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第87話 小は大を兼ねる

――2時間ほど前。


「わたしがぁ、蓮人さんの振りをしますぅ」


結局、勇気蓮人の限界突破終了は日曜日に間に合わなかったのだ。

月曜日になれば郷間武は中国に散れ去られてしまうだろう。

そうなれば、彼を取り返すのが困難になるのは目に見えていた。


期限に迫り、焦る凛音を見てクレイスは自身がエギールの振りをする事を決める。

郷間武の身柄を引き取るために。


「クレイスさん……」


「クレイス。貴方蓮人さんに化けられるの?」


「私にはぁ、土を操る能力があるんですよぉ。その力でぇ、蓮人さんの鎧をまねできます」


そう言って彼女は自らに体に土を纏い。

そして変質させ、黒い鎧へと変化させる。


「凄い……そっくりです!」


土で出来ているとは思えない精巧なその姿は、エギール・レーンそのものだ。


「うーん……」


既にエギール・レーンの正体も、クレイスが精霊である事も知っている神木沙也加はその変化事態には驚かない。


彼女はその目を細めてその姿をじっくり観察し――


「それじゃだめね」


そして駄目だしする。

何故なら――


「体格が違うから、直接会った事のある柳鉄針なら気づいてしまうわ」


そう、体格が違うのだ。


女性のエギールにふんする蓮人は、魔法で女性の体格に変化して活動していた。

そのため大柄なままのクレイスとでは、どうしても大きな体格差が出てしまうのだ。


相手と初対面なら問題なかっただろうが、実際に接触した事のある柳鉄針がいる以上、ばれる可能性は高かった。


「駄目ですかぁ?」


「気づかない可能性もあるけど……正直きつい気がするわ」


「そうですかぁ。だったら、うーん……あ、そうだ!」


クレイスが少し考えてから、何かを閃いたらしく声を上げる。

そして身にまとっていた土の鎧を脱ぎ、素の状態に戻って――


「ぴぴるぷぱぱるぷぅ。いえろぉあーすぱわー!」


――呪文を唱えた。


これは変身の呪文。

そう、魔法少女マジカルクレイスへの。


クレイスの体が黄色い光に包まれ、体が縮んでいく。

そして体にいくつもの黄色い可憐なバラが咲いたかと思うと……それは大きく弾けた。


美しく宙を舞う黄色の花弁。

だが花弁は散る事無く、吸い込まれる様にクレイスの全身に纏わりつき。


その姿を変える。


可愛らしさと動きやすさを併せ持つ装束——魔法少女姿へと。


「マジカルクレイスぅ、参上ですぅ」


神木沙也加が、その姿を眩しそうに見つめていた。

自らの信念のもと、大きな魔法少女である今の生きざまを貫く事を決めた彼女ではあったが、幼き頃から憧れていたあるべき魔法少女への未練という物は、そう簡単には断ち切れるものではないのだ。


いかんいかんと、自らの雑念を振り払い。

そして彼女はクレイスへと尋ねた。


「いきなり変身して一体どうするつもりなの?」


「ふふふぅ、分かりませんかぁ?今の私はぁ、小さな魔法少女なんですよぉ」


「あっ!なるほどね。大きな体で小さな人間を装う事は出来ないけど、小さな体なら大きな人物の振りが出来るって訳ね。貴方の土の能力を使えば」


「そのとおりですぅ。これならぁ、体格で気づかれる心配もありませんよぉ」


再びクレイスが土を纏う。

それは彼女の小さな体を完全に包み込んで成人女性サイズに変化させ、そして黒鎧の姿——エギール・レーンとうり二つに変わる。


「これなら完璧ですぅ」


「ええ、そうね。あとは話し方かしら」


クレイスは舌っ足らずで可愛らしい声をしている。

そのため、低めで落ち着いた口調のエギール・レーンとはほぼ対極だった。

なのでそのまま口を開けば一発で偽物とばれてしまうだろう。


「えーとですねぇ……こんな感じでそうですかぁ?いや、こんな感じで」


クレイスが声質と口調をエギール・レーンっぽく変える。


「凄い!そっくりですよ!」


「貴方、多芸ねぇ」


「えへへ」


「ただ、直ぐぼろを出してしまいそうだし……あたしも一緒に行くわ。これでも交渉は得意な方だし」


「あ、私も一緒に……」


「駄目よ」


凛音もついて行きたいと言うが、神木沙也加がそれに駄目だしする。


「え!?なぜですか?」


「最悪、戦闘になる危険性があるからよ。もちろん、その可能性は低いとは思うけど……万一そうなった場合、貴方の実力じゃ足手まといになりかねないわ。酷な事を言うようだけど」


最悪、神木沙也加すら足手まといになりかねないのだ。

凛音なら猶更である。


「……そう、ですね」


柳鉄針にやられた時の事を思い出し、凛音は押し黙る事しかできなかった。


「心配しないで下さい。郷間さんはぁ、きっと連れ戻しますからぁ」


「お願いします……クレイスさん、神木さん」


頼りなく、いい加減な性格の兄ではあった。

だが、それでも凛音にとってはかけがえのない大事な家族である。

自分の無力さを噛み締めながら、凛音は兄の事を二人に頭を大きく下げて頼んだ。

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