第77話 見落とし
久しぶりに再会しました><
夜遅く。
10階建てのビルの外壁を、音もなく静かに昇っていく物達がいた。
――郷間武と郷間凛音と兄妹だ。
今現在、二人は勇気家を見張る人物と接触しようとしていた。
「ねぇ、兄さん。こんな事しなくても、エレベーターを使ったらよかったんじゃ……」
ビルの外壁は、郷間武の結界を壁に張り付かせて足場にして昇っている形だ。
先を進む兄に向って、妹である凛音が疑問符を投げかける。
「やれやれ。分かってないな。エレベーターや階段には、能力なんかで何か仕掛けがしてあるかもしれないだろ。まったく、凛音もまだまだだな。それに……」
「それに?」
「正義の味方がエレベーターや階段で昇って行くなんて格好悪いだろ?やはりここはスマートに外壁を昇るに限る」
「ああ、そう……」
仮に罠が仕掛けられていても、探索と鑑定を持つ郷間兄妹なら容易く抜ける事ができるはずである。
そう考えると後者が本当の理由なのだと直ぐに気づき、凛音が呆れて軽くため息をついた。
ビルの外壁を昇り切り、フェンスを越えて屋上に郷間達が降り立つ。
その一連の行動には結界が足場やクッションの様に駆使されており、ほぼ無音に近い状態だった。
「いたぞ」
対象を発見した郷間が、物陰に隠れつつ小声で凛音に告げる。
「中国人で、神王会って所に所属してるレベル4の能力者だ。」
と同時に、郷間武がフェンス越しに双眼鏡を使って勇気家を覗く不審者に鑑定を行う。
「神木さんの言う通りだったね。どうしよう?」
「もちろん制圧だ。ここまできてすごすご返るとか格好悪いからな」
「けど、相手はレベル4なんでしょ?」
郷間兄妹はレベル4だ。
相手と同レベルなので、数で優っている分有利である。
しかも相手は此方に気づいていない。
不意打ちをかければ、容易く制圧する事も可能だろう。
――但し、相手が強力な能力を持っていた場合は話が変わって来る。
「能力も大した物じゃないから安心しろ。不意打ちで一発だ。で、捕らえたら俺の結界で拘束してフィニッシュよ」
それを心配していた凛音だったが、郷間の答えにそれならと考える。
彼女の探索能力で周囲に人がいない事は確定しているので、素早く制圧できるのなら邪魔は入らないだろう。
――この時、郷間兄妹はひとつ大きな見落としをしていた。
「いくぞ」
郷間が飛び出し、凛音はその場から動かず能力で生み出した水の弓を構える。
その弓には水で生み出した矢が番えられていた。
先端が丸まっている事から、相手を傷つけるというよりは、制圧の補助用だと言う事が分かる。
「盗み見なんてしてんじゃねぇ!」
背後から急に声をかけられ、不審者が振り返ろうとする。
「なにっ!?」
だがそれよりも早く、郷間武の生み出した結界が相手の動きを封じる様に設置され、振り向きを阻止する。
「クレイスちゃんラブパンチ!」
慌てる相手の背中に、郷間は容赦なく渾身の拳を叩き込んだ。
相手がビルから吹き飛ばない様、フェンス側にも結界を張った状態で。
「がっ……あぁ……」
「ふ……俺にかかればこんなもんよ」
不審者がうめき声をあげ、その場に崩れ落ちた。
同レベル同士の攻撃を背後に食らった程度では、通常、一撃で倒される様な事はない。
もちろん、身体強化系とそれ以外なら話は変わって来るが、郷間武の能力は鑑定と結界だけである。
そのため、普通ならありえない結果だ。
それが可能だったのは、勇気蓮人によって施された2度の限界突破の魔法――リミット・オーバーのお陰である。
限界を大幅に拡張され、更に鍛えられた事によって彼の身体野力は大幅に上昇していた。
そのため、同レベル帯でも彼のフィジカルは頭一つ抜けていたのだ。
「さて、結界で縛って……」
倒れた相手を、郷間武結界を紐状にした物で縛ろうとした時――
「きゃあ!?お兄ちゃん!」
背後から妹の悲鳴が響く。
慌てて彼が振り返ると――
「凛音!」
苦し気にうめく凛音の背後に、彼女の腕をひねり上げる痩身の男の姿がその目に飛び込んできた。
「なっ!?何でここに人が!?」
凛音のスキルによって、この場に他には人がいないはず。
そう思い込んでいた郷間武は驚愕する。
だが間違いなく、その男はそこにいた。
郷間兄妹の過ち。
それは――
鑑定や探索を阻害するマジックアイテムの存在を失念していた事だ。
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