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1.異世界から来た炎の魔法使いの少女

主人公セカイは、魔法と魔物が存在する異世界出身の12歳の少女。


炎を元にした魔法を自在に操り、幾多の悪き魔物を討伐した魔法使いである。


高い魔力と魔法の才能を持って生まれた為か、幼い頃から周囲の人間から疎まれていた。


そんなある日、人を攫う道化師の魔物との闘いの時、道化師の謎の魔術により日本のとある街に飛ばされてしまう。


飛ばされた日本の地には、魔法が存在せず。飛び抜けた個性は許されない社会であった。


自分と同じ魔法使いの人間を探し、彷徨っていたセカイは喫茶店を営む四葉愛之助と出会う。


元の世界に戻る為に奮闘する日々を過ごすセカイ。


愛之助や仲間に支えられ、人の温かさを知る一人の小さな魔法使いの物語。

1.人攫いの魔物


この日、何時もの様に魔法使いの職務の為。


魔法使い兼、悪しき魔物を討伐する事を生業としている僕、セカイは、2人の魔法使いと共に町から離れた森の中を進んでいた。


今、僕達が居る森では、人を攫う魔物が出ると言われている危険な場所である。

人々が暮らす町からそう離れて居ない森で起こる失踪事件。


事態を重く見た町のギルドは、失踪事件を起こす魔物を町に住む魔法使いを複数人のチームを組ませ早急に魔物の討伐をする方向に固めたのだ。


この日の僕達の仕事は、人攫いの魔物の正体を掴む事。そして魔物の討伐を課された。


「今回の仕事は魔物一匹討伐するだけなのに、異様に高い報酬だよな」


僕の後ろを歩く今回の仕事で結成された3人組の討伐隊のリーダーである。アレクセイが呟いた。


「本当にそうだね。高々魔物一匹に対して、腕利きのアタシ達を3人組で討伐させるなんて。ギルドの方針は何を考えているのかしら」


リーダーのアレクセイの隣を歩く女魔法使い。レイラが同意するかの様に言う。


「まぁ、俺とお前だけじゃ火力が少しばがり足りないからな。こうしてギルドの連中が火力だけは自慢の天才魔法使い様を俺達に寄越してくれた訳だが…」


今回の仕事に僕が加わった事が不満なのだろう。アレクセイは先頭を歩く僕に、吐き捨てるかの様な嫌味を放つ。


「あの子、まだ12歳のお子様魔法使いでしょ。ギルド連中は、私達をベビーシッターと勘違いしてんじゃないの。」


アレクセイの嫌味に続き、レイラも不満を隠すこと無く僕に嫌味を言う。


僕達の世界では、人間と魔法。そして魔物が存在する。

人間に危害を加える魔物を討伐する事を生業とする者。

人々を魅力する魔法を操る芸術職の魔法使い。

自身の作成した道具に魔力と魔法を込める魔道具職人。

医学の知識を活かした回復魔法を操る者。

魔法の才能は、人それぞれ。

僕は、炎を操る才能を唯一授かった魔法使いだ。

火力を活かした攻撃魔法には絶対的な自身がある僕であるが、所属する町のギルドでは最年少。身体も小柄な女である事からなのだろう。

初見の魔法使い連中は、必ずと言っても良い程。アレクセイやレイラの様に舐めた態度を表しながら嫌味を言い放つのだ。


だが、今日はギルドの命令もあり。一日限りとは言え、魔物討伐の職務を全うする中である。

万が一僕から討伐対象の魔物に圧倒的な火力を見せる前に、後を歩くアレクセイとレイラ達にお見舞いする。


その後は、間違いなく問題を起こした魔法使いとして扱われ、ギルドから討伐の仕事は永遠に来なくなるだろう。


基本僕は、集団での行動や馴れ合いが苦手な性格だ。仕事に私情や馴れ合いは要らない。


右手に握りしめている杖に力が籠りながら歩みを止めて振り返る。


「ほうほう、足手纏いになるかもしれない12歳のか弱い女の子に先頭を歩かせて。後方で守ってくれるお兄さんとお姉さん方はさぞかし実力のある強い討伐者なのですね」


町を出てから先頭を歩かされた事は、二人によって仕向けられた事は理解していた。


彼らを見つめ僕は満面の笑みで言う。


「そりゃあ、俺達は強いに決まっているだろ。何年もこのダガーと肉体強化魔法で魔物をぶっ倒してきたのだから」


身体能力の向上を目的とした肉体強化魔法が得意分野なのだろう。アレクセイが誇らしげに言いながら、腰の鞘に収めていたダガーを抜いて僕に見せ付ける。


「アレクセイの肉体強化魔法で振り下ろす魔剣。そしてアタシの支援魔法があれば敵なしなんだから」


レイラもアレクセイ同様、自身の所有する魔導書のページに書かれた詠唱文を見せつけ今までの戦績を胸を貼りながら自慢気に僕に言った。

彼女の所持する魔導書には、数多くの支援魔法が記載されている。

二人は、確かに実力のある討伐者だ。

だが、二人は僕が突然立ち止まり、話し掛けた意味を理解していない事で、二人の真の実力を十分理解する事が出来た。



「アレクセイ、レイラ…君達何も気付いていないのですか?」


余りに緊張感の無い二人に、今の状況を問い掛ける。


「このガキ、何言ってんだ…」


「…別に変わった事なんて無いじゃない」


僕からの問い掛けに二人は、嫌悪感丸出しの表情で応えた。


「さては、怖くなったのか?まだそれ程町まで離れていないし、さっさと帰れ!」


「そうよ!帰りなさい!やっぱり子供にこの仕事は出来る訳ないじゃない。こんな子と組まされた事についてギルドに文句言ってやんなきゃ」


アレクセイに続き、レイラも僕に罵詈雑言を浴びせる。



「まだ解らないのか!敵の魔物は君達の背後を付けてずっと狙いを定めていた事に気が付かなかったのか!」



二人の返答を聞いた僕は、鋭い口調で現在の状況を怒声で伝える。

町から離れ、三人で森に入って奥に進む事に感じていた付け狙う視線と気配。

僕は背後からずっと感じていたのだ。

殺気とは違う。まるで背後から僕達を鑑賞しながら嘲笑ういやらしい視線に。

事の重大さを理解した二人は、冷や汗を垂らしながらゆっくりと来た道を振り返り始めた。



「アーッハハハハ!散々子供だからとバカにしていた歴戦の討伐者よりも先に、オイラに気付くとはやるねぇおチビちゃん」




二人が振り向いた先の木の枝の上に、腰を下ろしている道化師衣装と仮面を身に付けた一人の男が高らかに笑いながら僕達に言う。


「マジかよ…」


身近に居た的に気が付かなかったアレクセイは、道化師を呆然と眺めながら呟く。


「お前が人攫いの魔物か!?」


早急に杖を構え、自身の魔導書を取り出すし、臨戦態勢を取ると同時に仮面の道化師に僕は問い掛けた。


「おいおい、おチビちゃん…余りにも酷い言い掛かりをしてくれるねぇ」


僕の問に嫌悪感を感じたのか、不満げに頭を掻きながら仮面の道化師が呟く。


「オイラは、人々を笑わせ、驚かせたり面白い事をしてあげる道化師さ。面白い事を提供したら

対価を貰うのは当然の事だ」


殺気も敵意も感じない。何一つ読めない仮面の道化師。僕は、彼の言う対価に付いて疑問を感じていた。


「その対価と言うのは、楽しませた人間を最期に喰い殺すと言う事か?」


「心外だな…オイラに面白可笑しさを求める人間は皆何処かしらつまんなさそうだったから。面白い場所に連れて行っただけだよ」


僕の問に道化師は、笑いながら応えた。



「ストレングスッ!」



討伐対象の道化師とのやり取りをしている最中、魔法を発動させたアレクセイがダガーを構え、道化師に向き合おうとする。


「道化師だが、何だか知らないが。こんなヒョロヒョロの優男なんざこの俺が力技で倒してやるぜ」


確かに体格差的には、大柄で身体強化魔法を得意とするアレクセイの方が武があるだろう。

だが、いくら痩せ型の小柄な身体をしている道化師でも、町のギルドが危険視する魔物。

油断をしてはならない。


アレクセイに伝えようとした瞬間、レイラが魔導書のページを開き、前衛に立つアレクセイに支援魔法の詠唱を始めた。


「アレクセイ!レイラ!その道化師に攻撃を仕掛けてはダメだ。奴の使う魔法の正体が解らない現状での戦闘はコチラが不利になるだけだ!」


道化師に先制攻撃を仕掛けようとする2人に僕は、声を大にして攻撃を止める様に言い放つが、全く聞く耳を持たずに目の前の道化師の頭上にに大きく振りかぶったダガーを全力で振りかざすアレクセイ。


