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第89話 奇跡

「…………そうか、残念だ」


クレイスに振られたシェンがあっさりそう言う。

どうやらすんなり諦めた様である。


かに思われたが――


「愛する女にあまり手荒な真似をしたくはなかったが……まあ仕方ない。力ずくでも私の妻になって貰う!」


良い返事がもらえないのなら、無理やりにでもと。

シェンがクレイスに突っ込んだ。


「そういう悪い子にはぁ、魔法少女としてお仕置きします」


「必ず中国に連れ帰る!」


恋に狂った男の、間違った形の猛ラッシュ。

歪んだ魂の込められたその攻撃は、レベルアップと合わさり先程までよりも遥かに激しい物だった。


「おおおおお!」


が――


「えーい」


「ぐぶっ!」


クレイスがその攻撃をかいくぐり、シェンの顔面に魔法の杖を叩きつける。

攻撃に堪えられず吹っ飛んでいく彼の頬には、くっきりとハート形のマークが浮かんでいた。


「く……うぅ……さっきまでは本気ではなかったのか……」


殴られた頬を腕でこすりながら、シェンが起き上がって来る。

彼の想定では、レベルアップして強くなった自分はクレイスともいい勝負ができるはずだった。


だがその考えとは裏腹に、その差は縮まっていない。

いや、それどころか、逆に差が開いてしまっている程である。


「あれを身に着けてるとぉ、すっごく動きずらかったんですよぉ」


クレイスの纏っていた黒鎧は、土で見た目を偽装するためだけのものである。

なので本来の鎧の効果はもちろんなく――だからシェンの拳一発で砕けた。

彼女にとってそれは、ただただ重くて動きづらいだけの拘束具でしかなかったのだ。


魔法少女として十全の力を発揮できる彼女とシェンの実力差は、先ほどよりも確実に大きい。


「なので諦めてくださぁい」


「諦めろだと……諦められる物か!お前は必ず手に入れる!手に入れて見せる!!」


よく言えば根性のある。

悪く言えば往生際の悪いシェンの攻撃が続く。

だがそれをクレイスはいなし、軽く叩き伏せ続ける。


「勇気蓮人の力がまさかこれ程までとは……」


その差は絶対であり。

どう考えても覆しようが無いレベルである事は、はた目から見てもそれは明らかだった。


自身が使える絶対者であるシェン。

しかもレベルアップして更に強くなった彼を、それでもなお軽くあしらう勇気蓮人――と思い込んでいる――の強さに、鉄針は驚愕を覚える。


そんな鉄針を見て、郷間武は本物の蓮人はこんなものじゃないぞと口にしようとしたが、言葉をぐっと飲みこむ。

愚かな男ではあるが、既に二回も神木沙也加に咎められているため、流石に学習した様だ。


「そろそろ諦めてくださぁい」


「諦めてなる物か!この恋を!!この命に代えても!!!」


だがシェンは諦めない。

丹薬を使ってダメージと体力を瞬時に回復させ、彼はひたすら無謀な攻撃を続けた。


普段は冷静で、比較的理知的な人物とは思えないその愚かな行動。

恋は人を狂わせるとはよく言ったものである。


「参りましたねぇ。全然気絶してくれませんしぃ、殺しちゃうわけにもいきませんからぁ……」


クレイスがシェンをステッキで弾き飛ばしながら呟く。


シェンはいくら殴っても意識を飛ばす事はなかった。

恋に酔いしれ、興奮しきっているためだ。


この状態で相手を確実に止めるには殺すしかない訳だが……


魔法少女としての必殺技を使えば、クレイスにはそれが十分可能だった。

だがそういう訳にはいかない。

相手は中国で立場の高い人物だ。

殺してしまえば大問題になる事は目に見えていた。


そういう事情があって、クレイスはゾンビアタックを続けるシェンを相手にし続ける羽目になっているのだ。


「あれぇ?」


再び起き上がり飛び掛かってきたシェンを、クレイスが吹き飛ばす。

だが完全には吹き飛びきらずに、ギリギリ倒れずにシェンが堪えてしまう。

加減をした訳でもないのに、攻撃に堪えた事に彼女は違和感を覚える。


「くくく……またレベルが上がった様だ」


シェンが嬉しそうにそう告げる。


「どういう事?さっきレベルアップしたんじゃなかったの?」


その言葉に、神木沙也加が驚く。


先程、明らかにシェンの動きが変わった瞬間があった。

それでレベルアップした事をいち早く彼女は察していたので、さらなるレベルアップと言うありえない事態に動揺を隠せいない。


レベルアップに必要なのは、魔物を倒して得る経験値。

そして自身より強力な魔物との戦闘で得られるEX経験値が必要となる。


EX経験値に関してだけ言えば、圧倒的強者であるクレイスとの戦いで得たと考えれば納得はいく。

だがどうあがいても通常の経験値は手に入れようがない。

魔物を倒すどころか、クレイスによって一方的に嬲られ手しかいないのだから。


「シェン様……」


その事に驚いているのは神木沙也加だけではなく、シェンの部下である柳鉄針も同様だった。


「さらなるレベルアップができるとはな……まさに奇跡。どうやら天は、我が恋の成就を望んでいる様だ」


なぜそうなったのか?

それはシェンすら分からない事だったため、彼は天が味方した結果の奇跡だと考えた様だ。

そのため、自らの恋の成就を強く確信していた。


だが、実際は奇跡でも何でもない。

彼はクレイスとの戦闘で、着実に経験値を得ていたのだ。


――丹薬を摂取すると言う形で。


魔物を材料とした練丹術で生み出された丹薬。

それは魔物の命とも言える物である。

それゆえ、それを食らい吸収した者には経験値が蓄積されるのだ。


それは所持者のシェンですら知らない隠された効果だった。

それ故、彼は奇跡と誤解した訳である。


「さあ!行くぞ!」


多少パワーアップした所で、それでもまだシェンよりクレイスの方が地力は上である。

彼が彼女にかなう道理はない。


だが――


「えっ!?」


「後ろだ!」


突如シェンの姿が突如消えたかと思うと、ほぼ同時にクレイスの背後にその姿が現れ彼女の背中を蹴り飛ばした。


「きゃぁぁ!?」


急な攻撃に対応できなかったクレイスは、大きく吹きとばされてしまう。


――シェンは新たなスキルを身に着けていた。


「まったく、動きが見せませんでしたぁ」


そこに油断などはなかった。

にもかかわらず、クレイスは相手の動きを一切捉える事が出来なかったのだ。


「見えないほど速く……いえ、そんな訳はないのでぇ……ひょっとして、瞬間移動ですかぁ?」


「流石私の妻になる女だな、一瞬で見抜くとは。【移形換位(テレポート)】。それが 天より私が授けられたスキルだ。さあ、君も運命を受け入れるがいい」


レベルアップと新たなスキル。

天に後押しされたと信じるシェンは自らの勝利を確信し、不敵に笑う。

拙作をお読みいただきありがとうございます。


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