第94話 合わさって最強に見える
「がああああぁぁぁぁ!!」
「シェン様!?」
体を内側を焼かれ、全身から蒸気を上げてシェンが床に転がり藻掻き苦しむ。
普段ならすぐに回復して起き上がってくるはずだが、そうはならず、その尋常ではない苦しみ様に鉄針達が血相を変えて倒れたシェンの元へと向かう。
「えーっと……あれ、死んだりはしませんよね?」
神木沙也加が聞いて来る。
「ちゃんと調整はしているから死にはしない。外国の偉いさんを問答無用で殺すほど、俺も馬鹿じゃねーからな」
「そ、そうですか。流石マスターです」
「あれを一発で倒しちまうなんて、流石俺の大親友だけあるぜ」
「郷間……男なら責任は潔く取れ」
「うぅ……」
郷間がゴマをすってきたが、俺はそれをばっさり切り捨てる。
こいつのオツムの中身は、中学卒業から全然進歩してないからな。
ちゃんと体に教え込んでやらんと。
「ぐっ……くう……」
シェンが鉄針達に支えられ、ゆっくりと起き上がって来る。
「な」
「回復もちゃんと出来てないみたいですけどぉ、どうやったんですかぁ?」
「あいつの体の中に大量の回復アイテムがあるみたいだったから、内側からアイテムごと焼いてやった」
「蓮人……お前、えぐい事サラッと口にするな」
郷間が俺の説明に顔を顰める。
まあ内側から焼かれたと聞かされたら、そういう反応になるのも無理はない。
が――
「言う程えぐくもないだろ。限界突破の方が絶対きついし」
そう、限界突破に比べれば楽な方である。
なので拷問と考えるのなら、実は限界突破の方が上だったりする。
まあ、魔人は回復魔法と合わせて長時間人間を甚振っていたのでそこまでされると話は代わって来るだろうが。
「ああ、まあ……あれは地獄だったからな」
郷間体をぶるりと振るわせる。
地獄を見た記憶を思い出してしまったのだろう。
まあ俺が魔王から受けた限界突破に比べたら、それも全然大した事ない訳だが。
「一人で立てる」
支えられてふらつきながら歩いていたシェンが、鉄針達の手を振り払って俺の前まで歩いて来た。
そして――
「神よ。どうか数々の御無礼をどうかお許しください」
――意味不明な事を言って、俺の前で跪いた。
「しぇ、シェン様!?」
そのシェンの意味不明な行動に、鉄針達が狼狽える。
まあ急に俺の事を神とか言い出したし、頭がおかしくなったとしか思えないもんな。
にしてもおっかしいな。
頭は焼いてないんだが?
アイテムもないし、そこを焼くと即死しかねないので当然避けてある。
「ふむ、こういう時は――」
「ぐあっ!?」
斜め45度の角度で、シェンの頭に手刀を振り降ろす。
壊れた時はだいたいこれで治るというのが、古くからの様式美である。
「貴様!?」
「よい!」
鉄針が声を荒げて睨んでくるが、シェンがそれを片手で制した。
少しは真面になったかな?
「私は貴方様の中に、戦いの神を見出しました。どうか貴方様の下僕になる事をお許し頂きたい」
神を見出すとか、大げさすぎだろ。
ちょっと殴って体の内側焼いただけだってのに。
「めちゃくちゃ強いから、配下にして欲しいって事か?」
「はい。シェン一族は力を尊ぶ一族です。ですので、貴方様の下で働かせていただけるのなら幸いです。もちろん……貴方様がおっしゃるのなら、彼女の事もすっぱり諦めましょう」
「ふむ……」
何か企んでいる可能性もある。
が、少なくとも今の状況を無駄に拗らせずに終わらせるのなら、提案を飲んで配下にするのが一番手っ取り早い。
……とっとと帰って寝たいんだよなぁ。
何だかんだいって、俺も死ぬほど疲れてるからな。
魔王の施した限界突破のせいで。
「分かった。いいだろう。その代わり……少しでも変な事をしたら容赦しないぞ」
「肝に銘じます」
とりあえずこれでこの件は一件落着――
「神よ……一つ、お願いがございます。どうかお聞き届けください」
「お願い?」
配下になるからなんかしろってか?
厚かましい奴である。
「貴方様の高貴な血を頂きたいのです」
「はぁ?」
何だコイツ?
急に血が欲しいとか、吸血鬼みたいな事言いだしやがって。
やっぱ頭がおかしくなってるのか?
「私は換骨奪胎で性別も完全に変える事が出来ます。ですので是非この私めに、貴方様の子を産む恩寵を頂きたいのです」
「………………えーっと、まさかとは思うけど……俺と男女の関係になりたいって事か?」
「はい。厚かましい願いとは重々承知していますが――ぐほぁ!?」
余りの気持ち悪さに、俺がシェンの顔面を蹴り飛ばしたのも仕方ない事。
そう、これは不可抗力である。
ロリコンのホモとか、キモすぎだろこいつ。
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