第9話 オーク
「よし!じゃあ入るぞ!」
エンジェルハニーを徹夜で楽しんでいると、朝一で郷間がやって来て拉致されてしまう。
向かった先は、当然ダンジョン。
連日で攻略するなら、せめて事前に言っておいて欲しい物である。
別に徹夜した位じゃ、体力的にはどーっては事ない。
問題はメンタル面だ。
せっかくテンション上げてエンディングまで突っ走るつもりだったのに、思いっきり水をさされてやる気が全くでない。
「ヘイヘイ」
無気力に返事を返す。
そんな俺のテンションの低さなどお構いなしに、パーティー申請に承諾した瞬間ダンジョン内へと転移させられる。
景色は前回と似た様な岩窟だ。
ここからは戦場なので、気分を切り替えるとしよう。
「周囲に敵はいませんね」
凛音が特殊能力で周囲をサーチする。
彼女の特殊能力は『探索』だった。
俺の使う気配察知スキルは敵の気配を感じるだけなのに対し、この能力は周囲の地形まで確認する事が出来る。
その点だけで考えるなら、上位互換と言えるだろう。
まあ俺の方は発動させっぱなしに出来るので――『探索』は低レベルだと、その都度発動させるタイプになる――ケースバイケースではあるが。
「便利な能力だし、凛音は引手数多なんじゃないのか?」
先の見えないダンジョンの状態を知る事が出来るのだ。
間違いなく有用なはず。
「うーん。そうだと良かったんですけど」
「そうなんです。もてもてなんですよ私!」的な明るい返事が返って来るかと思ったが、なんだか微妙そうな反応だ。
「ダンジョンには入場数の制限があるからな。どこも戦闘系を優先してる感じなのさ。俺達みたいな能力者は、取りあえず枠が空いていたら入れるって感じだな。人気には程遠いぜ」
「へぇ……」
どうやら、ダンジョン攻略は力押しで進めていくスタイルが主流の様だ。
異世界での戦いだと情報が重要だったんだが、まあアレは戦争だから話は変わって来るか。
「大規模な高難易度とかだと、ある程度必須みたいな感じではありますけど。それでも大人数はいりませんから」
「全部縁故やお抱えで埋まっちまうから、俺達みたいな零細にゃ無縁な話さ」
特殊能力があるにもかかわらず、郷間が経営側なのは、どうやら需要が無いからの様だ。
「ま、取り敢えず先に進もう」
「ああ」
ダンジョンを5分程進むと、程なくして魔物と遭遇する。
「オークか……」
魔物の姿を見て、俺は嫌な気分になる。
オークは豚顔をした。人型の肥満体の魔物だ。
体長は2メートルぐらい。
その手には大きな鉈が握られている。
相手はまだこちらに気づいていない様で、フゴフゴと不快な音を立てながらフラフラと動き回っていた。
――その姿は、異世界にいたオークと全く同じだ。
魔物としては大した強さではなかったが、奴らは人間の女性を攫う習性があった。
目的は繁殖の為だ。
オークには基本雄しかおらず、他種族の雌を犯して子孫を増やす。
俺は勇者として何度かオークの集落を壊滅させ、捕らえられていた多くの女性を助け出す事に成功している。
だが助けたその大半は、その後自害してしまっていた。
醜い化け物に犯されて、その殆どは妊娠までさせられているのだ。
いくら助け出したとはいえ、その恐怖と心の傷は決して消えない。
そしてそれに耐えられず、大半の女性が自ら命を絶ってしまう。
例え助け出しても、真の意味では救えない。
その無力感から、一時は死んでいった女性の無念の姿をよく夢に見た物だ。
「なあ、ダンジョンのオークは……」
「ん?」
「いや、何でもない」
異世界の生態と同じか尋ねようとしたが、止めておく。
この場には凛音もいるからな。
我ながら、何を聞こうとしてるのやら。
まあ奴らの生態など関係ない。
皆殺しにしてそれでおしまいだ。
俺は足元に転がっていたこぶし大の石を拾い上げた。
「そんなもん、どうするつもりだ?」
郷間が不思議そうに聞いてくる。
「こうするのさ」
俺はそれに言葉ではなく、行動で答えた。
手にした石を無警戒なオークの頭部に投げつける。
「!?」
狙い通りにヒットした石は、オークの頭部を粉々に粉砕する。
ゲームでいう所の、ヘッドショットって奴だ。
「石で魔物を倒すとか……マジかよ」
「蓮人さんすご……」
もちろん普通に投げただけではない。
石の強度じゃ、ぶつかったら割れるのは石の方だからな。
今使ったのは『投石』というスキルだ。
異世界の魔物から習得した物で、投げる石の強度を上げ、更にヒット時の威力も上がる効果がある。
スキルとしてはたいして強い物ではないが、俺の腕力ならオーク如きこれで十分だ。
「さて、ガンガン処理していこう」
長居は無用。
早く帰ってエンジェルハニーの続きをせねば。
凛音の能力のお陰で、ダンジョン内の探索はサクサク進む。
当然何度もオークとは遭遇したが、全て『投石』を使って始末していく。
「たぶん、この先にボスがいます」
入って1時間ほどだろうか、凛音の探索に大物が引っかかる。
どうやら、彼女の能力は敵の種類も把握できる様だ。
「中央に居るのがそうです」
「あれか」
ボスがいるのはちょっとした広い空間だ。
その周辺には、オークが10匹程うろついていた。
ボスとその取り巻きって所だろう。
「オークジェネラル……Cランクの魔物だ」
このダンジョンのランクは下から2番目のEだった――前回は一番下のF。
Cランクという事は、どうやらランクが2段階上の魔物がボスとして出てくる様だな――ゴブリングレートウォーリアーはD。
「見た目はあんまりオークと変わらないな」
「武器に槍を持ってるだろ。それに、オーラが半端ねぇぜ」
郷間が顔を顰めながら、オーラどうこうと口にする。
凛音の方も渋い顔をしていた。
どうやらこの兄妹には、何かを感じとれている様だ。
だが俺には、一切そう言った物が感じられない。
能力者のみの特殊な感覚だろうか?
「取り敢えず、周りを始末するか」
群がって来られても鬱陶しいので、先制で蹴散らす事にする。
足元に転がっている石を拾い、『投石』を使って連続で遠距離攻撃をしかけた。
奴らは急な奇襲に面食らい、飛んでくる石に反応する事も出来ず全て沈む。
――そう、全て。
何となくボスにも投石したら、そのまま頭が吹っ飛んでしまった。
「やっぱ違いが分からん」
一瞬ボスでも何でもないんじゃと思ったが、パネルが浮かび、ダンジョンのクリアを俺に表示する。
どうやらボスで間違いなかった様だ。
「嘘だろ……Cランクのモンスターだぞ?」
……ランクはともかく、所詮はオークだからなぁ。
取り敢えず、これで郷間が借金に怯える必要は無くなった訳だ。
めでたしめでたし。
「蓮人さん凄いです!流石は異世界帰りの勇者だけはありますね!」
凛音が笑顔で、ぴょんぴょんその場で跳ねる。
可愛らしい姿だが、そんな事はどうでもいい。
――なんで凛音がその事を知っている?
まあ理由は考えるまでもないだろう。
「おい?」
「いやー、つい口が滑って」
ついじゃねぇよ。
俺は悪びれない郷間のすねを、折れない程度に蹴り飛ばした。
「ふごぁ!?」
友達じゃなかったら確実にへし折ってたぞ。
首の方を。
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