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第90話 焦り

シェンの一撃を受け、クレイスが吹き飛ぶ。


「あうっ!?」


レベルアップしてもなお、シェンの能力は魔法少女化しているクレイスには及ばない。

そのため普通に戦ったのなら、彼女に真面な一撃を加える事も難しかった。


だが今の彼には新たに得た覚醒能力――【移形換位(テレポート)】がある。


この世で最も強力な攻撃。

それは間違いなく不意打ちである。

そしてその不意打ちを、任意のタイミングで発生させられるのが瞬間移動系のスキルだ。


こうなると状況は一変する。


圧倒的な差があるのならともかく、シェンがレベルアップした事によって二人の力の差は縮まってしまっていた。

そんな彼の回避不能な攻撃を一方的に受け続けるのは、超人的な強さを誇るクレイスでも対処不能だ。


「きゃっ!」


「形勢は逆転した。これ以上の戦いは無駄だ。降参してくれ」


攻撃を受け小さく悲鳴を上げるクレイスに、シェンが優しく降参を促す。


「この程度の攻撃ぃ、大した事ありませんからぁ」


だが彼女から返ってきた答えはノーだ。


これは決してただの強がりではない。

実際、彼女が受けたダメージはそれ程大きくなかった。

土の精霊はその特性から耐久力に優れ打たれ強く、その特性は彼女の宿るその仮初めの肉体にも適応されているからだ。


とは言え。

そう、とは言え。

である。


ダメージが通っている以上、このまま攻撃が続けばいずれ追い詰められる事になるだろう。


普通ならそんな心配はいらないのだが……


相手が通常の能力者だったなら、その耐久力を生かした持久戦に持ち込めばいいだけの事だった。

強力な能力はそれに見合った消耗があるため、普通はそう何度も扱えない物なのだから。


だがシェンは違う。

彼には反則に近い、丹薬による回復があった。

そのため、無限とまでは行かないが他の能力者と一線を画す持久力を有している。


「ふ、ほれぼれするほどの打たれ強さだな。流石、私の妻となる女だけある」


「そんな物にはぁ、なりませぇん」


「女心は変わりやすいと聞く。私の情熱で君のその頑なな心を変えて見せよう」


その方法が、暴力による誘拐と言うのは余りにもお粗末な話である。

が、勝てば官軍と言う言葉がある様に、敗者の言葉など勝者には届かないのが世の常。

シェンはその法則に乗っ取り、力によるごり押しで全てを押し通す気だ。


「ゆくぞ!」


テレポートを多用したシェンの苛烈な攻撃。

その攻撃はクレイスに確実にダメージを蓄積していく。


「くそっ!このままじゃやられちまう!」


一方的に殴られるクレイスを助け様と郷間武が動く。


全く役に立てないという事は本人も分かっている事だ。

だが動かずにはいられなかった。

好きな相手が一方的に蹂躙されている姿を見せられては。


「おっと、横槍はさせん」


そんな彼の前に、柳鉄針が素早く立ちはだかる。


「てめぇ、鉄針……」


「そっちの女も変な動きはするなよ。下手に動くようなら制圧する」


「くっ!」


神木沙也加も、郷間武とほぼ同じタイミングで動こうとしていた。

そこに鉄針が釘を刺す。


「シェン様が決められた以上、もう穏やかな決着はありえん。なんなら……お前達を制圧して人質として使ってもいいんだぞ?」


鉄針が手の中に、太い針を生み出す。

彼に対抗するだけの力は郷間武にはなかった。


変身した神木沙也加ならばある程度は戦えるだろうが、変身する隙を相手が与えてくれる訳もない。

アニメなどのお約束など無視して攻撃されるのは目に見えていた。


また仮に変身できたとしても。柳以外にレベル5の能力者が複数いる状況では結果は火を見るより明らかだ。


「くそっ……」


「くっ……」


郷間武と神木沙也加は、下手に動けばクレイスの足を余計引っ張ってしまうかもしれない。

その現実に、無力感に歯噛みする事しかできずにいた。


……困りました。


揉める郷間達を視線の端でちらりと確認し、彼女は心の中でそう呟く。

一撃一撃は大した事はなくとも、こうも攻撃を続けられればいずれ耐えきれなくなる。

現状逆転の手はないため、状況的にこの戦闘は手詰まりに近い。


――だが、彼女が困っているのは実はそこではなかった。


負けるのは全然問題ないんですが……


極端な話、殺されてもクレイスにとってはなんら問題なかった。

何故なら彼女の肉体は、勇気蓮人が生み出した仮初めの物でしかないからだ。

もちろん破壊されれば彼女にもダメージは行くだろうが、それで消えてなくなってしまう事などはなく、ただ精霊の状態に戻るだけである。


そうなればシェンに彼女を捕らえる手段はない。


また、肉体のダメージ蓄積で動けなくさせられて捕まったとしても同じだ。

分身の体を放棄してしまえば良いだけである。


そのためクレイス自身にとって、現状はピンチでも何でもなかった。


だが、彼女以外はそういう訳にはいかない。

自身が下手に捕まれば、この場にいる郷間達も捕らえられるのは目に見えていた。


なにせ彼女のフィジカルは圧倒的だ。

無軌道に暴れられれば、シェンとて完全に抑えきる事は難しい。


しかもSランクダンジョンの柳毒指(りゅうどくし)一件で、薬物が効かない事を彼らは把握していた――実際はクレイスはエギールではないのだが、薬物が効かないのは同じ。


その条件下で、シェン達がクレイスを無理やり中国に連れて行くのは無理ゲーに等しい。


だから人質をとるのだ。

クレイスを静かにさせる為だけの人質を。


「はぁっ!」


「く……」


蓮人の親しい人間を守るのが自身の役割がある以上、彼らを放り出して一人逃げる訳にはいかない――そもそも神木沙也加とは親友同士なので、役割がなくとも彼女はそんな真似はしないが。


それをするぐらいなら素直に捕まって中国に行った方がましである。

そのうち勇気蓮人が迎えに来てくれることだろう。


だがそれでは、精霊として任された仕事を熟せたとは到底言えない状況だ。

無様に捕らえられ、自らの主に他国まで救出に来てもらうなどできれば避けたい。

そうクレイスは切に考えていた。


でなければ、主である勇気蓮人に失望されてしまうから。


「くぅ……」


だからクレイスは攻撃を受けつつも頭を巡らせる。

が、現状を覆す良い考えは思い浮かばない。


その事にクレイスは焦る。


「ああ、もう!うっとおしいです!」


「無駄だ!」


「あう……」


考え事をしている間も続く執拗な攻撃。

焦りと相まって癇癪気味に振るわれた雑なクレイスのロッドを躱したシェンが彼女の横腹に蹴りを入れる。


「ああ、もう本当に……どうしましょう」


考え事をすれば焦りと隙が大きくなり、テレポート以外の攻撃まで喰らってしまう始末。

状況はどんどん悪くなっていき、更に焦りをつのらせるクレイス。


困りました。

参りました。

どうしましょう。


――答えのない状況に、クレイスはほとほと困り果てるのだった。

拙作をお読みいただきありがとうございます。


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