第82話 魔力
「地下にこんな場所があるなんて……」
案内人に案内され、大使館のエレベーターで地下に下りた神木沙也加が通された空間の広さに驚く。
「能力者達の訓練を想定されて作られておりますので」
能力者達の訓練情報を外に漏らさないため、地下にその施設は用意されていた。
その用途からも分かる通りこの訓練場の耐久度は高く、余程高レベルの能力者が意図的に破壊活動でもしない限り崩壊する心配のない作りになっている。
「酷い目にあわされてはぁ……んん、いない様だな」
「そうみたいね」
広い空間。
エギール・レーンは真っすぐその奥へと視線を向ける。
その先に居るのは黒いボディースーツを着た様な大男と、鉄針を含めた黒服達に、そして郷間武の姿だ。
彼に怪我や憔悴の色が見えない事から、エギール・レーンはほっと胸を撫でおろした。
「悪い。ドジ踏んじまった」
郷間武がバツの悪そうな顔をする。
「気にするな。酷い事はされていない様だな」
「ああ、まあな。特に尋問とかはされてねぇ」
「賓客として御持て成ししていたからな」
「暴行犯に尋問もしないなんておかしいですね?調べる事が無かったのなら、そちらで連行する必要はなかったんじゃないでしょうか?」
恩着せがましく賓客としても持て成していたと主張する柳鉄針に、神木沙也加が正論で返した。
随行員襲撃だったからこそ、テロ等の懸念から中国側が強引に身柄を抑えたのだ。
その目的や組織を調べる名目で。
そんな相手を、拘束しているとはいえ、賓客待遇でもてなすなどありえない。
その行動は、言ってしまえば郷間武に何の容疑もかけていない事の表れだ。
勿論暴行したのは事実だが、国家を狙った様な動きでないのなら、その裁きは日本の警察や司法に委ねるのが筋である。
「それはもちろん、エギール・レーンの顔を立てての事だ。郷間武が危険人物の可能性も十分あったが、こちらとしてはそれに勝る重要人物と位置付けていたからな」
柳鉄針エギールの方を見ながら、恩着せがましく言って来る。
だが当の本人は彼には目もくれず、真っすぐに巨体の人物を見つめていた。
何故なら――
「おっと、先にこのお方をご紹介するべきだったな」
彼女の視線に気づき、柳鉄針が大男を紹介する。
「このお方は中国の覚醒者管理局の理事をされている――神様だ。このお方の前で無礼な発言や振る舞いは控えて貰うぞ」
「鉄針、その物言いは客人達に失礼だろう」
「は、失礼しました」
「さて……私はくだらない腹芸をするつもりはない。改めて自己紹介しよう。私の名はシェン。エギール、態々君に引き取りを指定したのは……その条件として私と手合わせして貰うためだ。お前の力が噂通りか見せて貰おう」
――シェンの肉体から、この世界の人間ではありえない力を感知していたからだ。
――そう、異世界の力である魔力を。
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