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第4話 凛音

「頼む蓮人!お前の力を貸してくれ!」


そう叫びながら、悪友の郷間が床に頭を擦り付けた。

いわゆる土下座という奴だ。


奴に異世界帰りってなんだよって詰め寄られ、渋々話した途端これである。

まさか悪友である郷間に、そんな真似をされる日が来るとは夢にも思わなかった事だ。


「はぁ……わかったよ」


本当はもう、戦闘なんてしたくはなかった。

もしこれが別の誰かだったら、きっと俺は迷わず断っていただろう。


だが他でもない悪友のピンチだ。

正直気は進まないが、今回だけは我慢してこいつの為に戦ってやる事にする。


「本当か!ありがとう!」


「けど、俺の力がどれだけ通用するかは分からないぜ?」


俺も一応、異世界では勇者と呼ばれた身ではある。

強さには自信があった。

だが、それはあくまでも異世界での話だ。


強力な現代兵器すらも圧倒する魔物を倒す様な能力者と比べてと言われると、正直何とも言えない物がある。


「大丈夫だって!勇者ならいけるって!」


まるでもう問題が解決したかの様に、郷間がテンションを上げる。

一応こいつの会社が権利を手に入れているのは最低ランク付近らしいので、流石に何とかなるとは思うが。


「一緒にこの業界でてっぺん取ろうぜ!」


「何アホな事言ってやがる。手伝うのは今回の一件だけだ」


「ははは!まあその話は後だ!ちょっと凛音(りんね)に電話するわ」


郷間がスマホを取り出し、電話を掛ける。


「凛音!例の件、何とかなりそうだぞ!マジマジ!偉大な兄を信じろって!とにかく今からダンジョン攻略の準備しろ!大至急3人分だ!!え?どこって!?蓮人ん家だよ!お前も知ってるだろ!」


凛音ってのは、郷間の妹の名前だ。

俺も以前、何度か顔を会わせた事がある。

たしか俺達より二つ下だったはずだから、今はもう19か。


つか……今大至急って言ったか?


まさか今から行くつもりじゃないだろうな。

俺にはこれから、ゲームでリリアと楽しく過ごすという大きな予定があるんだが?


「凛音が10分で来るってよ!」


「俺は忙しんだが?」


「何言ってんだ。おばさんから今日は一日暇だって聞いてるぞ。善は急げだ」


頼みごとをしておいて、相変わらず図々しい奴だ。

まあ仕方がない。

嫌な事は、さっさと終わらせた方がいいって言うしな。


「はぁ……分かったよ」


取り敢えず、だぼだぼのスウェットから俺は動きやすい服装に着替えておく。


「お、わかった」


ちょっとして、郷間のスマホから着信音が流れた。

どうやら凛音が到着した様だ。

郷間に促されて外に出ると青のワゴンが止まっており、茶髪の女性が運転席に座っていた。


扉を開けて郷間が助手席に乗り込み、俺は後部座席へと座る。


「お久しぶりです、蓮人さん」


「ああ、久しぶり」


凛音は昔っから結構な美少女だったが、6年たって滅茶苦茶綺麗になっていた。

これだけ顔が良ければ、さぞやモテモテだろう。

因みに、郷間は親父さん似なのでどちらかというと不細工寄りである。


「蓮人さんが戻って来てくれて、本当に良かったです。私もお兄ちゃんもすっごく心配したんですよ」


「心配かけてすまない。まあ……色々事情があったんだ」


「おい聞け!実は蓮人はいせか――あだっ!?」


郷間が余計な事を言おうとしたので、慌てて髪を掴んで黙らせる。

俺が異世界帰りの勇者である事は秘密だと、着替えている時に話したばかりだというのに……全くこいつは。


「余計な事は喋んな」


「何だよ!凛音ならいいだろ!」


良くないから止めたんだろうが。

馬鹿かこいつは?


ここまでならいいとか言い出したら、その範囲がんどん広がっていくのは目に見えているからな。


「あはは。隠さなくってもいいですよ。分かってますから」


「え!?」


ひょっとして、凛音も鑑定の力を持つ能力者なんだろうか?


「蓮人さんも能力者なんでしょ?それも戦闘系の。急にお兄ちゃんが電話してきて、蓮人さんが車に乗り込めば。そりゃ分かりますよ」


そう言って彼女はウィンクする。

まあ大外れなんだが、そう言う事にしておこう。


「ああ、まあそうなんだ」


「どんな能力なんです?」


「えっと……身体能力強化かな」


ネットでちょろっと見た能力を口にする。

多分比較的ポピュラーな物の筈。


「大当たりじゃないですか。あたし達兄妹はどっちも非戦闘系だから、羨ましいですよ」


「ははは。でも、兄妹二人が覚醒するって凄い事だよな?」


確か能力に覚醒するのは10万人に1人程度だったはずだから、兄妹そろって覚醒するってのは、とんでもなく低い確率になる。

花形の戦闘系ではないとはいえ、宝くじを引き当てる以上の当たりと言えるだろう。


「おいこら凛音、いつまでくっちゃべってんだ!さっさと出発しろ!レッドライトは待ってくれないんだぞ!」


「はいはい」


郷間にせかされ、車が出発する。


「そんなに余裕がないのか?」


さっさと向かう辺り、相当余裕がないのだろう。


「まだ数日はあるんだが……まあちょっとな……」


何故か郷間は言葉を濁す。

何か事情でもあるのだろうか?


「多分お兄ちゃん。失敗した時の事考えてるんですよ。赤信号になったら、ギリギリで他所に依頼するレベルの比じゃないぐらい、国から高額なペナルティが課せられちゃいますから」


「あ!こら!言うなよ!」


「成程」


口では行ける行ける言ってはいるが、なんだかんだで郷間は不安なんだろう。

だから失敗するのなら、少しでも取り返しがつく――ついても三億のマイナスだが――様に挑戦したい訳だ。


「蓮人、あのだなー」


「別に怒っちゃいないさ。俺の実力を見てないんだから、無条件で信頼しろと言う方が無茶ってもんだろ」


まあ奴の立場なら、いろんな事に不安になるのも無理はない。

行ける行けると連呼していたのも、きっと自分の不安を払拭する為だったんだろう。


「にしても、凛音ちゃんは余裕だね?」


「あはは。あたしは保証人になってませんから」


「ああ、成程……」


会社が倒産しても、彼女には返済の義務が発生しない様だ。

道理で悲壮感が違うと思った。


「お父さん達が必死なのに、一人気楽にしてる私の事……薄情だと思います?」


「思わん!」


明らかに俺への質問だったが、代わりに郷間がそれに答えた。


「これは俺と親父が始めた事業だからな。お前はお前の生きたい様に生きればいいんだ」


「郷間……」


奴の男らしい言葉に、思わずカッコイイと思ってしまった。

きっと凛音もそんな兄の気持ちを分って入るからこそ、敢えてドライな感じに振る舞っているんだろうと思う。


「それに……今の俺には頼もしい相棒がいるからな!蓮人!二人でこの業界のトップを――「断る!」」


戯言を言おうとしていたので、俺は迷わず断りを入れる。

トップを取りたいなら、親父さんと二人で勝手に頑張ってくれ。

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