第43話 火の鳥
何故?
どうして殺したはずのこいつがここにいる?
その疑問が強く浮かぶ。
似た姿の別の存在なんて事はありえない。
何故ならこいつは『久しぶりだな、勇者』と、俺を見ながらそうハッキリ口にしたのだ。
初対面の相手に久しぶりなんて声はかけない。
ましてや俺が勇者だった事など、知りようもない事だ。
つまりこいつは……正真正銘、俺の知る炎の魔人という事になる。
「貴様……何故生きている……」
「ふ、知りたいのなら力ずくで聞き出して見るがいい」
俺の言葉に、炎の魔人は挑発的に返して来る。
「いいだろう」
かつては破れた相手だが、流石に今の俺の敵ではない。
望み通り力ずくで奴の口を割らせて貰う。
「あんた、アレと知り合いなの?」
玲奈が胡散臭げに訪ねてくる。
俺とした事が、イフリートに気を取られて完全に彼女達の存在を忘れていた。
「まあな……」
流石に今のやり取りの後、初対面と言うのは苦しい物がある。
俺は言い訳を諦め、素直に認めておいた。
言い訳は、こいつを倒してから考えればいいだろう。
「ダンジョンのボスと知り合いとか、突っ込み所満載だけど……まあ置いといてあげるわ。今は、アレを倒す事に集中するわよ」
「それなんだが、出来れば皆は下がっていてくれないか?アレの相手は私がする」
「はぁ!一人で戦う!?それ何の冗談よ!まさか、あたし達が足手纏いって言うつもりじゃないでしょうね?」
「そう言う訳じゃない」
この場にいるレベル7の面子なら、仮に俺抜きだったとしてもイフリートを倒す事は可能だろう。
一人で戦いたいのは、俺自身の手でぶちのめしたいのと、こいつから何故生き返ったのかを聞き出さなければならないからだ。
他のメンバーがいると、それがやりにくくなってしまう。
「だったらなんでよ?理由を言いなさい」
「揉めている様だな。有象無象が邪魔な様なら、この私が消し炭にしてやろうか?かつての貴様の仲間の様にな」
「貴様……」
イフリートの言葉に、カッと頭に血が昇る。
こいつはもう一度八つ裂きにしてやらないと気が済まない。
「やれるもんならやって見なさい!」
「はっ!この台場様を舐めんなよ!」
「ハオウリュウコショウゲキハガアルカラ、マケルキガシナイヨー」
「ははは!昔の誰かさんを見ている様で笑えるな!」
イフリートが楽しげに笑う。
その顔を見て、腹の中から無尽蔵に怒りが湧き上がって来る。
≪マイロード。どうか気をお沈めください≫
……分ってる。
極度な怒りは、《《あのスキル》》のトリガーになってしまいかねなかった。
ここで発動させるわけにはいかない。
「まあ確かに……本来のSランクダンジョンのボスなら、お前達でも勝てただろう。だが運が悪い。ここだけは特別だ。何故なら――」
イフリートが頭上に手を上げると、その掌に小さな瓶が姿を現した。
中には赤黒い液体が満たされている。
「このダンジョンのボスである私には、勇者と戦うための力を授けられているからな!」
イフリートが手の中の瓶を握りつぶす。
紅い飛沫が飛び散り、それが奴の体に吸い込まれていく。
「ぬおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
途端、イフリートが雄叫びを上げる。
その身に纏う炎が爆発するかの様に吹きあがり、奴の姿が見る見るうちに大きく膨らんでいく。
「これは……」
やがてその姿は人型から、巨大な翼を持つ鳥の様なシルエットとなる。
火の鳥。
そんな単語が頭を過った。
「さあ、あのお方から頂いた力を見せてやろう」
イフリートがその翼を奴が大きく広げると、その体が上空高く舞い上がる。
「――っ!?」
上空に登った奴の頭上に、小さな炎が生み出された。
それは爆発的に膨らみ、あっという間に視界を覆いつくさんばかりの――太陽を思わせるほど巨大な火球へと成長する。
「何……これ……」
「マジか……」
「……」
「コレハ……」
明らかに桁違いの力。
それを目の当たりにし、他のメンバーは呆然自失となっていた。
そのため、逃げる事も忘れただ突っ立ているだけだ。
いや、ただ一人――姫宮だけは俺の方を真っすぐ見ていた。
とは言え、彼女にも何か出来る訳ではない。
逃げてももはや間に合わないと分かっているから、此方を見ているのだろう。
俺なら何とかできるのではないかと言う、期待を込めて。
「さあ……消えるがいい。インフェルノフレイム!」
イフリートが翼を振り下ろすと、頭上の火球が落ちて来る。
尋常ではないエネルギー。
俺なら直撃しても耐えられるだろう。
だが、周りの皆はそうはいかない。
――待っているのは確実な死だ。
「本気でやるしかないな」
後で玲奈あたりにグダグダ言われそうだが、出し惜しみは無しだ。
流石に……周りの奴らを見捨てるなんて論外だからな。
「ダストン、貴方の力を使わせて貰うよ……」
俺はかつての仲間の名を呟く。
イフリートとの敗戦。
俺を逃がす為、捨て石となってその足止めを買って出てくれた男の名を。
「フォース・シールド!!」
俺は頭上に両手を掲げ、ダストンから習得したスキルを発動させる。
広範囲に渡る敵の攻撃を受け止め、仲間を守る為の盾。
まさにダストンと言う男の生き様その物のスキルだ。
――俺達の頭上に、巨大な光る盾が生み出される。
≪マイロード。微力ながらお手伝いいたします≫
そこにアクアスの力が流れ込み、盾が青く輝いた。
「受け止める!」
フォース・シールドにイフリートの放った火球がぶつかり、閃光が走る。
視界を焼き尽くす程の、強烈な赤と青の閃光が。




