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第74話 暇つぶし

「おおぉぉぉぉぉぉぉ!!」


勇気蓮人が雄叫びを上げ、その全身から黒いオーラが噴き出す。

禍々しい力の波動は周囲を――空間すらも歪めてしまう。

その姿をもし弱者が目にすれば、それだけで驚愕し戦意を失いかねない禍々しさである。


だが――


「相変わらず無駄が多い」


体外にオーラが噴き出すのは、力をきちんとコントロールできていない証だ。

外に漏れ出れば、それだけエネルギーを無駄にする事になる。


「まあ人間に、完璧に制御しろというのはどだい無茶な話か」


特殊スキルである破壊の化身化は、戦闘能力と同時に、怒りや闘争本能を限界を超えて高める効果があった。

神によって生み出された戦闘生命体の私ならともかく、通常の生物では、意識を保ってそれをコントロールするのは不可能に近い。


――神世の時代。


神々による大きな戦い――ラグナロクが起こった。

その始まりも、理由も私は知らない。

分かっている事は、神々が2つの陣営に分かれお互いを殺し合っていた事だけだ。


そんな世界の命運をかけた神々の戦いの中、対神用の戦闘兵器として開発されたのが私だった。


だが、その開発は戦争に間に合わなかった様だ。

私が目覚めた時、既に神は世界の何処にも存在していない状態となっていた。

恐らくだが、共倒れになってしまったのだろう。


――自分の生まれた使命の喪失。


そんな生きる意義のない私の中にあったのは、強くなる事、そして、強き者と戦うという2つの衝動だけだった。

だが、神と戦うために生み出された私を満足させる生物など居る筈もなく。

そしてそれは同時に、私の力を底上げする為の存在がいない事を意味していた。


戦闘本能を満たせず。

また強くなるための強者の吸収も出来ない。

そんな私が行ったのは、強者を自らの手で生み出す事だった。


居ないのなら生み出せばいい。


配下の魔人を生み出し。

魔物を生み出し。

私はラグナロクで唯一残った大陸の蹂躙を始める。


苦境に立たされた生物の進化を期待して。


「おおおおおおぉぉぉぉぉ!!」


勇気蓮人が獣の様な雄叫びと共に、突っ込んで来た。

その手に握る魔剣が黒く蠢く。


主の力を喰らい、それを刃となす魔剣グルメ。

その性質上、使用者の力が上がれば上がる程その破壊力を増す剣だ。


また、切り裂いた相手の力を喰らい。

そのエネルギーを主へと還元する効果も持ち合わせている。


素晴らしい剣だ。


だが――根本的な力が足りない。


「ふっ……」


私はそれを片手で容易く受け止めてみせる。

どれ程素晴らしい武器であっても、扱う物の力が足りなければ意味がない。


「ぐうぅぅぅぅ……」


勇気蓮人は、現段階における私の最高傑作だった。

だがそれでも全く足りないのだ。


奴は私を一度倒した気でいる様だが、あれは所詮私の断片でしかない。

本来の3分の1も力を発揮できていない様な状態の私に、ギリギリ勝てる程度では話にならないのだ。


もっと――


もっと強くなってもらわねば困る。


「ぬおおおおおぉぉぉ!!!」


勇気蓮人が剣を振り、そして本能に従いスキルを放つ。

私はそれを全て片手だけで、その場を動く事なくいなした。


「さて、現状の確認はこれぐらいでいいだろう。余り消耗させるのもあれだからな」


勇気蓮人の力は大体把握できてはいたが、念のために再確認しておいた。

万一、想定程の力がなかった場合、彼を死なせてしまう可能性があったからだ。

出来ればそれは避けたい。


「ぐおおおおおおおあああああああ!!」


「それでは、始めるとするか。ふん!」


勇気蓮人の一撃を左手で受け止め、魔剣を強く握る。

そのさい態と掌の防御を弱め、剣の刃で傷を作っておく。

これからする事に、この剣の役割は重要だ。


「大人しくして貰おうか」


重力を発生させる。

これはダンジョンで死んだ、能力者を取り込んで得た力だ。


ダンジョン内で死んだ者は、外に運び出す事が出来ない様にしてあった。

その死体を私が吸収する為に。


正直、力は貧弱過ぎて私には何のプラスにもならない。

だが、特殊な能力は何かの役に立つかもしれないからな。


「ぐうううぅぅぅぅ!!」


能力で産みだした局所的な重力。

それが勇気蓮人の体を地面に叩きつける。


人間が使っていた時は、当然これ程の威力は無かった。

このパワーは、私用に改良した結果だ。


「では、始めるとしよう」


勇気蓮人に左手を向けると――


≪マイロードをどうするつもりです!≫


アクアスからの念話が届く。

私に彼を殺す気が無い事は理解しているだろうに、心配性で困るな。


「なに、大した事はしない。ただ、限界突破を行うだけだ」


