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第92話 キルユー

「……魔王、お前は必ず俺が倒す」


限界突破が終わった俺は魔王をその場に残し、クレイスの元へと魔法で転移する。

彼女を困難な状況から救うために。


まあアクアスから情報共有したので命に別条がない事は分かってはいたが、だからと言って放っておく訳にもいかないからな。


「酔いは……ないな」


これまでは転移すると酔いが発生していたのだが、今回はそれがなかった。


俺の転移酔いはトラウマからくるものだった訳だが……


極限の限界突破が、肉体だけではなく精神にも影響を及ぼしたのかもしれない。


「ははははは!そろそろ諦めたらどうだ!」


ごつい大男。

シェンが、楽し気にクレイスを攻撃をしていた。

小さな子供の姿をしているクレイスを嬲るその姿は、変質者そのものである。


「ふむ……」


――全員の視線が二人の戦いに集中しているせいか、まだ誰も俺に気づいていない。


……あの男の、魔力の流れがはっきりと見える。


鑑定系の能力を使った訳ではない。

単に見えるのだ。

どうやら魔王の施した限界突破は、単なる上限の引き上げには留どまらなかった様である。


回復しているのは、体内にマジックアイテムを抱えてるからっぽいな……


シェンの体内に、本人の物ではない特殊な魔力の塊が大量に点在していた。

恐らく回復アイテムの類で、そのせいでとんでもない打たれ強さになっているのだろうと思われる。


「ふむ、移形換位(テレポート)は詠唱なしで発動できるから便利そうな能力だけど……転移の際に予兆があるのは魔法と一緒か。なら、よっぽど格下以外には戦闘じゃ使い物にならんな」


移形換位(テレポート)と、その消耗を補うマジックアイテムのコンボは一見凶悪だ。


が、集中してさえいれば事前にどこに飛ぶのかなど一目瞭然だった。

跳躍する先に特殊なエネルギーの磁場が発生するためだ。

そしてどこに出て来るのか事前に察知出来ているのなら、その対処は容易い。


なので、魔王の様な強敵相手では何の役にも立たないスキルと言えるだろう。


因みに、詠唱がないだけで発動までには多少時間が必要な様である。


「まあ覚えるかどうかは移動距離次第かな」


今現在シェンと言う男は短距離にしか使っていない。

これが長距離にも対応しているのなら、利便性の為に習得するのもアリではある。


「やれやれ……この程度の事にも気づかず一方的にやられるとか、クレイスもまだまだだなぁ」


精霊であるクレイスなら、十分気付ける範疇である。

だが目の前の相手に集中しすぎて、周囲への感覚を疎かにしているため彼女は全く気付けずにいた。


まあ戦闘経験が少ないせいだろうな……


『今すぐ……あの子に……』


「無理しなくていい。アクアスは休んでいろ」


俺の限界突破を支えるため、アクアスは限界を超えて力を振り絞ってくれた。

そのため今の彼女は弱り切っている。

クレイスとの交信すらきつく感じる程に。


「さて、助けてやるとするか」


即座に助けなかったのは、クレイスにまだ余裕があったためだ。

それにシェンの力にも少し興味があった。

だから少し観察したのだが、もうそれも必要ない。


「――なにっ!?」


シェンがクレイスの背後に転移した瞬間、奴の背後に一瞬で迫り、その首根っこを掴んで俺は後ろに放り投げる。


「え!?」


「なんだ!?」


「シェン様!?」


急に現れシェンをぶん投げた俺に、全員が驚きの声を上げる。

あいつらからすれば、俺も瞬間移動して現れた様に見えた事だろう。

超高速で動いたからな。


「待たせたな、クレイス」


「あ……えーっとぉ、蓮人さんなんですよねぇ?」


クレイスが不思議そうに首をひねり、そう聞いてくる。


「ああ、俺だ。ちょっと縮んじまったがな」


無理な限界突破の影響だろう。

俺の体は10歳ぐらいにまで若返っている。

ぱっと見で分からないのもしょうがない。


「え?あれって蓮人なのか?確かに子供のころのあいつにそっくりだけど」


「あの子が蓮人さんだって言うんですか?」


「あれが勇気蓮人だと?ではさっきまで戦っていたあの少女は何者だ?」


「郷間。神木。待たせたな。俺が来たからにはもう安心しろ」


素性を隠す気はなかった。

中国の奴らにはもう、ほぼばれている状態な訳だからな。

だから鎧も来ていない。


「蓮人さん!」


神木沙也加がこちらに向かって駆けよって来る。

その顔は喜んでいると言うよりも、むしろ必死の形相に見えた。


なんだ?


「蓮人さん!」


駆け寄ってきた神木が俺の両肩をがっしり掴む。

そして彼女はこう叫ぶ。


「どうやって子供の姿になったんですか!」


と。


ああ、うん。

まあそこに食いつくよな。

小さな子供になる方法。

おっきい魔法少女としては。


だが残念ながら、これは俺の意思で行った事ではない。

限界突破の副産物である。

なのでなり方を教えてやろうにも教えようがない。


流石に、限界を超えた限界突破をすればいいよとは言えんからな。

俺意外だと、ほぼ確実に死ぬし。


「ああ……えっと、その話はあとだ。今は悪人共にお仕置きしてやらんとな」


話はぼかしておく。

クレイスの変身の時の様にショックで気絶されたら面倒くさいし。


「そ、そうですね。私ったら興奮しちゃって……その話はあとでじっくり聞かせてくださいね」


「郷間!」


郷間に声をかける。

そして俺は自分の首に向けて親指を立て、笑顔でそれを水平に動かす。

いわゆる、首を掻き切るジェスチャーだ。


「……」


郷間がゆっくりと。

そう、ゆっくりと天を見上げた。


そして――


奴は深い深いため息をつく。


子供じゃないんだし、やらかした事の責任はきちんととらせないとな。

拙作をお読みいただきありがとうございます。


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