第59話 しょうわるさん
「ちょっといいかしら?」
協会で能力者としての鑑定――当然偽装魔法で余計な物はばれないようにしてある――と登録を終え、建物から出ようとした所で急に女性に声をかけられる。
少し聞いた事のある声だなと思い振り返ると、そこには見知った女性が立っていた。
「初めまして。私は姫宮グループ、ダンジョン攻略企画人材統括部の神木沙也加よ」
神木沙也加――それが性悪女のフルネームの様だ。
彼女は営業スマイルで名刺を手渡して来る。
俺がエギール・レーンとは気づいていないはずだが、一体何の用だろうか?
「あなた、レベル6の勇気蓮人さんよね?もしよければ、この後少し時間を貰いたいんだけどいいかしら」
俺は「ん?」となる
能力者として今登録したばかりにも拘らず、この女はその情報をどうやって手に入れたというのだろうか?
因みにレベルを6にしたのは、その方がフルコンプリートの宣伝になると思ったからだ。
目立つと面倒事が増えるのであまり好ましくはないが……其の辺りはもうあ割り切っていく事にする。
まあ名義貸しをするだけなら。それ程問題にもならないだろう。
「ふふ、なんで知ってるんだ?って顔をしてるわね」
「ええ、まあ……」
「そこは姫宮グループの力とだけ言っておくわ」
教えてくれるつもりはない様だ。
まあSランクダンジョンの攻略を姫宮が担当していた事を考えると、協会と太く繋がっているって事だろう。
いわゆる癒着って奴だ。
「立ち話もなんだし、そこのカフェでどうかしら。もちろんおごりよ」
協会内部はかなり広く、一般開放されている大きなカフェなども設置されていた。
性悪さんがそこで話をしようと言って来る。
目的はまあ、恐らく勧誘だろう。
俺はフルコンプリートの宣伝のために登録しているので、当然その誘いを受ける事はない。
だから本来なら即「あ、間に合ってますんで」と返すのだが、彼女には少し気になる部分があった。
それがどうしても気になってしまい――
「分かりました」
俺はオッケーの返事を返した。
移籍をちらつかせつつ、引き出したい情報を引き出すとしようか……
「好きな物を頼んでちょうだい」
「じゃあ遠慮なく」
席について、取り敢えずバナナラテを注文しておいた。
コーヒーの中には数千円する謎の物もあったが――何でそんな糞高いんだよ――安めの物で済ませておく。
何故なら断るから。
それなのに高い物を頼むというのは、流石に良心の呵責がな。
「回りくどい言い方をするのもアレだから、単刀直入に言うわね。姫宮グループで働く気はないかしら?うち以上に好条件の所はないと思うわ」
「天下の姫宮グループに勧誘されるなんて、光栄ですね。所で、しょう――じゃなかった、神木さんも能力者なんですよね?」
やばいやばい。
危うく渾名で呼ぶところだった。
気を付けねば。
いくら嫌いなタイプの相手とは言え、流石に面と向かって性悪呼ばわりはアレだからな。
「ええ、まあ一応そうではあるわね。でも、どうしてわかったのかしら?」
「並々ならぬ雰囲気が……ってのは冗談で。俺、実は鑑定能力もあるんですよね」
郷間の持つ鑑定能力も、既に取得済みである――当然レベル4まで。
普段なら勝手に他人を鑑定なんてしないのだが、嫌いな相手だったのでこっそり鑑定してやった。
なんか弱点ないかなと思って。
そこで俺は不思議な物を見つけている。
それは彼女の特殊能力だ。
「――っ!?」
俺の言葉に性悪さんが顔色を変え、此方を睨みつけて来た。
まあ勝手に自分のステータス覗かれたら、そら怒るわな。
普通ならここでトーク終了なんだろうが、彼女は俺をスカウトしたがっているからな。
その状況を存分に利用させて貰うとしよう。
「神木さんはダブル能力者で、一つはオーラウェポン」
――オーラウェポン。
それは武器にオーラを纏わせて、破壊力を上げるという能力だ。
これはどちらかと言えば、ハズレに分類される。
何せ近接して戦わないと駄目な訳だからな、剣とか槍術を習得していないと生かせない。
一応弓辺りを使えばその限りでもないが、そっちはそっちでやはり修練が必要になる。
まあこれはどうでもいい。
俺が気になったのは、もう一つある能力の方だった。
「そしてもう一つが――魔法少女」
そう、彼女のもう一つある能力。
それは魔法少女だった。
うん、意味不明。
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