≪な!?≫


通常の生物は、限界突破を行えるのは精々2回だ。

だが勇気蓮人には特殊な資質があったため、それを4回行えている。


そんな人物を、頑張って見つけてくれたエギール・レーンには感謝だ。


≪そんな事をすればマイロードの命が!!≫


「安心しろ。勝算あっての行動だ」


いくら特殊な資質があるとは言え、これ以上の限界突破は死に直結している。

だからこの場を用意したのだ。


「このフィールドの回復効果と。アクアス、貴様の回復能力。それに加え、破壊の化身化(バスター・モード)による大幅な力の強化と痛覚の鈍化。更には、魔剣を通じての俺の力の譲渡もある」


これだけの条件が揃えば可能なはずだ。

限界を遥かに超えた限界突破すらも。


≪上手く行く保証など……≫


確率は……まあ良く見積もっても5分5分と言った所だ。

失敗すれば、当然勇気蓮人は命を落とす事になる。


「なんだ?貴様は信じていないのか。勇気蓮人――勇者を」


≪……≫


だが、私は確信している。

勇気蓮人ならば必ず試練を乗り越え、私の横に並び立ってみせると。

何せ、彼は私がこの世で唯一認めた‟ライバル候補”なのだから。


「まあどちらにしろ、貴様の意見を聞き入れる気はない。死なせたくないのなら、死ぬ気で勇気蓮人を回復する事だな」


私は限界突破の為に魔法――リミット・オーバーを発動させる。

勇気蓮人の肉体が拒否反応からそれをレジストしようとするが、それをこじ開け、魔法を強制的に捻じ込んだ。


「がああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」


奴の雄叫びがそれまでと違う、苦痛を訴える物に代わる。

痛覚を鈍化して尚、この苦しみ様だ。

もしそのまま限界突破させていたら、きっと精神が壊れていた事だろう。


「まあ頑張れ」


ここから先、私にできる事は傷からエネルギーを供給する事だけだった。

一言でいうなら、糞暇だ。


藻掻き苦しむ勇気蓮人を見つつ、私は呟く。


「暇つぶしに、奴のやっていたゲームでもしてみるか」


空いた左手でゲートを開き、私は奴の部屋にあった小型のゲーム機をつかみ取る。

電源を入れると『義妹を育てろ!エンジェルハニー♡完全版』というタイトルが浮かび上がってきた。


軽く正気を疑う様なタイトルではあるが、勇気蓮人があれ程入れ込んでいるのだ。

きっと何か輝く物があるのだろう。

私は取り敢えず、ロードを選択してみた。


すると少女が――


「ん?誕生日プレゼントはドレスが欲しいだと?」


タイトルから、これが義理の妹を育てるゲームだと私は推測する。

何故親ではなく血の繋がらない兄が育てるのかは意味不明ではあるが、まあゲームなんて物は、そう言う物だとそこはスルーしておく。


「義妹を育てるというのなら、これ一択だな」


5つある選択肢から、私は迷わず『寝言は寝てから言え』を選択する。


欲する物があるならば、自らの手でつかみ取る物だ。

他者にねだる様では成長など見込めない。

なので本気で義妹を育てるのなら、この選択一択だろう。


「強くなるがいい。それがこそが長く生きる秘訣だ……む」


画面内の義妹が私の選択に頬を膨らませ、『お兄ちゃんなんて嫌い!』と吐き捨ててどこかに行ってしまった。

親の心子知らずというのは、こういう事を言うのだろう。


選択肢に追いかけますかと出てきたが、当然私は無視するを選んだ。


――怒りは強さへの原動力になる。


強くなれ。

義妹よ。


私は勇気蓮人の雄叫びをBGMに、こまめにセーブしつつゲームを進めていく。

その先に待つのがバッドエンドとも知らずに。

新作『ハーレム学園に勇者として召喚されたけど、Eランク判定で見事にボッチです~なんか色々絡まれるけど、揉め事は全てバイオレンスで解決~』を投稿しました。


勇者の優れた遺伝子を残すために呼び寄せられた勇者達。

その中で最低の評価を受けた主人公だが、別件で神のチートを貰っており実は最強無敵だった。

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是非こちらも読んで頂けると嬉しいです><

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― 新着の感想 ―
魔王さま、さすがわかってらっしゃる 慈悲などない これがきっかけでバスターモードを凌駕する伝説のヤサイパワー的なのに目覚めたりして
[一言] これを善意でやってるんだから笑う。
[良い点] 感想欄読んで把握した。他人のセーブデータに上書き保存か、確かにやったやつへの怒りが頭の中ぐるぐるするわ。
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