激しい土埃が辺り一面に舞、地面にダガーの刃がめり込む衝撃音が鬱蒼と茂森の中に轟く。


「やったか…」



道化師を頭上から真っ二つに両断した手応えを感じたのか、アレクセイは一息着くかのように呟いた。



「アーハッハハハッ!残念、オイラはこっちだよ」



土埃が収まると同時に、先程両断したであろう道化師が、アレクセイを指を指し嘲笑うかの様に高らかに笑っていた。


最悪な事に、アレクセイの後方で支援魔法の詠唱を唱えていた相方のレイラを背後を取り、人質に取るかの様に道化師が立っていたのだ。


瞬き一つする間もなく素早く攻撃を躱し、更に距離が離れているレイラの背後を取る道化師の能力を見た僕は、とある魔法を思い浮かべる。


僕達魔法使いが、禁断の魔法として認識する時空間を操る魔術だ。


「レイラから離れろ!クソ野郎がーーー!」


相方のレイラの背後に立つ道化師に、ダガーを構え怒気を孕んだ大声で突進するかの様に突っ込もうとするアレクセイ。


「だから、無駄だって」


ダガーの先が道化師の仮面を捉えるかと思いきや、再び攻撃を躱した道化師は、アレクセイの背後を取った。


「2人共伏せて!」


道化の魔物を実力に危機感を覚えた僕は、アレクセイとレイラの2人に警告すると同時に、道化師の魔物に狙いを定め、瞬時に杖を構えて魔法を発動させた。

発動させた魔法は、僕の得意とする炎系の攻撃魔法。木々が焼け土の焼ける匂い、肌をも溶かすかの様な灼熱の炎が辺り一面に拡散される。


「いやはや、ビックリだ。まさか魔導書開かずに詠唱も無しでこんな攻撃魔法を放つなんて…」


辺り一面を焼き尽くす僕の炎を躱した道化の魔物は、周囲を撫でる様に見渡しながら呟いた。


半径数メートルに立っていた木々は、全て炭と化し、土と草が燃えた後の匂いが漂っている。


「何よコレ…」


防御魔法の詠唱が間に合ったレイラは、燃え尽きた木々と地面を見て腰を抜かし、座り込んで立てずに震えていた。


「このガキ…俺達も焼き殺す気かよ!」


炎が辺り一面を覆う際、素早く地面に伏せたアレクセイがレイラと共に怯えた表情で声を震わせて僕に言う。


「今のは威嚇の一撃です。僕がその気になれば、防御魔法を貫通させる炎をお見舞いする事も出来るけど」


喚くアレクセイに僕は笑顔を見せながら言い放つ。


その一言が効いたのか、町を経ってから今まで僕に対しての陰口を叩いていたアレクセイとレイ

ラの2人は、先程まで漲らせていた戦意は何処へやら。敵である道化の魔物に敵わない事、噂だけでしか知らない僕の炎を思い知り、2人は呆然と立ち尽くしていた。


「今度は、僕が相手だ。道化の魔物…」


杖を構え、道化の魔物に向き合う。


「さっきの爆炎中々の物だったよ。最高のスリルをありがとう、おチビちゃん!アーハッハハハッ!」


僕が対峙して間もなく、道化の魔物は大声で笑いながら煽り始めた。


「そろそろ、おチビちゃん呼びを止めてもらおうか…」


確かに12歳位の同年代の女の子の中では、僕は背が低くて体型も小柄である。だか、身体のみ見て判断されるのは非常に腹立たしい。


強敵である相手に対し、冷静な判断が出来ずに戦う事は、討伐者失格だ。

相変わらず大声で笑いながら煽り散らす道化の魔物に対する怒りを鎮め、指摘した。


「ゴメン、ゴメン。決して馬鹿にしていた訳ではないよ。ただオイラはお嬢ちゃんの名前を知らないから、おチビちゃんと呼んでいただけ」


「ならば、僕の名を教えようではないか」


これ以上好き勝手おチビちゃん呼びは少し癪に触る。これから一戦交えようとする相手に最後まで名前を覚えられないと言うのが何よりも我慢が出来なかった。


「僕の名は、セカイ!灼熱と炎を操る魔法使いだ!」


目の前に立つ道化の魔物に杖を向け、高らかと僕は名乗りを上げる。


「キミは、時空間を操る禁断の魔術を使用し、多くの人々を攫ってきた。町の人々を危険に晒すキミを討伐者として見過ごす訳にはいかない!」


僕の名乗り上げを目の当たりにした道化師の魔物は、人を嘲笑うかの様な笑いをピタリと止め、僕の顔を見つめた。


「なるほどねぇ…」


僕を見て何かを理解したかの様に呟いた道化の魔物は、僕の事を品定めするかの様な視線を向け始める。


「君もオイラと同じコッチ側(道化師)だね」


「一体何の事…」


道化の魔物が言い放った事に疑問を感じていた瞬間、時空間を操る魔術を発動させたのか、一瞬で僕は道下の魔物の元に引き寄せられる。


「オイラの目には狂いは無い。君の赤い瞳の奥底には、ドス黒い闇が存在しているんだよ」


目の前の道化の魔物は、更に僕の目を見ながら距離を詰めてくる。


相手は時空間を自在に操る手強い魔物。その上先の一言で得体のしれない危機感を感じ、僕は素


早くバックステップを踏み後退し、道下の魔物から距離を取った。


「一体、キミは何を言っている…」


先の一言は、心理戦に持ち込んで僕の戦意を失わせ魔力の流動を見出そうという戦法なのか、距離を取った僕は道下の魔物に問い掛ける。


「オイラは戦闘が苦手なんだ。だから、戦う時にはこうして相手の事をじっくり観察して弱点を見つけ出すんだ」

仮面を付けている為、素顔での表情が確認出来ないが、仮面の向こう側で不敵な笑みを浮かべている様に感じた。


「人は誰しも闇を抱えている。僕は人を楽しませたり驚かせたりするのも好きだが、やはり心の奥底に存在する闇を覗き見るのが一番好きなのさ」


「人攫いの悪趣味な魔物が…それがキミの最期の言葉になる事を理解させてやる!」

これ以上、道化の魔物の戯言には付き合っていられない。

僕は、手にしている杖を再び道下の魔物に向け、溢れ出る魔力の流れをコントロールし始める。

「キミは幼いながらにも周囲の人間に比べると膨大な魔力を持っているし、知力も物凄く高く最強の炎使いだが、そんなキミを周囲の人間は快く思っていない」


攻撃態勢に入った、僕からの魔力の流動を一目見た道化の魔物が更に戯言を続けた。


「キミは、孤児院出身だよね。貧しく学の無いキミの取り柄は、自身の操る強力な炎だけ」

幼い頃の僕の過去を言い当てる道化の魔物。


まるで僕の全てを知っているかの様に諭すかの様に続けた。


