっと一緒にゲームをする。飽き性な俺は耐えられず、構って欲しくてすぐにちょっかいを出し始める。


 「なんで?」の一言と表情で射抜かれた!


 ベッドに寝転がってiPhoneをいじるも、すぐにつまらなくなる。うしおのベッドにいつも転がっている、細長くて手足が長いクマのぬいぐるみを使って、またちょっかいを出す。


 こっちも見ずに「何?」の一言でまたも射抜かれた!でもその少し不機嫌な横顔好き!


 こうなったら、もういいや。ふて寝してやる。ま、狸寝入りだけどね。うしおが俺の名前を呼ぶ。ほんとイケボ。もっと聞きたいからまだ寝たふり。


 秒でゲーム再開した!うん、分かってた!


 こんなやり取りは日常茶飯事で、二十年来の幼馴染だからこその、この空気感。俺は男で、うしおも男で。俺は物心ついた頃からうしおのことが好きで、ライクではなくてラブで。この気持ちに気づいたからと言って、うしおとどうこうなりたいわけではないけど、周りには俺のうしおに向かう気持ちを気づかれるもので、ホモがキモいだとかBLがどーだとか色々とからかわれた。自分がからかわれるのは構わないが、うしおに迷惑がかかるのは嫌だし、自分の気持ちを知られたりするのは恥ずかしいし、中学生の頃はとてつもなく病んだ。でも、ある日うしおが、「らくが俺を好きで、何が悪いの?俺もらくのことが好きで一緒にいるんだから、周りがなんて言おうと別にどうでもよくない?」と言ってくれて、本当にその通りだと思った。自分の気持ちを知られてしまったことは少し恥ずかしかったけど、うしおが受け入れてくれたことの嬉しさが勝って、色々吹っ切れた。


 構ってもらえないと、意地でも構ってもらいたくなるのが俺という人間で。それを分かっていて適当にあしらううしお。悔しいね、悔しい。ベッドから勢いよく起き上がって、うしおに絡まりに行こうと思ったら、しくじった。膝をテーブルの角に思い切りぶつけて、痛みに悶える。膝小僧を言い間違えて膝野郎って言ったら、うしおのツボに入ったらしい。うしおの笑った顔が大好きだから、思わず心の声が漏れてしまい、一瞬怪訝そうな顔をされたけど、すぐに笑いに変わる。つられて俺も大爆笑。


 笑いがおさまってくると、痛みがぶり返してくる。ズボンを捲り上げて患部を眺めていると、笑い転げていたうしおが立ち上がり、上着を羽織ってマフラーを巻いている。外は寒いのに、こんな時間からどこに行こうと言うの。


 炭酸と湿布を買いに!そんでもれなく俺も一緒に行く感じ!イケメン過ぎかよ!!


 一番近いコンビニに着くと、湿布が並んでいそうな棚を見て回る。でかめの絆創膏とか、冷えピタとかはあるけど、湿布はない。悪戯心が疼いて、膝野郎というワードをぽそりと出すと、すぐに言うのを阻止される。仕方なく甘いものを物色。うしおが好きなスフレプリンと、自分用のロールケーキを迷わず手に取り、飲み物を選んでいるうしおのもとへ。買い物カゴを見ると、俺の好きなペプシが入っているではありませんか!


 分かってるじゃん!そりゃあね!


 うしおの家を出る時は風が吹いていなかったので軽装でも平気だったが、コンビニから出た途端、冷たい風が吹いて身震いする。10代までは冬でも薄着で遊び倒していたが、20代に突入してからは寒さにも暑さにも弱くなった気がする。うしおにアホだと言われてアホだと認めたら、無言で軽蔑の表情。


 ごめんなさい!でもそんな顔も好き!


 帰宅すると、すぐに風呂へ誘導される。いつの間に沸かしてたの?すごいね。うしおんちの風呂はいつも綺麗にされていて、入る時は未だに少し緊張する。ズボラな自分を責められているかのような綺麗さ。でも大丈夫、湯船に浸かりながら、マフラーに顔を埋めたうしおを反芻すれば、そんなのどうでもいいのだ。


 風呂から上がると、膝の痣がグロいことになっていて、体をさっと拭いてパンツとロンTを身につけ、タオルで頭を拭きながらうしおに痣を見せに行く。湿布の代わりに冷えピタを渡されて思わず笑いが溢れる。お母さんモードのうしおにほっこりしてると、まさかのノリに色々申し訳なくなって謝罪。そそくさと風呂場に戻り、スウェットの上下を着て髪の毛を乾かしながら、お母さんモードのうしおも好きだなぁと、しみじみ思う。


 髪の毛を乾かし終わって部屋に戻ると、うしおはキッチンで何かをしていて、その様子をうかがいつつ、ソファーに腰掛ける。うしおは昔から、怪我とか病気とかに敏感だ。小学生の時にお父さんを病気で亡くして、お母さんがオーバーワークで体調を崩したりしてるのを目の当たりにしているから、人一倍心配性なのだ。心配性で、真面目。


 真面目で何も悪くないよ!むしろそんなとこも好き!


 もらった冷えピタを痣に貼るも、膝は曲げ伸ばしの運動を繰り返す部分だし、ズボンにも擦れてすぐに剥がれてしまう。痛いことは痛いけど、このくらいの痣ならすぐに治るだろう。ソファーに横になって寝ようかと思っていたら、目の前にズイっと唐突に差し出されるマグカップ。そのまま素直にもらえばいいのに天邪鬼に返答すると、マグカップを下げられそうになって、焦る。ソファーの背もたれから身を乗り出して、腕を伸ばしたのがいけなかった。バランスを崩したうしおの腕に、熱々の液体が!!咄嗟にうしおの腕を引っ張ってキッチンの流しに行き、冷水で冷やす。服も濡れたうしおは、そのまま風呂へ。うしおが風呂から上がってくるまで、ソファーで体育座りをして、一人猛反省。


 火傷の具合を聞くと、服の上からだったことと、瞬発力でよけたこともあり、大したことないとのことで、ほっと一安心。うしおはなんでもなかったように、いつも通りにゲームをやり始める。俺が寝る時だけヘッドホンを付けるところも好き。最初は俺と会話が出来るくらいの音量にして片耳だけずらしているところも、完全に俺が寝てから両耳ふさいで音量を上げるところも、好き。後ろ姿も、こっちを見ない横顔も、好き。好きなところをあげるとキリがないくらいうしおのことが好きで、ずっと一緒にいたいと思うけど、恋仲になりたいかと言われたら昔も今もそうではなく、そうならなくてもずっと一緒にいるんだろうなぁ、と思う。うしおも、ほんのちょっとだけでもいいから、そう思っていてくれたら、嬉しいんだけどなぁ。


 俺の寝相が悪いのを知ってて、布団掛け直してくれるよね。寝言にも返事してくれるよね。


 ありがとう、大好きなうしお。今この瞬間を、一緒にいてくれて。だからたまには、雑に扱わないでちゃんと構ってね。


 おやすみ、うしお。明日もまた、一緒に。

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