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第68話 ヒロイン

「吹っ飛びなさい!」


「やあぁ!」


頭部から木の生えた山の様な巨体の蛙――ダンジョンボスを、私と聖奈の体当たりで仰け反らせる。


「閃光刃!」


そして仰け反り隙だらけになった魔物の腹部に、姫の一撃が放たれた。


――閃光刃。


それは姫がレベル7で手に入れた、必殺の一撃だ。

その輝く光の刀身は、見る者全てを魅了する程に美しい。


だがその美しさと裏腹に、その太刀筋は魔物の腹部を容赦なく切り裂いた。


「ぎゅぎゅぎゅぎゅぎゅぎゅあ!!!」


魔物が断末魔の雄叫びを上げ、その場に崩れ落ちる。

そして魔石とドロップ品だけを残して消滅した。


私達の勝利だ。


「さっすが姫!お疲れ様!」


「お疲れ様です。姫宮さん」


私と聖奈は姫の横に着地する。

いつ見ても、彼女の剣技はほれぼれする程の美しさだ。


「うん、お疲れ……」


誰もが見ほれる絶世の美貌を持ち。

強い意志を持った剣の達人。

更に無口で、そのくせ実はちょっと照れ屋。


私にとって姫宮零という女性は、正に至高のヒロインと言える存在だった。


当然ゲーム制作の際には、彼女をモチーフにしたキャラをメインヒロインにする予定だ。

更にそのライバルキャラには、性格の悪い全身黒鎧の女を起用する。

まあそれが誰かは言うまでもないだろう。


ダンジョンから放り出され私達は、外で待ち構えていた取材陣に適当に手をふってメディカルルームへと向かう。

そこで30分ほど健康チェックを受け、異常なしと出てからやっと解放された。


私は専用の休憩室で椅子に腰かけ、用意されていた栄養ドリンクを一気飲みする。


「げーっぷ」


「姉さん……流石にそれはちょっと……」


一気飲みしたら豪快なゲップが出てしまい、妹に非難されてしまった。

お小言が始まる前に、私は適当に謝って別の話題を振る。


「ごめんごめん。まー、でもあれよね。ここのボス、全然大した事なかったわね」


「うん……」


私の言葉に姫が頷いた。


実際の所でいえば、別に楽勝だった訳でもなんでもない。

レベル7の能力者が4人居て尚、戦いは1時間近くに及んでいた訳だし、寧ろ手強い相手だったと言っていいだろう。


――だがそれでも、大した事が無いと思わざるを得なかった。


日本のSランクダンジョンで出くわしたイフリートなる魔人と比べれば、その強さは月とスッポンレベルだ。

もしあの魔人と同等クラスがオーストラリアのダンジョンに現れていたなら、良くて撤退、最悪全滅もあり得ただろう。


「エギールの……言った通り……」


「そうですね。でも、あの話本当なんでしょうか?」


「何とも言えないわね」


日本のダンジョン攻略後、エギールは自分の事を異世界から来た勇者と私達に説明している。

そしてあの化け物じみた強さの魔人は、異世界の魔王がダンジョンに干渉した結果だと言っていた。

狙いは自分なので、他のダンジョンでは魔人は出て来ないとも。


普通に考えれば、胡散臭い事この上ない話である。

だが彼女の強さを目の当たりにした以上、絶対ありえないとは否定しきれない。

それ程までに、エギール・レーンの強さは出鱈目な物だった。


「まあ信じるにせよ、信じないにせよ。他言は絶対止めておいた方良いってのは確かね」


日本のSランクダンジョンクリア後、どういう事か詰め寄った私達には、事情を話す代わりに出された条件がある。

それは絶対他言しない事だった。


そしてもし約束を破ってエギールが不利益を被った場合、どんな意図であろうと、それは攻撃と判断して報復すると彼女は明言している。


「流石に、レーンさんを敵に回すのはゾッとしませんもんね」


「まあね」


エギールが本気を出せば、私達3人がかりでも全く勝負にならないだろう。

敵に回していい事など何もない。

まあそもそも約束して話を聞いている以上、破るつもりは最初からないが。


私はタブレットを手に取り、ネットニュースを確認する。

その中の一つ――


「ん?」


(NEW)エギール・レーン姫宮グループに移籍の文字に目が止まる。

どうやら彼女はうちに入った様だ。


一瞬私達を見張る彼女の姿が浮かんだが、まあそんな訳はないだろう。

こっちが信じられず一々そんな面倒臭い真似をするぐらいなら、初めっから秘密など話さなければいいだけの事だ。


「どうしたの姉さん?」


「エギール・レーンが姫宮グループに移ったみたいよ」


「え!?そうなの?」


「ふ、ここは先輩としていっちょ揉んでやらないとね」


まあ揉むというのは勿論冗談だ。

相手の方が圧倒的に強いし、そもそも先輩風をふかすのは性に合わない。


「同じなら……手合わせ出来る」


エギールが移ると聞いて、姫が凄く嬉しそうだ。

彼女は剣の天才で、手合わせなんかは常に格下が相手だった。

だがこれからは、強い相手とも訓練できる様になる。

それが純粋に嬉しいのだろう。


と分かってはいても、姫を取られたみたいでなんかちょっとイラっとする。

おのれエギール・レーン、私の(メインヒロイン)(たぶら)かすとは許すまじ。


……はっ!

まさか!?


その時、私の金色の脳細胞が恐るべき真実に辿り着いてしまう。

エギール・レーンが、姫に近づくために姫宮グループに入った事に。


きっとエギール・レーンは姫に近づいてそのデータを取り、ゲームにヒロインとして勝手に登場させるつもりに違いない。


姫にはそこまでする価値がある!


「そんな事の為に姫を惑わすなんて。なんて卑劣な……勇者にあるまじき行為!」


「姉さん?」


「こうなったら……こうなったら私がエギール・レーンの野望を砕く!」


私の一念発起に、姫が不思議そうに首を傾げ。

聖奈が困った様な顔を向ける。


影に潜む闇との戦いなど、純粋な二人が知る必要などない。

だから私はにっこりと微笑んで、こう告げる。


「安心して。姫は私が守るから!」

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