第81話 期限
期限ぎりぎり。
日曜の夜。
「お待ちしておりました」
黒い仮面を付けた人物が大使館の前までやって来ると、中から黒服の男性がやってきて出迎えた。
「郷間武の身柄を引き取りに来た」
そこにいたのはエギール・レーンだった。
そのすぐ背後には、スーツ姿の神木沙也加が控えている。
「こちらへどうぞ」
二人は男のに案内され、大使館内の一室に通される。
談話室の様な場所だ。
「こちらでお待ちください。お飲み物をお持ちしましす」
男はそう言い残し、部屋を後にした。
「どうだ?」
黒服の男は女性に指示を出し、自身は別室へと入る。
そこに待っていたのは柳鉄芯だった。
「申し訳ありません。神木沙也加は確認できたのですが……」
「エギールは確認できなかったか」
確認とは、言ってしまえば鑑定である。
この男はレベル4の鑑定能力持ちの覚醒者で、案内と同時に二人の確認を行っていたのだ。
「申し訳ありません」
「気にするな。あれほどの化け物が、その辺りの対策をしていない訳がないからな」
自身の情報を簡単には探らせない。
強者ならば、それは当然の対策である。
「仮にアレが偽物だったとしても、神様なら容易く見抜かれるだろう。お前は彼女らを見張っておけ。私は報告してくる」
「は」
男は部屋をでて、女性の用意していたお茶とお菓子の乗ったカートを受け取りエギール・レーン達の待つ談話室へと戻る。
「失礼します」
そしてそれらを二人に振舞う。
「ありがとう」
神木沙也加は男に礼を言うが、それらには手を付けようとしなかった。
エギール・レーンも同じだ。
それを毒を警戒しての事かと男は考えたが、直ぐにエギール・レーンには毒が効かない事を思いだし、単に口にする気がないだけなのだろうと判断する。
間違ってもマスクをしているから飲食できないとは考えない。
Sランクダンジョンにおいて、彼女は普通に食事を取っていたと言う情報があるからだ。
「どの程度待つ事になるかお伺いしてもいいかしら?」
「担当の者が明日中国にたつので少しバタバタしておりまして、30分ほどお時間を頂く事になります。申し訳ありません」
神木沙也加の質問に、男が淡々と答えた。
「こちらがご迷惑をおかけしている訳ですし、どうかお気になさらずに」
迷惑とは、当然郷間武の行動だ。
柳鉄針側の目的が何であれ、フルコンプリート側が迷惑をかけた事には違いない。
なので名分は大使館側にある。
――大使館の一室。
「入れ」
「神様。エギール・レーンがやってまいりました」
許可を貰い室内に入った柳鉄針が、特注の椅子に座り、書類に目を通していたシェンに跪く。
「そうか。では彼女を地下の演舞場へ案内しろ」
シェンは椅子から立ち上がり、羽織っていたローブを脱ぎ捨てる。
「折角来てくれたのだ……」
全裸になったシェンの皮膚が変化し、黒く硬質化していく。
首から下は完全にその状態になり、それはさながら黒いボディースーツを身に着けているかの様に見えた。
「私自ら持て成してやらんとな」
シェンが口の端を歪め、獰猛に笑う。
その顔はまるで得物を狙う獰猛な肉食獣の様だった。
「エギール・レーン。お前の力のほどを確認させて貰うぞ」
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