「その中世的って言うよりか、男勝りで一人称が″僕″で強気なキテレツ口調は、周囲から最年少の討伐者として舐められない様にする為だけではない。本当は、心の奥底に存在する闇に飲み込まれてしまう弱い自分を偽る為」


その一言を受け、臨戦態勢に入っていた僕の魔力は瞬時に途絶えてしまった。

誰にも話した事の無い幼い頃から現在までの僕を見透かされてしまい、相手の心理戦に不覚にも嵌ってしまったのだ。


「僕に…闇など存在しない」


「いや、キミにはかつてない程の闇を感じるよ」


僕が否定すると、道化の魔物は自信に満ち溢れたかの様な弾んだ口調で応えた。


「キミは、今まで何処に行っても馴染めず。放浪してきたのだろう、思った事が一度はある筈だ。


″才能ある魔法使いである自分が周囲に馴染めないのは世の中が悪いんだ″ってね」

道化の魔物が僕に言い放つ。


討伐者として多くの魔物と対峙してきた僕であるが、かつて無い程の敗北を味わった。

魔法を発動させる為の魔力の流動は術者の精神にも影響を受ける。

必死で精神を落ち着かせ、迎撃を試みるが身体の自由を失い立ち尽くす自分の存在に気付く。


「キミに取ってはこの世界はつまらない物だ」


再び諭すかの様に道化の魔物は僕に言うと、自らの身体を時空間を操る魔術を使い、僕の目前に現れる。




「こんなつまらない所よりオイラがもっと面白い場所に連れて行ってあげるよセカイちゃん…」





道下の魔物は僕の左腕を掴むと、悪戯を楽しむかの様な口調で宣言する。

為す術なく僕の意識を失い、深い暗闇へと沈み込んだ。





「マジかよ…」


道下の魔物との対峙を終始見ていたアレクセイが、目の前に起きた現実を受け入れられない様子を見せている。


「人を攫う魔術を見せつかられるなんて…」


アレクセイと同様、側に居たレイラも初めて見る魔術を目の当たりにし、信じ難い様子を見せていた。


「あぁ…本当に攫われちまったな…」


アレクセイがレイラに応えると、二人は僕が消えるまで立っていた場所に視線を移す。


そこに落ちていた物は、一冊の赤い魔導書だった。


魔導書は魔法使いにとって扱える魔術を記した魂その物。


僕は、この世界に何よりも大切にしていた魂を手放してしまったのかもしれない。






2.喫茶クローバー


都会から少し離れた閑静な住宅街。


その住宅街に1件だけ存在する喫茶店 クローバーは、昼食時の混雑する営業を終えた店内で、この喫茶店の店主である俺、四葉愛之助は常連である。一組のお客の気になる会話を耳にした。


「ねぇ、最近この町内で不思議な事を尋ね回る女の子が居るらしいわよ」

そう話を切り出した初老の女性は、この喫茶店の在る街の町内会長である。


町内会長の女性は、テーブルの向いでコーヒーを飲む同年代で近所に住む友人の女性、カヨコさんに話しかけた。


「不思議な事って?」


町内会長の話に興味を持ち始めた友人の女性は、手にしていたコーヒーカップをテーブルに置き、話の続きを聞き始める。


「聞いた話によると、この街に魔法を扱える人間は居るかとか…」



魔法?確かに不思議な事を尋ねる少女だ。


お客同士の会話には普段は聞き耳を立てないようにしているのだが、この人はこの街の情報通である人をだ。


少し離れたレジ横に立ち、俺は町内会長の言う少女の話に耳を向けた。


「どうやら、自分と同じ魔法使い?の魔力とやらを感じてこの街を探し回っているそうなの。見た感じ12から13歳位で黒髪、赤い瞳の小さな女の子で…」

少女の特徴を思い出すかの様に町内会長は、友人に話の少女の特徴を伝え始める。

「赤いマントに魔女みたいな、とんがり帽子…後、右手に自分の背丈よりも高い杖を持っている子よ!」



話を聞く限り、その少女は物凄く特徴的だ。


赤い瞳を持った身体的な特徴を除けば、とんがり帽子とマント姿で手にしているとは、まるでおとぎ話に登場する魔法使いみたいだ。


「今日は平日でしょ。学生なら普通学校に行っている時間でしょ?」

その魔法使い風の謎の少女の話を聴き終えた友人が、町内会長に尋ねる。


「確かにそうよね…もしかして家出だったり、何か厄介な事件に巻き込まれている可能性もあるわね」


友人の言葉に、町内会長は考えながら呟いた。


この町内会長は、俺が幼少の頃から家が近所である事もあり、性格をよく知っている。

町内の情報通であり、困っている人を放っておけない性分であることを。


「愛之助ちゃん、さっきの女の子の話聞いていたでしょう?」

さり気なく仕事をしながら聞き耳を立てていたつもりだったが、どうやらバレていた様だ。


「いやぁ〜すいません。聞こえちゃっていました…」


誤魔化しの笑顔を作り、町内会長と連れの友人のテーブルに赴く。


「特徴は、さっき私達が話していた通りだから。もし、このお店に来たらちゃんと保護して警察と私達にも連絡してね」


町内会長は、少女を見つけた際の保護と連絡を俺に頼むと同時に、テーブル隅に置いていた会計用の伝票を俺に手渡した。


「その女の子、魔法使いの人を探しているんでしょ?なら、このお店に来るんじゃないかしら」

連れの友人は俺に続けるかの様に話す。


「そうね。ルシファーさん、本当に魔法使いみたいで不思議な方だったから…」


町内会長は、昔を思い出すかの様に懐かしそうな表情を見せながら呟く。

ルシファーは、1年前に亡くなった俺の祖母である。

喫茶クローバーを数十年前に開業して亡くなる数ヶ月前までずっと店主をしていた。

祖母ルシファーが亡くなるまでこの店には、とある看板メニューが存在していた。

その店の代表となるメニューが祖母が淹れるハーブティーだ。

祖母の淹れたハーブティーは、飲むと心が安らぎを不思議と感じる物だった。

地元の常連客に取って馴染み深い味であり、祖母の淹れるハーブティーを求め、遠方から住む人々も来店する程の人気メニューだ。

だが、そんなハーブティーも、祖母と共に店から去ってしまった。

俺は幼少の頃から祖母に育てられたので、祖母の淹れるハーブティーには誰よりも馴染みがあったのだが、店を継いであの飲んだ時、魔法にかけられたかの様な不思議な味が、未だ再現出来ずにいる。

