第83話 量産計画
中国のレベル6能力者の数は、10人と公表されている。
元々日本に5人いた事を考えると、人口比的に見ればその数は相当少ないと言えるだろう。
だがそれは仕方がない事だった。
レベル6に上がるための条件が特殊なため、総数が大きければ単純にその数が増える訳ではないからだ。
レベル6以上に上がるための条件は、自身から見て強敵と呼べるレベルの魔物と闘わなければならない。
だがレベル5ですらAランクダンジョンのボスクラスでしかそれは得られず。
更にそれも微々たる物であるため、パーティーを組んで戦った場合何年もかかると言われているた。
しかもレベル6に至っては、ボスソロでなければそれを得る事が出来ないのだ。
レベル7が絶望的に少ないのもそのためである。
そのため現在世界中のレベル6以上の大半は、かつてアフリカで出現したSランクダンジョン参加者となっていた。
更にレベル7の能力者は、そこで6になったうえで更にEX経験値をある程度稼げたものが至っている形だ。
だが日本では、短期間のうちに6人ものレベル7が登場している。
それがどれほど異常な事かは語るまでもないだろう。
もはや異常事態と言っていい。
そのため各国は、その不自然な事態に否応なしに注目せざるえなかった。
ダンジョン攻略の点と言うだけではなく、高レベル能力者はもはや大量破壊兵器と言えるレベルの力を持っているからだ。
そして各国が情報収集に励む中、一歩先んじた国があった。
それが中国だ。
彼らは手段を選ばない形での情報収集によって、早い段階からエギール・レーンこそがその要因であると確信する。
何故なら、中国にもあったからだ。
――魔物とではなく、それ以外の方法ででレベル6にレベルアップさせ事が出来る方法が。
中国のレベル6は10人。
世界各国はその数字を疑っていない。
量産が困難のは分かり切っていたから。
だが実際は、その三倍の30人が中国の本当のレベル6能力者の数だった。
中国は実際の数を伏せていたのだ。
彼らは能力者を便利な軍事力として考えていたから。
そしてその数を量産したのが、今エギールと対峙しているシェンだった。
「些細な頼みごとだが……受け入れてはもらえないかな?」
エギールとの対戦の申し込み。
それがシェンの望みだ。
「……」
口にこそしていないが、それを受け入れなければ郷間武の引き渡しを拒否されてしまうのは目に見えていた。
なので穏やかな言葉づかいで頼み事と言ってはいるが、これは実質強制である。
「いいだろう。そのかわり……それが終われば郷間武の身柄を引き渡して貰うぞ」
「約束しよう。《《郷間武》》は解放する」
約束したのは郷間武の解放のみ。
元々拘束していたのはその身元の引き渡しなのだから、それは当然の発言の様に思えるだろう。
だがその言葉に含みがあるのではないかと勘繰り、エギール・レーンは仮面の下で眉根を少し顰めた。
「では、他の者は離れていてもらおうか」
「エギール気を付けてね」
「お前の力を見せつけてボコボコにしてやれ!」
状況をちゃんと理解しているのか怪しい郷間の言葉に、エギールは再び眉根を顰めた。
本当に残念な男である。
シェンとエギール。
他の者達は大きく離れ、広い空間の中央で睨みあう。
「エギール。君には期待しているぞ」
中国に大量の量産されたレベル6がいる。
だが、レベル7に至った人物は1人だけだ。
つまりシェンの力では、レベル7を生み出すに至っていなという訳である。
何故か?
その理由は二つある。
一つは、彼の保有している魔力量が少ないためだ。
――そしてもう一つは、シェン自体のレベルの低さにあった。
シェンの覚醒者としてのレベルは5。
決して高いとは言えない物だった。
だが彼の実力が低い訳ではない。
寧ろその強さはレベル7を超え、レベル8級だと言っても過言ではなかった。
もし勇気蓮人がいなければ、彼が人類最強だったと言っても過言ではないだろう。
にもかかわらずなぜ彼のレベルが低いのか?
逆だ。
むしろ強すぎたからこそ、彼のレベルは低いままなのである。
何故なら、彼に強敵と認識されるだけの敵がAランク以下のダンジョンには存在していないから。
つまり彼の度を越えた強さのせいで、レベルアップの機会が得られなかったという訳だ。
そしてこのレベル低さが、どれだけ強くとも他の人間をレベル6以上に育てられない原因となっていた。
蓮人の様に覚醒者でない物は純粋に魔力に反応するが、覚醒者が相手だとそのレベルに相手が反応してしまうためだ。
だからどれほど強くとも、自身よりレベルが上の相手にEX経験値をばら撒く事が出来なかったのだ。
「では始めようか」
シェンがの目的は、自国にレベル7を量産するためだ。
そのためにエギール・レーンと闘う。
彼女と戦いでレベルが上がれば、それはつまり……
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