このハーブティーは、外国出身の祖母ルシファーの国に伝わる物で、日本では祖母しか作れない物だ。

祖母の生まれ育った国や文化については、本人から余り語られなかったが、このハーブティーだけは亡くなるまでレシピを口にする事はなかった。



「今は貴方がこのお店の店主なんだから、いつかルシファーさんの魔法のハーブティーを超える物を作る事を楽しみにしているわ」


亡き祖母の事を思い出していた俺に町内会長は、肩を叩きながら笑顔で言い渡すと、代金を支払い店を後にした。


「愛之助君、ちょっと良いかしら…」


先に店を出た町内会長に続く様に、扉を開ける手を止めた同席していた町内会長の友人カヨコさんが俺に小声で声をかける。


耳を向ける様に手招きされた俺は、同席していた友人のカヨコさんの話を聞く。



「実は私、さっき話していた女の子とこの店に来る前に会ったの」



「マジですか!?」


小声で聞かされた内容に俺は思わず声を上げてしまった。

「そうなのよ。町内会長の前で言いにくかったけど、町内会長と待合せしてた時に一人だった私に声をかけてきて…」


友人である町内会長に対しての隠し事な為か、気まずそうな表情を俺に見せながら、少女と出会った事を話し始める。


「この街で自分と同じ魔法使いの人を探しています。と…その女の子が私に尋ねてきたの」


少女の尋ね事に困惑したのだろう。


困り顔を見せながら俺に少女と遭遇した経緯を続ける。


「でね…私、魔法使いみたいな人が居る所は、このお店の店主さんじゃないかと思って、その女の子にここのお店の事を教えちゃったの」


少女とのやり取りを全て話し終えた彼女は、俺から目を逸らしながら申し訳なさそうに語り終えた。



「はぁっ!?何でここを教えたのですか?」


予想にもしなかったカヨコさんの行動に俺は、再び声を大にして尋ねた。

「だって、ルシファーさん何でも出来る魔法使いみたいな人だったから、孫の愛之助君もルシファーさんと同じ魔法使いだったりして…と思っちゃったから」


町内会長と同じく古くから祖母を慕っていた彼女らしい応えだ。包み隠すことなく全て俺に打ち明ける。

祖母は確かに不思議な人だった。


この店を開業した記念に撮影された当時の祖母の写真は、レジ真後ろの壁に額縁に入れて掛けている。


外国出身な為か、身長も高く白銀の長いロングヘア。瞳の色は透き通った青色を持つ特徴的な容姿。何でも器用にこなす事が出来、街の人々からの信頼も高かった。


祖母の葬儀の時、参列した人々は皆口を揃えて惜しい人を亡くしたと口にする程、慕われていたのだ。


「俺は…婆ちゃんの様に器用で何も出来ないです。ましてや魔法なんてモノ…」


幼い頃から育てて貰った祖母は、俺にとって絶対に超える事が出来ない偉大な存在だった。


俺は、視線を下げて期待の眼差しを向ける彼女に伝えた。


「愛之助君は顔付きはお爺さんに似ているけど、面倒見の良い性格と青色の瞳は、おばあちゃんと同じじゃない」


そう彼女は俺に言いながら、俺の瞳に目を合わせる。



「ルシファーさんみたいになれとは言わない。愛之助君は、愛之助君。クローバーの二代目店主になったからと言って、肩の力が入り過ぎているから、ルシファーさんとは違う愛之助君のお店をやって欲しいと思って」



そう最後に俺に言い渡した彼女は、店の外の駐車場で待っている町内会長の元に向かう為、カヨコさんは店を後にした。


祖母から店を継いで一年。


確かに祖母の淹れるハーブティーを自分でも習得しようと日々躍起になっていた。


常連のお客さんであり、人生の先輩である人からのアドバイス。


お客の居ない静かな店内を見渡しながら、貰ったアドバイスを心にしまった。


さて、先程話題に上がっていた少女の話がどうしても気になる。

この店の事を教えて貰った事により、いつ来店してもおかしくない。


「しかし、カヨコさん。さっきの話が全部、町内会長にバレたら怒髪天喰らうだろうな…」


お客の居ない店内の奥にある厨房で、洗い物と片付けの仕事をしている俺は、カヨコさんの話を思い出しながら一人呟く。


町内会長は、少女を見つけ次第、保護と警察への連絡。町内会への報告を促していた。

とりあえず少女がもし、この店に来た時はキチンと保護して何時でも連絡出来る様にしておこう。


一通り仕事を片付けた俺は、一人カウンターでコーヒーを飲みながらタバコを吹かしながら考えていた。





カラン…カラン…



店の入口の扉が開いた事を知らせるベルの音がが店内に響く。

時刻は日が落ち始めた夕刻。


普段ならお客は来ない時間であった為、カウンターで休憩していた俺は、手にしていたタバコを灰皿に押し付け消火した後、急ぎ足で来店したお客の元に向かう。



「いらっしゃいませ。おひとり様…」



店内に入って来た新たなお客を見た瞬間。俺は思わず対応の言葉を止めてしまった。

そのお客は、身長140cm位の小柄な少女。


年齢は12から13歳程だろうか、小柄な為物凄く幼く見える。


瞳の色は、宝石のルビーの様な美しい赤色。髪の色は、赤色の瞳。光の差込みの為か少し赤いグラデーションがある艶のある黒髪のショートヘア。


右手には、自身の背丈よりも高い杖を持ち。黒色を基準とした服装をし、赤いマントを身に付け頭には黒色の魔法使いの様なとんがり帽子を被っている。


「青色の瞳…貴方がこのお店の店主さんですか?」


出迎えたと同時に、少女は赤色の瞳を向け、凛とした鈴の音みたいな声で俺に尋ねた。


「はい…そうですけど…」


街で目撃された魔法使いみたいな格好をした少女。


実際に見る少女は、幼さを感じるが宝石のルビーの様な美しい赤い瞳には、強い決意と異様な力を秘めている様に感じた。


「僕の名はセカイです。炎魔法を操り、悪しき魔物を討ちし討伐者を生業とする者です!」


目的の場所に来れたのが嬉しいのだろう。少女は高々に杖を構え、キレのあるポーズをし、目の前の俺に名乗りを上げる。


炎魔法?魔物?討伐?


セカイと名乗る少女の名乗り上げを目の当たりにした俺は、色々と頭の中で考える。


「これは、これはご丁寧に…俺の名は、四葉愛之助!と申します。1年前に亡き祖母から喫茶ク

ローバーを継いだ二代目店主をしている者です」


少女セカイの名乗りあげに応えるのも礼儀だろう。俺は思い付く限理、格好良いと思わせるポーズを取りながら少女に自己紹介の名乗りを上げた。


「おぉ〜」


感激するかの様、名乗りを上げた俺に、赤い瞳を輝かせながら少女セカイは俺に拍手をする。


「この国で討伐者の名乗りをすると皆、冷ややかな視線を送るのです。まさか、僕の名乗りを受け入れて応えて貰えるとは思ってもみなかったです」


少女セカイは、外国から来たのだろうか。


魔法使いとか討伐者とか不思議な事を口にしている事も気になるが、俺は先程の町内会長の話を聞いていた為。家出か何かの事件に巻き込まれて街を彷徨っていた目の前の少女の保護を優先した。


「やっと…この国で魔力を持つ人に出会えた…」


そう嬉しそうに少女は笑顔で呟くと、全身の力が抜けるかの様にその場に倒れ込んだ。


「おい!どうした?しっかりしろ!!」


目の前で倒れた少女セカイの元に急いで駆け寄った俺は、倒れているセカイの身体を抱き寄せながら声を掛ける。


「…この世界に飛ばされてから5日位でしょうか…何も食べていなくて…」


最後の力を振り絞るかの様に、倒れ込んだ理由をセカイは弱々しい声で俺に伝えた。


まさか、行き倒れ寸前だったとは。

俺は、セカイの身体を起こし、大急ぎでテーブル席に座らせ、厨房へと向かう。

この時代に12歳位の育ち盛りの子供が5日間も何も飲まず食わずはマズイだろう。

保護やら警察、関係各所の連絡なんて二の次だ。

そう思った俺は、一目散に少女に与える食事の用意を始めた。


「お待たせ」


テーブルにうつ伏せで力無く倒れる少女セカイに声を掛け、用意した食事を置いた。


力無く倒れている少女セカイに用意した食事は、この店でランチメニューの中で一番人気を誇る。ナポリタンとコーンスープ、食後のコーヒーセットだ。



「いただきます!」


食事を提供した俺に感謝を込めながら手を合わせる。


5日振りの食事の香りに反応したセカイは、涎を垂らしながら嬉しそうに利き手は左だろうか。


素早く左手でフォークを持つと、目の前のナポリタンを夢中で食べ始めた。

本当に久し振りの食事にあり付けたのだろう。

目の前のナポリタンをセカイは、嬉しそうに涙を浮かべながら笑顔で食べている。


「ゆっくりよく噛んで食べろよ」


美味しそうに貪るかの様にナポリタンを食すセカイに、向かい合わせの席に座った俺は喉を詰まらせぬ様、声をかける。

気付くとあっという間にナポリタンを食していたセカイは、隣に置いていた暖かいコーンスープを両手で持つと口を付けた瞬間に一気に飲み干していた。

セカイの食事の光景は見ていて気持ちが良い物だった。作った甲斐は勿論ある事を感じると同時に、この店を祖母から継いで初めてこんなに美味しそうに食事をするお客を初めて見た俺は、感激を覚える。


「食後にコーヒーも用意出来るけど、どうするジュースにした方が良い?」


綺麗にナポリタンとコーンスープを食した後の食器を片付ける際、セカイに食後の飲み物の注文を聞く。


子供にはまだコーヒーは早いと思って甘いジュースも提案したのだが、セカイの注文は俺の予想にもしなかったものであった。


「では、ブラックのコーヒーでお願いします」


即答でセカイはコーヒーを俺に注文をしたのだ。


「ブラックって…大丈夫か?ミルクも砂糖なんて入っていない苦いヤツだぞ。甘いオレンジジュースが良いんじゃないか?」

苦くて飲みきれないだろうと心配した俺は、セカイにもう一度、他の甘いジュースにする様提案しようとする。


「ふっ…舐めないで下さい。僕は3ヶ月後には13歳になるのです。もう、子供では無いのですよ!」


13歳でも十分子供だろ!と心の中でツッコミを入れる。


「わかった。苦くてもちゃんと飲めよ…」


子供では無いと言うのなら、最高に苦い大人の味を提供しようではないか。

セカイに警告を言い渡した俺は、再び厨房に向かった。


「お待たせ。食後のホットコーヒーです」


手にした温かい湯気を上げるホットコーヒーをセカイの目の前に置く。


「ほほぅ…コレが話して聞くブラックコーヒー…」


目の前に置かれたコーヒーを興味深そうに覗くセカイ。


もしかして初めて飲むのか?


「コッチにミルクとシロップを用意したから無理はするなよ」


ブラックコーヒーを飲むのは、初めてなのだろう。普段より多目にミルクとシロップを入れたグラスをセカイに手渡した。



「いただきます…」



ミルクとシロップをカップの横に置いたセカイは、手を合わせると躊躇い無く一気に飲み干した。


ブラックのまま飲み干したセカイは、カップをテーブルに置くと同時に、俺と顔を合わせる。

すると、セカイの顔色がみるみる内に青ざめていき、次第に涙が零れ始めた。



「うわぁあああ!苦いです!苦いです!」




初めてミルクや砂糖が入っていないブラックコーヒーを飲んだセカイは、苦味と酸味に悶絶しながら叫び声を上げていた。


「ほら、言わんこっちゃない。コレで口直ししろ」


セカイがブラックコーヒーの苦味で悶え苦しむ事をある程度予想していた俺は、予め用意していたリンゴのジュースが入ったグラスを手渡した。


リンゴジュースのグラスを手にしたセカイは、口の中で広がる苦味と酸味を打ち消す為、一気に飲み干す。


「よく大人は、こんな苦い物を飲めますね…」


甘いリンゴジュースを飲み終えたセカイは、小声で呟いた。


「まだまだ、苦味を知るには若すぎるって事だな」


煽るかの様に俺が呟きに応えると、セカイはリスの様に頬を膨らませて涙目で俺を見つめる。




うん、やっぱり子供だった。



「さて、腹いっぱい飯を食べた事だし、事情を聞かせて貰おうか」


食事を終えたセカイに、俺はこの街に来て自分と同じ魔法使いの人間を探している理由を尋ねた。


「…解りました。全てお話しましょう」


意を決した表情でセカイは、この店に辿り着くまでの経緯を話し始めた。



信じられない。本当に信じられない。


セカイの話を聞き終わった後は、頭の中で情報が整理しきれず混乱していた。


セカイが言うのは、この日本とは…いや、違う世界の出身らしい。


職業は、人間に危害を加える悪い魔物を退治する魔法使いで。いつも通り魔物退治をしていた所。


だが、人攫う悪い魔物が強敵でこの世界…日本に飛ばされたのだと説明された。


この街には、僅かに感じる魔力を辿りながら5日間掛けて不眠不休、飲食無しで必死な思いで来たらしい。


俺は未だにセカイの話が真実なのか。


果てまた魔女っ子のコスプレが好きな厨二病発症寸前のタダの家出少女なのか。


ポケットからタバコのパッケージを取り出した俺は、冷静さを取り戻す為、タバコを1本口に咥える。


「どうでしょう。僕の話を信じて貰えないでしょうか…?」

口に咥えたタバコを上下に振りながら考え込む俺に、セカイは覗き込むかの様に尋ねた。


「信じるも何も、魔法何て非現実的な…だいたい君が魔法使いであるなら、何か魔法を俺に見せてくれよ」


俺は何事も自分の目で見た事しか信じない性格だ。


少し煽り気味に目の前に座るセカイに魔法を見せるように要求をした。


「…良いでしょう。僕の魔法を見せてあげよう」


そう不敵な笑みを浮かべながら、自信満々に言ったセカイは、タバコを咥えている俺の顔に向かい左手の人差し指を向けた。



「おいおい…マジで何か嫌な予感がするんだが…」

俺の困惑を無視し、さらに不敵な笑みを浮かべたセカイは、人差し指を俺の顔に近づける。


一瞬の出来事だった。


突如襲いかかった熱風と炎で視界が眩むと同時に、口に咥えていたタバコが一瞬でフィルターまで燃え尽きており、少し前髪が焦げる臭いが漂ったのだ。


「火を欲しそうにずっとタバコ咥えていたから、僕が点けてあげたまでですよ」


そう言うと、セカイは俺に笑顔をみせる。


下手をすれば俺まで焼き殺されていただろう。小さいながらも暴力的な火力を目の当たりにした


俺は、命の危機を感じて身体が震え始めた。


そして、セカイは普通の人間ではない事が嫌でも理解出来たのだった。


「そう言えば、僅かながら感じる魔力を辿ってこの街に来たとか言っていたけど…もしかして、この街に君と同じ危険人物が住んでいるって事なのか…?」


恐る恐る俺は、セカイの話を聞き終えてから今まで気になっていた事を尋ねる。


「危険人物とは失礼な!そんな失礼な事を言うと僕がどれ程危険か思い知らせてやりますよ!」


俺の余計な一言に吠え始めたセカイは、手にした杖の先をテーブル越しの俺に向けて怒りを露にし始める。


「悪かったって…だから、杖を収めてくれ!」


殺気立ったセカイに俺は何度も頭を下げながら謝罪をする。


「確かにこの世界では、皆魔力を持っていません。ここまで普通の人が多い場所に来たので最初は戸惑いました。誰一人僕の事を魔法使いと信じて貰えなかったですし…」


頬を膨らませながら、不満気にセカイは話し始めた。


「でも、今微力ながらにも魔力を持っている人の正体が解りました。その人は貴方の事です」

セカイは俺にそう言うと、優しい笑みを見せる。


「…俺が?」


「そうです。貴方です!」


俺が聞き返すと即答でセカイは宣言した。


「貴方の血縁者には、魔法を扱える人が居たはずです。貴方自信にも何か不思議な事が起こったり、自分で気が付いていても他人には隠している能力がある筈です」


俺の事を見事なまでに見透かしたかの様に高らかに言い放ったセカイは、自信満々の表情をしている。


血縁者に魔法使いが居る…


「ルシファーの婆ちゃん…」


そう考えると、真っ先に一年前に亡くなった祖母ルシファーの存在を思い浮かぶと同時に無意識

の内に祖母の名を呟いていた。


「ルシファーさんって、貴方のお婆さんのお名前ですか?」


祖母の名を聞いたセカイは、食い気味に俺に尋ねた。


「あぁ…そうだけど。もしかして婆ちゃんの事知っているのか?」


「…いえ、僕の知っている人に同名の人が居たもので…」


俺の問い掛けを受けたセカイは、急に大人しくなると同時に俺から目を逸らす。


そんなセカイの様子に俺は疑問を抱きながらも、この場で深く詮索しない事を決めた。


幼少の頃、祖母に言われた事が今でも頭の中に残っている。



愛之助、アナタの魔法は人の人生を大きく変えてしまう力を持っている。成長していくと共にアナタの魔法は大きく成長するかもしれない。今のアナタには難しい事だと思うから簡単に言うけど、誰彼構わず能力を使っちゃダメよ…



幼い俺に真剣な眼差しを向けながら言った祖母ルシファーの言葉。


幼いながらでもあの時の真剣な表情をした祖母ルシファーは、未だに覚えている。


「確かに君の言う通り、俺にも魔法と言って良いのか分からない能力がある…」


目の前のセカイに打ち明けた俺は、自身の口を覆う様に右手を添えて。セカイを見つめる。


「僕は、異世界からやって来た迷子の魔法使い!小さい子供の僕は、大人ぶってブラックのコーヒーを飲んで泣いちゃいました!!」



突然椅子から立ち上がったセカイは、大声で自身の事を叫び始めた。


すると、大声で言い終えたセカイは、我に返ったかの様な表情を浮かべた。



「何ですか今の…僕の意志とは関係無く勝手に言葉が…」



身に覚えの無い自分の行動に恐怖感を感じているのだろう。


声を震わせながら、目の前の俺に視線を向ける。


「これが、俺の能力。いわゆる腹話術ってヤツさ」


俺の能力の正体を知ったセカイは、更に恐怖を覚えるかの様な引き気味の表情を見せ始めた。


術にかけた相手を自身の言葉で置き換える腹話術。


これが俺の能力だ。


幼少の頃は何とも思っていなかった能力であったが、成長するにつれて他人の口から自分の言葉を発する恐ろしい能力である事を俺自身理解をし始めた。


祖母ルシファーの言い付けもあり、俺はこの腹話術の能力を隠して過ごして来た。

一年前振りに使った腹話術。久しぶりに使用したのが、目の前に居る魔法使いのセカイだ。


先程、前髪を少し燃やされて命の危機を感じるレベルの火力を目の当たりにさせられた仕返しも兼ねている。


「何だか物凄く失礼な事を言わされました…」


腹話術に掛けられたセカイは不服そうに俺を見つめた。


「まぁ、これが魔法か何だか知らないけど。とりあえず片付けてるわ」


不服そうなセカイに危機を覚えた俺は、カップとグラスを手にしながら厨房に逃げるかの様に向かう。


「それにしても、マジであの子魔法使いだったんだ…」

厨房で片付けをしている俺は、セカイの事を小声で呟いた。


「このまま、警察に保護して貰うにしても異世界から来た人間の対処法とか当然分からないだろうし、アイツ…絶対トラブルメーカーだと思うし、炎を放って問題起こしまくるんだろうな」


20年程しか人生経験のない俺だが、セカイと対話していく内に絶対的なトラブルメーカーだろうと直感で感じたからだ。


今後の事を考えながら、後片付けを終えた俺は、少し早目であるが閉店の準備を行う為。厨房から店内に移動する。


店内に足を運んだ俺は、スースーと規則正しい小さい寝息に気付く。


「おいおい、腹いっぱいになったから寝るって…やはりお子様じゃないか」


寝息の主は、テーブルに伏せるかの様に眠るセカイであった。


やれやれと思いつつ、風邪を引かぬ様、貸出用のブランケットをかける。


「やっぱ寝ている時の顔は年相応な女の子だよな…」


寝息を立てて眠るセカイを見ると、安心感と心地良さを感じながら眠っている様に思えた。


5日間見知らぬ場所に飛ばされて、誰にも頼れず。食事どころか安心して眠れる事もなかったのだろう。


女の子にしては珍しい。一人称が僕っ娘で中性的で強気な喋り方していても、内心は不安と寂しさを感じていたのだろう。


この店に辿り着いたのも何かの縁だろう。


とりあえず。今はゆっくり休息を取って欲しい。


そう寝ているセカイに思いながら、喫茶クローバーはこの日の営業を終えた。










3.過去と真実の魔導書



「…見知らぬ天井だ……」


何時間眠って居ただろうか。見知らぬ部屋のベッドで眠りから覚めた僕は、まだ気怠さを引き摺る身体を起こす。


ベッドの横を見ると衣装ハンガーには、愛用している帽子とローブが綺麗に掛けられていた。

この部屋の主は、女性だろうか。


落ち着いた色のクロス。棚には綺麗なガラス細工。天井まで高さのある本棚には、無数の書物が並べられていた。


部屋は暗く、窓の外を見ると満月の月明かりが照らしている。


「この人が店主さんのお婆さん…」


月明かりの元、僕は一つの写真立ての存在に気付く。


写真には、年齢80歳位だろうか。白銀の長い髪を持ち、透き通る青色の瞳で微笑む女性が写っていた。


ルシファーさんの写真を見た時、僕も将来歳をとったら、写真に写るルシファーさんのように優しくて素敵なお婆さんになりたいと思える程だった。


棚には、生前のルシファーさんの写真の他、孫である愛之助の写真も飾られていた。


写真に写る幼少期の愛之助は、今の三白眼で目付きの悪い顔立ちとは真逆で、クリンクリンの大きくて綺麗な青色の瞳を輝かせた可愛らしい無垢な男の子であった。


余りのギャップに僕は、クスッと小さく笑ってしまう。


「おっ!ようやくお目覚めか」


背後から愛之助の声が僕に声をかけると同時に、先程まで月明かりしかなかった暗い部屋が一瞬で灯りが点る。


「店主さん?」


「ここは、俺の家だ。店で眠った君を連れて帰ってきたんだ」


店主の愛之助は僕が眠りから覚めるまでの経緯を説明した。

「このお部屋は、店主さんのお婆さん。ルシファーさんのお部屋ですか?」


明るくなった部屋を見渡しながら、僕は愛之助に尋ねた。


「そうだ。婆ちゃんが亡くなってから殆ど何も手を付けていないんだ」


そう寂し気に応えた愛之助は、亡くなった祖母ルシファーを思い出すかの様に部屋を見渡した。


手を付けていないと言っても部屋の中には、埃が全くと言って良い程綺麗に保たれている。


借りていたベッドと布団は、ふかふかで心地良い。


ルシファーが亡くなった後、愛之助が定期的に掃除をしている事はを僕は感じた。


「目覚めたばかりで悪いが、少し聞きたい事があるんだ。下のリビングまで来てくれないか?」


僕の起床を待っていたのだろう。


愛之助は、部屋の扉を開けると僕が後に続くのを待っていた。


「わかりました。僕が応えられる事なら何でも応えます」


ルシファーの部屋から場所をリビングに移動した僕は、テーブルの先に向かい合わせで座る愛之助に真剣な眼差しを向ける。


「セカイ…君は、俺の婆ちゃんの事を知っているのではないか?」


話を切り出した愛之助は、今まで見た事ない真剣な表情と声色で僕に尋ねる。


「婆ちゃんの名前を聞いた君は、婆ちゃんの事について何か知っていると思ったんだ」


僕にそう告げた愛之助は、一冊の青色の本をテーブルの上に置き、僕に差し出した。


「これは…」


その古びた青色の一冊の本を見て僕は、戸惑いながらも愛之助から差し出された本を手にする。

表紙と各ページには、この世界には存在しない文字。

当然、この世界に生きる。愛之助や他の人間でも存在しない文字を解読する事は不可能な物。


「この本と持ち主についてお話しましょう」


僕は、各ページに夥しい文字が記されたページを流し読みだが、目を通し終えると同時に僕はこの青色の本について語り始める。

「これは、僕達魔法使いの軌跡を記した魔導書という物です」


「魔導書…?」


青色の本の正体を僕から聞かされた愛之助は、驚きの表情を僕に見せる。


「持ち主は、貴方の祖母ルシファーさんです。表紙の裏にご本人のサインがありました」

サインを記された場所に指で示しながら、愛之助に告げる。


「この独特に少し丸みがある筆跡…確かに婆ちゃんの字だ…」

異世界の文字で書かれても、長年共に過ごした祖母の筆跡なら本人の物と確証出来た愛之助。


「ここからは、僕の知るルシファーさんのお話です。聞いて頂けますか?」


「もちろんだ…」


固唾を飲み込んだ愛之助は、僕の話を聞く為に真剣な眼差しを向けた。


「ルシファーさんは、僕の生まれ育った世界では、伝説の大魔道士として知られていました」


「…大魔道士」


祖母の過去を知らされた愛之助は、信じ難い様子で呟いた。


「はい…とある事件以降。数十年前に消息を絶って以来、既に亡くなっているのではという説が流れていましたが、まさかこの世界で暮らしているとは僕も思いませんでした」


「事件って?」


僕の一言が気になった愛之助は、更に詳しい話を聞かせる様に僕に尋ねた。


「ルシファーさんは、ある禁断の魔術を生み出しました。その魔術は、僕がこの世界に飛ばされた原因の魔術でした」


「その魔術って、異世界とか何処でも行ける魔法なのか?」


僕の話を聞いた愛之助は、確認するかの様に再度尋ねる。


「はい…魔術を使用した対象となる人物、自身を異世界…または、時空間を自在に操る事の出来る強力な魔法です」


自身の祖母が異世界から来た事や、元の世界では大魔道士であった事を未だに半信半疑に思う愛之助。


「婆ちゃんが生み出したその時空間を操る魔法と言ったけ…?それが、何故禁断の魔術と伝えらているんだ」


僕達魔法使いが、何故ルシファーさんの時空間の操る事の出来る魔術が禁忌とされているのか。


愛之助は、自身の祖母を知る為、さらに問いかける。


「僕達人間の魔法使いは、人の時間と運命を変える魔法を使用する事は、僕の世界では法律で禁

じられているのです」


その後も、元の世界の法律を大まかではあるが、愛之助に説明をし続けた。


「ここからは、僕は余りお話する事に気が向かないのですが…」


異世界から来たとしても愛之助にとって、優しいお婆さんだったルシファーさんの過去を知っている限り、全て話そうと決意をしていたのだが、愛之助の表情を見ている内に僕の心の中で戸惑いを感じてしまったからだ。


「何でも良い。頼むから聞かせてくれ!」


そう言うとテーブルに両手をついて懇願する愛之助。


「全てお話しましょう…ルシファーさんは、大魔道士の職と共に作家として当時は、活躍していました」


祖母ルシファーの意外な一面を知ったのか、愛之助は唖然とした表情で僕を見つめる。


「遥か昔にルシファーさんが、執筆した冒険録。 "この地上よりさらば " と言う本を世に送り出した事により、とある事件が起きました」


「その事件とは…?」


僕の最後の言葉に疑問を思った愛之助は、真剣な眼差しを向け、問いかけた。


「"この地上よりさらば" は、ルシファーさんが生み出した時空間を操る魔術を持ちいて、様々な

異世界を旅をした実際の冒険録です」


順を追って祖母ルシファーが執筆した"この地上よりさらば" という名の冒険録の内容を愛之助に伝える。


「初版として発行された本の一部に、高レベルの魔法使いに解読出来る魔術の式が暗号の様に混ざっていた出来事がありました…意図的に暗号化して交ぜたのか、謎の多い事件がありました」


「初版として出版された本なのだが、何か問題でもあるのか?」


事件の話を聞いた愛之助は、首を傾げながら僕に質問をする。


「大問題ですよ。」


今ひとつピンと来ていない愛之助に、僕は文章に混ぜられた術式の暗号の危険性を説明した。


「異世界や時空間を操る魔術は、先程も言いました通り人の運命を変えてしまう禁忌とされている人間の領域を超越した魔法なのです。そんな危険な魔法は生み出しや、世間に公にされるなど以ての外なのです!」


思わず椅子から立ち上がり、声を荒げてしまった。


冷静さを失った僕を、呆然見つめる愛之助に心の中で申し訳ないという思いを感じた。


「ごめんなさい…決して貴方のお婆さんを悪く言っているつもりは…」

目の前の愛之助に頭を下げ謝罪する。


時空間を操り、異世界に行く事を叶える魔術。

この魔術の恐ろしさは、嫌という程知っている。

異世界に飛ばされ、日本という国に飛ばされた。僕自身が当事者なのだから……







俺、四葉愛之助は、異世界から来たという魔法使いの少女。セカイから一年前に亡くなった祖母ルシファーの事を聞いていた。


セカイの話では、祖母ルシファーの出生はこの世界ではなく、セカイと同じ異世界だという事。


祖母の若き頃、冒険家と作家、凄腕の魔法使いだった事を知った。


喫茶店を経営していた祖母のイメージが強かった為、意外な一面を知る事が出来たのだ。


人間の領域を超えた魔法を生み出した祖母ルシファー。


故意かどうかは、今となっては謎らしい。その魔法が世間で公になった事により、祖母は強い非

難を受ける事となってしまい、以後消息が絶えたままだとセカイから語られた。



余りにも衝撃的な祖母の過去に暫くの間俺は、何も言えず項垂れて続けている。


そして、目の前には祖母が生み出した。時空間とやらを操る魔法を悪用した魔物により、この日本に飛ばされたセカイが居る。


俺の持つ腹話術の能力も魔法が元となっている事をセカイから教わったのだ。

セカイの話は嘘偽りの無い。

祖母の事、そして俺の腹話術についても真実その物だ。


「君の話は解った…」


先程から俺と目を合わせず俯いたままのセカイに俺は、長い沈黙の後、全てを理解した上で伝えた。


「そうですか…ゴメンなさい。途中から感情が剥き出しとなって冷静に応えられなくて」


そうセカイは、俺に謝罪しながら再び頭を下げる。


「気にするなよ。それでセカイ、君はこれからどうするつもりなんだ?」


俺はずっと疑問に思っていた。この日本に飛ばされたセカイの今後の予定について尋ねた。


その質問に応えらる前に、セカイは俺に祖母の魔導書を両手で持ち、俺に向けたのだ。


「この魔導書には、ルシファーさん本人が記載した時空間を操る魔術の魔導構成文が記されていました」


元の世界に戻る為の方法を説明し始めたセカイは、俺に魔導書のとあるページを見せて語り始めた。


「ただこの魔術の構成文は、複雑な暗号化をされています。暗号解読は、僕には専門外なので、この魔術構成文を解くには多くの時間が掛かるかと…」


「その魔術構成文って言うのは、この世界でいうコンピューターのプログラミングみたいな物なのか?構成文を解読して読み取るのは、ハッキングみたいな物か?」


ふと疑問に思った事を俺は、セカイに問いかけた。


「コンピューターとか、プログラミング、ハッキングとか存じ上げないのですが、貴方の思う事に近い物だと思います」


俺の質問に、初めて聞いた言葉について少し考え込んだ後に応えた。


「つまり、管理者である祖母の魔導書の権限を奪って帰る為の時空間を操る魔術を習得すると…」


セカイの説明に一通り理解出来た俺は、再びセカイに尋ねる。


「その通りです。本来、他者の魔導書の構成文を読み取り、習得をする事は、僕達魔法使いの間では禁忌とされている行為なのですが…」


俺の問い掛けにセカイは、これから犯すであろう禁忌として扱われている行動について覚悟を決めた真剣な表情で俺に目を合わせた。



「もうこの方法しかないのです」




今まで以上に真剣な眼差しを向けて言うセカイに圧倒された俺は、セカイの方法を認める事を決意した。



「お願いがあります。魔術構成文を解読して習得が完了するまで、この家に僕を置いて貰えませんか!」



新たな頼み事を俺に伝えると同時に何度も頭を下げるセカイ。


「もちろん、対価無しでとは言いません。討伐者になる前は、飲食店で働いていた事もありますし、喫茶店のお手伝いも力になれると思います!」


自身の職歴を俺に伝えると同時に、懐から小さな巾着袋を俺に手渡した。


「僕の全財産です。この金額なら一ヶ月程の宿代と食費が補える金額です」


小さな巾着は、セカイの財布だった。


財布の中身を確認すると、見た事のない金貨と銀貨数枚が入っている。


もちろん、セカイの元いた国の硬貨な為。この日本では使えない異世界の通貨。


全財産を俺に託すという事は、セカイにとって本気で頼る人間が俺しか居ないという表しを受けた気がしたのだ。


「わかった…」


俺は一言、目の前で懇願するセカイに伝える。


了承の言葉を聞いたセカイは、年相応の嬉しそうな表情を見せる。


「ありがとうございます!ありがとうございます!」


何度も俺に頭を下げながら感謝の気持ちを伝え始める。


「ところで、君は日本語の読み書き出来るか?」


「いえ、出来ないです」


ですよね……



俺の疑問の一つに、セカイがこの日本の言語を習得しているのかいちばんの疑問に感じていたのだ。


しばらくの間、セカイはこの日本に滞在する事になる。


そう思った俺は、セカイを一人残してリビングを後にした。




愛之助が僕一人をリビングに残し、家の何処かに向かって10分経った位だろうか。


「待たせたな」


リビングの扉を開けた愛之助が僕の元に戻って来た。


片手には、多くの書物を抱えている。


この書物が探し物だったのだろう、少し疲弊した表情で僕の目の前に書物を複数冊置いたのだ。


「店を手伝うにしても、日本語の読み書きが出来なければ仕事にならない。今日から日本語を完璧に覚えて貰う」


そう僕に宣言した愛之助は、僕に一冊の書物を手渡した。


その書物は、可愛らしい動物が描かれており、子供向けの書物だと感じたのだが、僕はこの国の言語。日本語が一切読めない。


「これは、俺が幼稚園の時に使っていた日本語の平仮名って文字の教材だ。先ずはコレから勉強して貰うからな」


成程。この可愛らしい動物が描かれた書物は、幼少期の愛之助が使用していた日本語の教材か。

書物をまじまじと見つめていた僕に、愛之助が宣言したのだ。


「平仮名覚えたら、カタカナ、そして日常で最低限使う漢字も覚えてもらう」


この日本と言う国は、文字が3種類も在るのか。


中々、複雑そうな言語だと心の中で思った。


「それと、もう一つ条件がある」


日本語の読み書きを覚える条件の他、僕に向けて真剣な顔をした愛之助が言い渡し始めた。


「君は勉強熱心みたいな感じだから、絶対に徹夜だけはしない事。育つ所も育たなくなるからな」



「おい!今僕の身体の何処を見ながら言ったか答えろ!」



その条件は、徹夜してでも無理に勉強をするなと言う。まだ成長期真っ盛りな僕を気遣う言葉だった。


ただ僕の胸元に一瞬、視線が向いた事は見逃さなかった僕は、瞬時に愛之助に指摘をした。


「…ナンノコトカナ?」


僕の問に愛之助は、目を逸らしながら下手くそな口笛を吹きながら誤魔化した。


「この男!失礼にも程があります!!良いでしょう、子供だから舐めていた事を後悔させてやる!」


そう宣言した僕は、愛之助に向かい飛びかかって襲い始めた。


「痛い!痛い!!暴力反対っ!魔法使いならクールであるべきだぞー!!」


僕からの攻撃を受ける愛之助は、涙を目に浮かべながら僕に向け、必死で叫んでいた。


あー、何言っているのか聞こえませんね


こうして僕は、ボロ切れ同然となって僕の足元に転がる。喫茶クローバーの店主でこの家の主の四葉愛之助の元で、元の世界に戻るまでの間世話になるのであった。







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